ただ、日本では長年にわたって自転車を歩道走行させようという道路行政が続いてきたため、歩行者がほとんど通らないのに、無駄に広い歩道があったりする一方で、車道はクルマ優先、クルマ用に設計されているために、自転車が通行しにくくなっている場所があるのも確かでしょう。
まだ自転車レーンが整備されているような道路は僅かですし、そもそも、東京の道路には余地が無いから、自転車レーンの整備など無理だと主張する人もいます。しかし、国土交通省の調査によれば、すぐにでも車道に自転車レーンを整備できる幹線道路、主要道は8割に上ることが明らかになっています。
必ずしも歩道を削ったり、クルマの車線を減らさなくても、1車線の幅を多少狭めたり、中央分離帯のゼブラゾーンを削るなどして、車線のラインを引き直せば、すぐに自転車レーンを設置できるということです。さらに言えば、必ずしも自転車の通行空間は、車道だけとは限りません。
場合によっては、現状で歩道でも車道でもない場所にも、自転車専用道路が作れる可能性を探れるのではないでしょうか。東京都心のように、高度に土地利用が進み、過密状態になっているところに、なに寝ぼけたことをと言われそうですが、少なくとも東京を走っていると、そう感じる場所があります。
例えば、ここは国道20号線の新宿区の幡ヶ谷付近の写真です。ご存じの方も多いと思いますが、頭上を中央高速へとつながる首都高速の4号線が通っており、高架下を走るような感じになっています。首都高を支える支柱で、国道の上り線と下り線がセパレートされています。
しかし、よく見ると、首都高の真下の中央部分には、道路でない部分があります。ここは、工事関係と思われる車両や資材が置かれていたりしており、道路としては使われていません。もちろん、国か都か道路公団かわかりませんが、どこかの所有地なのでしょう。
当然ながら、この高速の高架下の土地の所有者にしてみれば、駐車場や資材置き場などとして有効に活用していると言うと思います。しかし、個人的には、せっかくの都心の貴重な土地が、必ずしも有効な使い方がされていないように思えてなりません。駐車場や資材置き場などは、もっと別の場所でも構わないはずです。
高架に沿って続いており、恐ろしく細長い土地ですが、幅は限られており、建物を建てたりするのには向かず、用途は限られます。使い勝手がよくなく、駐車場や資材置き場にするしかないのが実際のところでしょう。しかし、ここほど、自転車専用道路として向いている土地はないと思えるのは私だけでしょうか。
(現状で広場などになっている場所も)
他人の土地の使い道を、勝手にあれこれ考えても仕方がありません。しかし、高架下の土地ですから、おそらく国か自治体、あるいはそれに準ずる団体の所有と思われます。現状は、どこかに貸していて、モノが置かれているのだと思いますが、場合によっては、ここを自転車道として活用出来るのではないでしょうか。
例として挙げましたが、当然ながら、ここだけではありません。自転車乗りから見ると、ここは自転車道にうってつけではないかと思えるような場所は、都心にも意外にたくさんあります。高速道路の下以外に、鉄道の高架下、昔の鉄道跡、堀や川や運河、あるいはそれを暗渠にした細長い土地などです。
踏切の渋滞の解消のため鉄道が地下化され、元の線路部分が細長く残って、緑地などになっている場合もあります。もちろん、建物が建ったり、ほかの目的で活用されているところも多いですが、臨時の駐車場や資材置き場、撤去した放置自転車の置き場などとして暫定利用されているような場所も少なくないと思います。
ふだん、何の気なしに走っていても目に入らないかも知れません。このブログも長いこと続けていますが、ずいぶん前に、このことを書いたことがあります。その後も、頭の片隅にそうした視点を持って都内を走っていると、ふと信号待ちの時などに、そのような場所が目に入ったりします。
(ここは緑地帯になっているが、このままでも整備すれば、支柱と道路の間を通れそう。)
もちろん、都内を縦横無尽に隅々まで走っているわけではなく、詳しく調べたわけではないので、正確なところはわかりません。ただ、高速や鉄道の高架下だけでも、けっこう暫定利用に近く、あるいは何か構造物があっても、思い切って撤去してしまえば、有効活用できそうな場所は多いような気がします。
高速道路や鉄道の高架下であれば、もし流用できたら即、自転車道の幹線となるはずです。あまりに幅が狭くて細長すぎる、通常には使い勝手の悪い土地ですが、それは、まさに道路として使うべき土地でしょう。幅が狭くて、クルマ用の道路にならないので放置されていますが、自転車用なら使えるはずです。
さて、同じようなことを考えている人たちが、ドイツにいます。ある市民グループが、ドイツの首都ベルリンの中心部の鉄道の高架下に、“
radbahn”(ドイツ語で自転車道、サイクルトラック)をつくることを提案しています。実現すれば、ベルリンで初の屋根付きの自転車道になります。
提案しているのはNPOの“paper planes”という団体で、プランナー、建築家、モビリティー研究者、文化活動のマネージャーなどからなる5ヶ国出身の8人からなる市民グループです。そして、都市において、より持続可能な移動の実現と、自転車にやさしい街をめざす『ロビイスト』でもあります。
実は、このような構想は珍しくありません。欧米では、このような高架下を自転車道として活用しようというアイディアは複数あり、そのコンセプトは、各種のコンテストのエコデザイン賞などを受賞しています。ドイツだけでなく、各国で類似の構想が持ち上がっているのです。
提案されているのは、ベルリンの高架下の9キロ分ですが、このNPOの調査によれば、その実現は十分に可能であり、渋滞の緩和などの移動性の向上に寄与し、環境や健康、都市開発や経済的にもメリットがあるとしています。そのほかにも、巨大な可能性を秘めると指摘しています。
これらの研究をまとめ、その結果を140ページ程度の本にして、政治家などへ向けた活動を行おうと考えています。そのため、“startnext”というドイツで始まったクラウドファンディングサイトでの資金調達を考えました。当初の目標の1万7千ユーロは達成し、最終的には4万ユーロの調達を目指しています。
調達した資金は、全てこの構想の実現に向けて使われます。最初の1万7千ユーロは本の印刷に使われ、政治家をはじめとする意思決定の関係者などに送られます。3万ユーロ集まった場合には、3か月分の人件費としてスタッフを雇ってロビイ活動を行い、4万ユーロ集まったら、イベントなども計画されます。
結果として、クラウドファンディングでは、951人から3万1千ユーロあまりが集まったようです。出資すれば、多少の記念品も貰えますが、ほとんど寄付です。にもかかわらず、多くの人の支持を得ました。このあたりも、ドイツが自転車先進国として評される所以でしょう。
ドイツは自転車の活用において、ヨーロッパ有数の国です。国内にはツーリスト用に、7万5千km以上もの自転車道が整備されています。それを使って、年間約600万人のドイツ人が宿泊を伴った数日以上の自転車の旅をする国です。自転車道の価値が十分理解されている国なのです。
各都市を結ぶ自転車道だけでなく、都市にも自転車レーンが整備されています。もちろん中世から続く古い都市などもあるので、都市によって差はありますが、都市交通としての自転車の有用性は多くの人が理解しています。ベルリンのような都市に、さらに専用のサイクルトラックを設置する意義もわかっているのでしょう。
自転車が歩道を走っている日本では、自転車専用道と言っても、なかなか理解されないかも知れません。車道の自転車レーンさえ僅かしかないのに、一足飛びに自転車専用道は高望みかも知れません。しかし、逆に自転車の走行空間が圧倒的に足りていないからこそ、上手な土地の活用を考えるべきでしょう。
(道路が横切る場合は、高架を利用して立体交差に出来る。)
(川をを越える場合でも、高架を利用して橋が出来る。)
近隣の主婦が自転車で買い物に行くのに、屋根付きの自転車道なんて無駄と考える人も多いに違いありません。そのあたりは、まだまだ自転車の持つポテンシャルへの理解が不足し、自転車が都市交通であるとの認識も、有効に活用しようとの意識も乏しい日本では無理なのかも知れません。
そう考えると、欧米の自転車先進国との差は、まだまだ大きいと言わざるを得ません。寄付という文化が根付いていないことも指摘されます。政治家や政党などに働きかけることで、政策の実現を図るロビイ活動への馴染みが薄いということもありそうです。
ただ、少しずつ都市交通としての自転車の活用について理解する人は増えてきています。職場までの自転車通勤などの認知度も上がってきましたし、東京都心を走る人も増えました。今後は、自転車の通行空間が必要だし、都心にも確保すべきだと考える人が、日本にも増えていくことを期待したいものです。
普通は他国の建国記念日なんて意識しませんが、明日また何かをやってくる可能性があるのは気になります。