渋滞の発生は、平日の都市部や、交通量の多い幹線道路ばかりとは限りません。場合によっては休日の郊外でも起きますし、連休の行楽地などでも発生します。渋滞はイライラしますし、時間の無駄です。なるべく渋滞を発生させないため、国や自治体なども対策をしています。
事故や工事に限らず、どうしても交通が集中して渋滞が起きることはあります。しかし、交通量に応じて道路を拡幅しようにも、都市部の地価は高く、地権者との合意などで計画から完成まで何十年もかかるのが普通です。いざ拡幅しても、そのせいで違う場所がボトルネックとなって渋滞することもあります。
結果として、渋滞はなかなか無くなりません。人々はクルマに乗ったまま、なすすべなく列に並んで待つことになり、無駄な時間を浪費することになります。これは貴重な時間のロスであり、社会的なコストとなって、世界中の多くの国や都市で、年間莫大な経済損失をもたらしています。
平日、仕事での移動中に渋滞に遭遇して、辟易している人も多いでしょう。予想されるもの以外に、アクシデントで突発的にも起きます。そればかりか、せっかくの休日まで、近くのショッピングセンターへ行くのにも渋滞、駐車場の入場にも渋滞で、うんざりしている人も多いに違いありません。
カナダはトロントのクイーンズキー地区に住む大学教授の、Derek Rayside さんも、その一人でした。自宅から、わずか13.5キロほど離れた場所にあるコストコへ買い物に行くのに、本来ならせいぜい15分で着くところが、いつも渋滞で、その3倍の45分以上もかかっていたからです。
3年前に、クイーンズベイ地区の大規模な道路改修が行われ、クルマと分離された自転車レーンが設置されたのですが、このことが、さらに渋滞を悪化させた面があることは否めません。休日に妻と幼い子供2人をクルマに乗せ、食料品などを買いにコストコへ行かなければならない、Rayside さんにとって苦痛の種でした。
日本にもありますが、コストコというのは、アメリカ生まれの会員制の小売りチェーンです。大きな倉庫のような店内に、大量の商品が積まれており、それぞれの商品を大箱や大きな塊で売ることで、単価を格安にするというスタイルの大型会員制スーパーマーケットです。ご存知の方も多いと思います。
ですから、必然的に商品は大きくなり、まとめ買いする形になります。北米では、クルマで出かけて、食料品などをまとめて買うのは、ごく当たり前のスタイルで、コストコに限ったことではありませんが、商品がまとめ売りなため、どうしても荷物が多くなるのは避けられないわけです。
にもかかわらず、渋滞に業を煮やした、Rayside さんは、
自転車で買い物に行くことを決断しました。もともと、彼はサイクリストというわけではありません。しかし、毎度の渋滞で時間がかかり過ぎるため、自転車のほうが、よっぽど速いと決断したのです。
しかし、荷物だけではなく、妻と2人の子供もいます。家族を置いていくわけにはいきません。そこで、オーダーメイドの3人乗り自転車と、リヤに連結して牽引するトレーラーというスタイルにしたのです。荷物と子供を乗せますし、多少のアップダウンもあるので、電動アシスト仕様にしました。
食料品などを満載になるくらい買った時の、コストコのショッピングカート1台分が、ちょうどトレーラーに詰めるくらいになるそうです。このスタイルでも、彼とその家族は、一度に900カナダドルもの食料品のまとめ買いが可能だと言います。
自転車でも十分に運べるだろうことは、わかっていました。クルマよりは体力を消耗するでしょうが、なんと言っても渋滞が回避できて、時間の節約になります。イライラしてストレスをためることもありません。そして、何よりも楽しいということに気づいたと言います。
さすがに、トロントでも3人乗り自転車にトレーラーは珍しいので、彼ら家族が交差点などで停止していると、見知らぬ人にも尋ねられたり、写真を撮らせてくれと言われたりするそうです。クルマに乗っていた時とは違い、見知らぬ街の人ともコミュニケーションをとる機会が増えました。
みな笑顔で声をかけてくると言います。街の人と気さくに交流できることも気に入っています。細胞生物学者の奥さんも、今まで自転車に乗る人ではありませんでしたが、今では、こんな素晴らしいことはないと、大好きになっているそうです。もちろん、2人の子供たちも大喜びです。
最初は単純にコストコまでの渋滞を避け、往復の時間を短縮するつもりでしたが、今ではトロントのウォーターフロント沿いを走ったり、クイーンズキー地区の近所を探索したりなど、買い物が家族でのサイクリングも兼ねるようになりました。家族で楽しく遊ぶことも増えたそうです。
3人乗り自転車の購入や電動アシスト機構の搭載などで、数千ドル単位の出費にはなりました。しかし、Rayside さんは、自家用車を処分してしまったため、クルマの維持費よりも出費は断然少なくなり、以前よりお金がかからなくなりました。自転車でコスコへ買い物に行けるなら、他のことも大抵は可能です。
Rayside さん、今では年間を通して、この自転車が移動手段となっています。月に一度ほどは遠くへ出かけるため、クルマにも乗りますが、所有する必要はありません。場合によっては公共交通を使うなどしています。でも、何より、自転車に乗るのが好きになったのです。
夫婦ともに、研究者として大学の窓のない部屋で、コンピュータの前に座っていることも多いと言います。週末に自転車で外出して、新鮮な空気を吸ったり、身体を動かしたり、楽しんだり出来るのは素晴らしいと感じています。ついでに買い物も済ませられるなら言うことありません。
自転車が環境負荷を減らす点も気に入っていますし、都市の経済面でも利点があります。そして、健康面でもメリットを実感しています。以前は特にサイクリストでなかった、Rayside さんですが、今では、すっかり自転車と、自転車レーン拡充政策の熱烈な支持者となっています。
彼は、自分の実感として、都市における交通渋滞を減らす唯一の方法は、人々に移動の選択肢を提供することだと感じています。現実問題として道路の拡幅は困難ですし、仮に拡幅できたとしても、そのぶん交通量が増えて、依然として渋滞することは避けられません。
しかし、自転車レーンを整備して、自転車という選択肢を提供すれば、Rayside さんのように乗り換える人も出て来るでしょう。いざ自転車にしてみて、そのメリットを感じて、そのぶんクルマの利用が減れば、渋滞も軽減することになります。自転車レーンは効果的な渋滞対策だと感じているのです。
普通、コストコへ買い物に行くのに、自転車で行こうとは考えません。しかし、トレーラーなどを使えば、十分可能なケースも多いはずです。クルマより体力は使うでしょうが、メリットもたくさんあります。固定観念を捨てれば、もっと自転車は有効に活用できます。
カナダと日本では、法令や道路環境、人々の意識も違うでしょう。Rayside さんのような事例が当てはまるとは限りません。しかし、日本においても、自転車レーンなどの走行環境の整備により、人々に選択肢を提供することこそが、現実的で有効な渋滞対策になるのではないでしょうか。
電通の新入社員の過労自殺事件や、長時間労働による過労死問題を特番を組むなどして熱心に報道していた、そのNHKで過労自殺が起きていました。事後の対応にも問題があるようです。今後自ら明らかにするでしょうか。
Posted by cycleroad at 13:00│
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