August 18, 2017

危機一髪を有効に活かす方法

悲惨な交通事故が絶えません。


自転車に乗っていた人が被害者になる事故も日常茶飯事です。つい昨日のニュースでも、自転車に乗っていた男性が大型トレーラーにはねられ、頭などを強く打ち死亡した事故が報じられていました。運転手は、『ドンという大きな音がしたので車を止めると、車の後ろに人が倒れていた』と話しているそうです。

運転手は、音がしたので、と全く他人事のようです。ニュースを読んだだけなので、この事故について、それ以上のことは知りません。何らかの不幸な偶然が重なったのかも知れません。運転手が言うように、気づかないまま自転車に乗った被害者をひいてしまっていたのかも知れません。

しかし、一般的に考えた時、運転手が不可抗力だったかのような供述をしていても、そうでなかった可能性は十分にあります。何らかの過失、無謀な運転、あるいは極端な話ですが、イライラして、自転車に乗った人が死ぬかも知れないとわかりながら、危険の回避を積極的にしなかった可能性だってあります。

Close Call Database被害者が死亡した場合、目撃者でもいない限り、真相は解明されない可能性があります。多くの加害者は、自分に都合のいい供述しかしないでしょう。結果として、不幸な事故として片づけられ、本当は重い過失があったのに、たいした刑事罰がつかないケースが起きていても不思議ではありません。

クルマと自転車の事故では、当然ながら圧倒的に自転車側の被害が大きくなります。クルマの方には、ほとんど被害がなくても、自転車に乗っていた人は、はずみで頭を打つなどをして死亡してしまうケースも少なくありません。死亡してしまったら、相手の過失を指摘することすら叶わないのです。

まさに「死人に口なし」です。もしかしたら、重過失があったり、それこそ未必の故意で殺人罪に問われるべき案件であっても、不可抗力の不慮の事故になってしまうかも知れません。被害者としては、死んでも死にきれない悔しい事故であっても、どうしようもありません。

最近は、動画が撮影できるカメラを自転車に取り付ける人がいます。カメラも小さく高性能になりました。クルマのドライブレコーダーのような用途で動画カメラを使い、万一の事故があった場合に、その録画データを必要に応じて証拠として使おうと考える人もあるようです。

サイクリストにとっての自衛策の一つです。もちろん、有効に活用できるケースもあるとは思います。でも、交通事故があった場合、このドライブレコーダー、どれほど役に立ってくれるでしょうか。当然ながら、決定的な瞬間、あるいは証拠として使えるような場面、角度で記録できるとは限りません。

Close Call Databaseうまく撮れていたとしても、自分が生きていれば証拠として使えますが、死んでしまったら、それも出来ない可能性があります。その場で加害者が目ざとくカメラを見つけ、やましいことがあれば、証拠隠滅してしまうことだって考えられます。

破損してデータが取り出せない可能性もあります。幸い、そのどちらも免れたとしても、警察がカメラに気づいてデータを取り出し、解析して原因解明に役立ててくれるでしょうか。検察が裁判で犯人の重過失を証明する証拠として使ってくれるでしょうか。

残念ながら、そのあたりについて、私は確たることを言える材料を持っていません。ただ、警察が自転車に取り付けられたドライブレコーダーを活かした、加害者の重過失を暴いた、といった事例を聞いたことがありません。あるのかも知れませんが、寡聞にして知りません。

単に、ドライブレコーダーがまだあまり普及していないからかも知れません。でも、警察にとっては日常茶飯事である交通事故処理において、自転車についていたかも知れないドライブレコーダーなんて、いちいち調べないという可能性もあるのではないかと思います。

おそらく、事故が轢き逃げだったら、犯人逮捕の重要な手がかりになりうるので調べるでしょう。しかし、状況がよくある事故と判断されれば、わざわざ時間と手間をかけて、壊れたドライブレコーダーの解析までしそうもない気がします。海外では、実際に警察の怠慢が指摘される事例もあるようです。

Close Call Databaseでは、自転車に取り付けるドライブレコーダーは意味がないのでしょうか。いや、そんなことはない、と考えている人がいます。アメリカ・コロラド州、ボルダーに住むサイクリストでソフトウェア開発者の、Ernest Ezis さんです。ある方法を思いつきました。

それは、“Close Call Database”を立ち上げることでした。日本語にするなら、「危機一髪データベース」とでも言うべきでしょうか。サイクリストたちが危ない目にあった時、間一髪で事故を免れたようなケースを、愛車に取り付けたドライブレコーダーで撮影出来ていたら、それを投稿してもらおうと言うのです。

もちろん、事故になって九死に一生を得たケースでもいいわけですが、要するに悪質なドライバーの無謀な運転シーンが撮れたら投稿してもらい、それをデータベースにしようというのです。サイクリストたちがドライブレコーダーで記録した、悪質なトライバーの動画をみんなで共有しようという試みです。

クルマを運転するドライバーの中に、サイクリストに対して、危険極まりない運転をする人がいることについては、多くの日本人サイクリストも同意すると思います。まるで、サイクリストに対して恨みでもあるかのように、幅寄せなど、意図的に危険な行為をする人もいます。

Close Call Database自転車が邪魔だとばかりに、クラクションを鳴らしたり、嫌がらせをする人もいます。幅寄せされて接触し、転倒したりすれば、サイクリストにとってはまさに生死に関わりますが、そんなことは全く考慮していません。単にイライラしているだけで、危険な行為をする人もいます。

心理学者によれば、人間はクルマに乗ると、頑丈なボディに守られて強くなった気になる傾向があるそうです。そして周囲の歩行者や自転車などに対し、優越感を持ち、見下したり攻撃的な心理になったりすると言います。ハンドルを握った途端、人が変わったように乱暴な言動になる人がいるのも、そのせいです。

多かれ少なかれ、そのような傾向があるそうですが、多くは分別ある大人ですし、そのような行為がどのような結果を招くか理解しています。自分も刑事罰や賠償金などを負うリスクがあるわけで、普通は危険な行動はとりません。しかし、中にはそれがわからない、愚かな人もいるのです。



見知らぬサイクリストに対し、特に通行の邪魔にもなっていないのに、いきなりサディスティックな行動をとり、サイクリストが慌てるのを見て笑っているような人間もいるのでしょう。Ernest Ezis さんも、当然ながらそのようなことをされた経験があります。そこで、このデータベースを思いついたのです。

悪質なドライバーに危険な行為をされた動画をアップし、そのような行為をするタイプの人のデータベースを作ろうというのです。そして、実際にどこかで、そのドライバーがサイクリストを死傷させた時、地元の検察官や被害者の弁護士などに対し、貴重な裁判資料を提供しようという狙いです。

Close Call Database直接の事故の記録ではありませんが、ナンバーや車種からドライバーが特定できれば、危険な人物だという状況証拠になります。おそらくドライバーは、裁判で不慮の事故で不幸な状況が重なったなどと供述するでしょう。でも、そうではなかった可能性を示すことが出来ます。

実際に、そのような使い方で、悪質な加害者を有罪に追い込んだ事例もあると言います。陪審員の心証を左右するのに十分な材料になるわけです。すぐに役立つとは限らないですが、サイクリストに嫌がらせをする悪質ドライバーは、そのような行為を繰り返す傾向があります。データを蓄積し、将来に備えようというわけです。

アメリカの交通裁判では、過失や故意でサイクリストを死傷させたにも拘わらず、証拠がないため、5割程度はその責任から逃れると言われています。警察や検察、陪審員もほぼ全て、同じドライバーです。ドライバーが無罪を主張し、不運な事故だったと主張すれば、同情して重い罪は問われない傾向もあると言います。

中には、賠償金も一切請求されない事例もあるそうです。事故になったら圧倒的に弱く、死傷する可能性のあるサイクリストは、裁判においても弱い立場に立たされる傾向があるのです。しかし、直接の動画でなくても、危険運転をしている加害者の動画があれば、心証を覆す有力な武器になります。



そんなサイクリストの弱い立場を変えることを目指しています。そして、広くサイクリストが連帯し、協力することで、自分たちを守る手段にしたいとも考えています。まだ始まったばかりであり、データは少ないですが、データが蓄積していけば、大きな力を発揮する可能性があります。

事故を起こした場合に不利になる可能性があるため、記録されているドライバーには脅威となります。このデータベースが知られるようになれば、プレッシャーを与えられるかも知れません。もちろん、身に覚えがあるはずですから、自分が記録されている可能性を十分判断できるでしょう。

Close Call Database職業ドライバーだったら、勤務先からの処分につながる可能性もあります。運送会社などの看板を背負ったドライバーが悪質な事故を起こせば、今どきはSNSで拡散・炎上し、世間の反感を買う可能性があります。業績が悪化するなど、会社にとっても大きなリスクとなります。

このようなデータベースの存在が知られるようになり、効果を上げていけば、企業も対策を迫られるでしょう。世間から総攻撃されるような事態を防ぐため、ドライバー教育を徹底したり、罰則を設けるなどの対策により、危険な運転が減って安全になる可能性もあるでしょう。

もちろん、登録は無料です。自分の住んでいる地域のサイクリストが危険にさらされた事故があった時には、通知を受け取ることも出来ます。それを見て用心したり、もし被害者が知り合いなら、このデータベースの存在とその活用を助言したりすることも出来るでしょう。



なるほど、これは優れた取り組みです。このデータベースの存在が知られるようになれば、事故の抑止、未然防止にも十分つながりそうです。少なくとも、相応のデータが蓄積していけば、交通裁判でも弱い立場になりがちなサイクリストの強い味方になってくれそうです。

今後、巷間言われるように、IoTが発展していけば、ドライブレコーダーもネットにつながり、録画と同時にクラウド上に保存され、証拠としての保全が進むようになるかも知れません。しかし、それでも必ずしも決定的な場面が映るとは限りません。ふだんの「危機一髪」を記録して蓄積するのは有効でしょう。

カメラなどのハードが進歩し、自転車にドライブレコーダーとして設置できるようになったのは、サイクリストにとっての力になります。しかし、自分で撮るだけでなく、記録し共有することが大きな力を生みます。自分たちを守るためにも、サイクリストは互いに協力し、連携していくことが必要と言えそうです。




バルセロナでまたテロが起きてしまいました。犯行声明を出したISは、まだ影響力が大きいということでしょうか。

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