例えば、その首都コペンハーゲンに住む人の36%が自転車で通勤または通学し、45%が日常的に自転車に乗ります。ほとんど全ての大通りには自転車専用レーンが整備され、その総延長は3千キロにも及びます。人口112万の都市に3千キロですから、相当な充実度です。
市民のほとんど誰もが自転車を所有しています。クルマに対する税金が高いので、多くの人が自転車を当たり前のように交通手段として使っています。大通りに整備された自転車レーンは、その面積の半分近くを占めます。道路の補修を行うたびに、自転車レーンや駐輪スペースの確保を優先させてきたのです。
国土は平坦で自転車に乗るには持って来いです。ただ、街中にも小型の風力発電機が設置されているくらいですから風は弱くありません。もちろん雨も降ります。それでもデンマークでは、1970年代からクルマを減らし、自転車の利用を促す政策をとってきました。
雨天でも、当然のように雨合羽を着て自転車に乗ります。北欧ですから雪が降る時もあります。雪が積っても、行政によって除雪された自転車レーンを通って自転車で通勤します。晴れた時、都合のいい時だけ乗るのではなく、交通手段であり、自転車は生活の一部です。

さて、そんなデンマークで、その生活スタイルに適したカーゴバイクというコンセプトの自転車が提案されています。もちろん、今でもカーゴバイクを使っている人はいますが、デンマークでの生活に密着した運搬手段として、新たなカーゴバイクを提案しようというのです。
“
Sanitov”というデザインスタジオが提案する、“
movE”というカーゴバイクです。7年の歳月をかけて開発されました。そのスタイルは、後ろ2輪のトライクで、拍子抜けするほどオーソドックスな形です。特に斬新ということはなく、きわめてありふれたデザインとなっています。

電動アシスト機構が採用され、最高で時速25キロまでアシストされ、最大積載量は200kgとなっています。自転車先進国のデンマークで提案されるわりには、驚くほどシンプルで、オーソドックスです。しかし、生活に密着したスタンダードをと考えると、むしろ、こうなるのでしょう。
後方に荷台を配置したほうが、乗りやすいという考え方です。リヤカーのような、きわめてオーソドックスな荷台ですが、これこそ、汎用性を高めるために必要なスタイルということなのでしょう。普通に荷物を載せる以外に、オプションを取り付けることも出来ます。
チャイルドシートを取り付けたり、場合によっては大人も乗せられます。フタ付きのボックスを取り付けたり、トラックのような幌にすることも可能です。必要であれば、屋台を取り付けて食品販売なども出来ます。いろいろと応用がきく荷台となっています。
今どきの機能としてGPSトラッカーを搭載することも可能です。盗難に遭った際に追跡できるだけでなく、日常の走行記録をとることが出来ます。走行ルートや速度などのデータをとることで、ビジネスの分析などに役立てることを想定しています。
現在、
クラウドファンディングサイトでキャンペーンを展開しており、すでに目標の19万デンマーククローネを超えています。最小の構成で一台1万1千クローネ強、約1千8百米ドル程度とカーゴバイクとしてはリーズナブルな価格となっています。

ところで、日本で標準的な自転車と言うと、ママチャリということになります。良し悪しは別として、文句なく圧倒的に普及している事実があります。しかし日本にも、そろそろカーゴバイクの標準型が登場してもいいのではないでしょうか。移動用のママチャリとは別に、運搬用のスタンダードがあってもいいはずです。
もちろん、デンマークとは法令も、自転車走行環境も、使い方も違います。日本用のカーゴバイクは、また違った形になってくるかも知れません。歩道通行を考慮するなら、法令上の普通自転車の範囲内に収めるなど制約がありますし、保管や駐輪など、普及させるためには、壁も多々あると思います。

しかし、日本の今の標準的な子供乗せ自転車では、子供の落下事故が相次いでいます。カーゴバイクなら安定するので、ハンドルが回ってしまったり、目を離したすきに自転車が倒れるなどして、子供が落下することは防げます。走行も安定しますし、より安全性が高まるでしょう。
買い物帰りに、前カゴと荷台に荷物を満載し、ふらつきながら走行している人も見ます。ママチャリは汎用性が高いとは言え、やはり多くの荷物を運ぶのには向いていません。カーゴバイクなら、お米や飲料など重い荷物から、ホームセンターで買うような、かさばる荷物も運べて便利なはずです。

駅前商店街が衰退し、郊外型のスーパーが中心になりましたが、そのスーパーも通販などに押され、撤退が増えています。大都市の近郊などでも、いわゆる買い物難民が増えています。カーゴバイクがあれば、多少遠くても、そして多くの、大きな荷物も運べるため、買い物に困っている人にも救いとなるでしょう。
昨今は、高齢者によるクルマの事故が増えています。しかし、免許を返上したら、生活のアシがなくなってしまうという人も少なくありません。そんな場合にも、カーゴバイクで代用できる可能性があります。運動にもなるので、健康増進にも貢献するかも知れません。

最近は、物流業界の人手不足が深刻化しています。カーゴバイクが一般的になれば、料金によっては、集配拠点まで荷物を取りに行く人も出て来るでしょう。いわゆるラストワンマイルを埋める形となり、宅配便のドライバー不足の緩和に役立つ可能性もあります。
日本でも、一部でウーバーイーツなどのサービスが始まっています。一般の人が配達を代行するものですが、今後、日本でもこれが広がっていくならば、カーゴバイクは、その手段として大いに活躍するに違いありません。今使われている、「つづら」のようなリュックを背負うよりラクかも知れません。

普通の自転車に2人乗りするのは違反です。しかし、サドルやイスなどの乗車装置が人数分備わったものであれば、その人数だけ乗れます。介護、足が悪い人の送迎、怪我の通院といった目的で、大人を乗せて運ぶ手段が出来れば便利になるという人もあるに違いありません。
商売や営業などで自転車を使っている人も多いはずです。これまでは、普通の自転車に箱などを取り付けていた人が、カーゴバイクを利用出来れば便利になるケースもあると思います。近所への配達や、ちょっとした荷物の運搬など、その使用範囲は小さくないでしょう。

ペットも高齢化していますから、足腰の弱くなった犬を乗せて、散歩に行きたいという人も増えているようです。そんな用途も、カーゴバイクなら便利です。そのほか、挙げればキリがありません。今まで無かったので気がつきませんが、カーゴバイクがあれば、いろいろなシーンで活躍するに違いありません。
日本では、格安のママチャリが市場を席捲しているため、自転車メーカーとしては魅力が薄いのではと考える人もあるでしょう。しかし、日本の自転車市場は大きく、しかも電動アシスト自転車の市場は年々拡大の一途です。外資系のメーカーや部品製造会社などは、非常に有望な市場と見ています。
今、これだけ普及していないのですから、カーゴバイクの普及が簡単でないであろうことは認めます。いろいろ障壁があるでしょう。しかし、それは魅力的で実用的、運搬という新しい自転車の用途を提案する、日本向けのカーゴバイクのスタンダードが無いからではないでしょうか。
なんと言っても、これだけ多くの人が自転車を日常的に使っているのです。そのうちの何割かでも、カーゴバイクに乗り換えたら、無視できない規模の市場になるはずです。自転車メーカーや、その関係者の方がどう考えるかはわかりませんが、私には、眠っているニーズがあるように思えてなりません。
また悪質なデータ改ざんと隠ぺいが発覚しました。販売先は多く、安全面などの影響は広範囲に広がりそうです。日本企業の信用も失墜させます。組織ぐるみで長年不正を続けてきた、神戸製鋼は断罪されるべきでしょう。
Posted by cycleroad at 13:00│
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