日本では1分に1件、どこかで交通事故が起きています。
減少傾向にあるとは言え、依然として年間4千人弱の人が命を落としています。さらに、年間62万人にも上る人が重軽傷を負っています。クルマ同士から歩行者、自転車、オートバイなど事故の種類はいろいろですが、そのほとんどは、当然ながら道路で起きています。
事故の原因はいろいろあるでしょう。法令違反が理由だったり、脇見や不注意、スピードの出しすぎ、酒気帯びや無謀な運転、最近は高速道路における逆走とか、ブレーキの踏み間違いなどもよく聞きます。事故防止のためには、そうした原因をつぶしていくことが必要となります。
大阪御堂筋、ショートカット横断は無理だった…自転車の女性が重体
12日午前8時15分ごろ、大阪府大阪市中央区内の国道25号(御堂筋)で、自転車に乗って道路を横断していた女性に対し、交差進行してきた大型観光バスが衝突する事故が起きた。自転車の女性は意識不明の重体となっている。
安全に横断できる交差点への遠回りを嫌い、ショートカットで横断したことによる事故。現場は大阪市中心部の御堂筋で、昼夜を通して交通量の多い区間。普通ならば交差点外で横断しようなどとは思わないほどの交通量があるはずだが、平日ほどでもない日曜日の朝ということもあり、横断者の心に魔が差したのだろうか。
大阪府警・南署によると、現場は大阪市中央区難波3丁目付近で5車線となっている一方通行路。直線区間で、横断歩道や信号機は設置されていない。30-40歳代とみられる女性は自転車に乗って道路を横断していたところ、第2車線を交差進行してきた大型観光バスにはねられた。
女性は近くの病院へ収容されたが、頭部強打などで意識不明の重体。バスの乗員乗客26人のうち、50歳代の女性客が顔面を打撲するなどの軽傷を負った。運転していた46歳の男にケガはなく、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失傷害)の現行犯で逮捕。逃走の恐れがないことから後に釈放している。
現場は昼夜を通して交通量の多い区間。約50m離れた場所には横断歩道や信号機の設置された交差点もあった。警察ではショートカット横断が事故につながったものとみて、事故発生の経緯を詳しく調べている。 (2017年11月14日 レスポンス)
つい最近も、自転車で交差点でない場所を横断しようとした女性が事故になっています。事故の相手であるバスの運転手が逮捕されていますが、報道によれば、起きた場所から見て、この女性が交差点以外の場所で、無理やり横断しようとしたことが事故を招いたと見られているようです。
最終的に、この事故の過失割合がどうなるのかわかりませんが、自転車の女性の無理な横断をしなければ、事故は起きなかったという側面は否定できないでしょう。横断禁止の場所だったのかどうかは不明ですが、信号機のある交差点まで行っていれば違ったと思われます。
自転車の女性の不注意な行動を正当化しようというのではありませんが、自転車であれ、歩きであれ、交差点まで行くのが面倒で、つい横断してしまった経験は、多くの人にあるのではないでしょうか。この女性は運悪く事故になってしまいましたが、下手をすれば事故になりかねない横断をしている人は少なくないと思います。
もちろん、一義的には、そのような無理な横断をせずに、安全に横断出来る場所まで行くべきだったのは間違いないでしょう。事故は起きなかった可能性が高いのは否定しません。しかし、つい横断してしまう、横断したくなってしまう場所があることも、事故の背景にないでしょうか。
クルマの交通量が多いからと、歩道橋などが設置されている交差点もあります。クルマの流れを乱さないために、横断が禁止され、遠回りをしなければならない交差点もあるでしょう。動力のついたクルマのために、わざわざ歩行者や自転車が遠回りや、階段など、不便を強いられるのは理不尽だと感じる場所もあると思います。
事故の直接の原因を、道路の構造のせいにしようと言うのではありません。しかし、道路があまりにクルマ本位につくられているため、歩行者や自転車利用者が、つい無理な行動をしてしまう場所があるとしたら、それは道路の構造にも問題があると言えないでしょうか。
たしかに、クルマを渋滞させるのは経済的にも大きな社会損失を招きます。なるべく効率よく通行させるため、クルマ本位にならざるを得ない事情も理解できます。しかし、そこには高度経済成長時代、モータリゼーション全盛の時代の考え方を引きずっている部分はないでしょうか。
前掲の事故で、バスのスピードはどうだったのでしょう。大通りなので見通しはよかったと思いますが、事故を回避できるスピードであれば、事故が防げた可能性はないでしょうか。バスがスピード違反をしていたと言うつもりはありませんが、大通りだと、ついついスピードが出てしまう側面もあるに違いありません。
スピード違反は、もちろん責められるべきですが、スピード違反が出来てしまう道路、ついついスピードが出てしまう道路もあります。なるべく効率よく通行させるという設計思想はわかりますが、そのためにスピードが出せてしまう道路というのも少なくないと思います。
スピードの出しすぎは事故につながります。いざ事故になりそうな場合に、スピードが速いほど回避は困難になります。そのために制限速度があると言われれば、その通りですが、守らない人もいます。スピード違反するつもりのない人でも、ついついスピードが出てしまう場所もあります。
この点も、クルマ本位の道路設計、整備によるものだと思います。なるべく巡航スピードを速くするための道路整備が、結果的にスピードの出しすぎを誘発します。歩行者、人間本位の思想、観点に立つならば、イザという時に、事故の回避の可能性を高めるため、都市部では極力スピードを抑えるような構造にすべきでしょう。
おそらく、こんなことは、全くの素人で門外漢である私が言うまでもなく、関係者はわかっているはずです。実際に、そのような知見を活かして、道路に工夫が施されている場所もあります。しかし、そうした考え方が広く共有されているとは思えないのも事実です。
自転車の歩道走行は、歩行者との事故だけでなく、交差点での左折巻き込み事故を誘発します。クルマのドライバーは、歩道を走行している自転車まで気にしていません。植栽や看板などで見えないことも多いです。左折する時、横断歩道に人がいなければ、当然そのまま左折しようとします。
一方、歩道を走行してきた自転車利用者は、前方の信号が青ですから、そのまま横断歩道に飛び出します。左折しようとしていたドライバーにしてみれば、突然、自転車が飛び出してくる形になります。これが原因で自転車の左折巻き込み事故が起きるわけです。
自転車が車道を走行していれば、ドライバーからも見えています。左折する時にも、自転車に注意するので、事故は起きにくくなるでしょう。その点からも、自転車レーンは車道に設置するべきですが、依然として歩道に通行帯を設置し続ける自治体も少なくないのが現状です。
もちろん理解している自治体もあるでしょう。しかし、道路整備をする自治体ごとの横の連携に乏しく、事故を防ぐための道路整備の知見が共有されているようには思えません。地方道はともかく、国道は全国共通のように思いますが、これも必ずしもそうではなく、地域によって整備の考え方は違っているようです。
国道を走っていると、都府県境を越えた途端、道路の形状が変わっていることに気づいた経験はないでしょうか。もちろん大きく違うわけではありませんが、通行帯の引き方とか、右折レーンのとり方など、県境でガラリと変わることがあります。おそらく各地域の国道整備局によっても考え方が違うのでしょう。
最近、一部で整備が始まりつつある、車道の自転車レーンにしても、その体裁や仕様は、自治体によってバラバラです。地域ごとに決めるものなのでしょうが、住民は、その地域内だけに留まるわけではありません。境界を越えると、色も形もマークもバラバラでは戸惑います。これも全国で共通にすべきではないでしょうか。
地方自治を否定するつもりはありませんが、道路整備に関しては、共通にすべきことは多いと思います。また、事故やその防止の方策で得られた知見は広く共有すべきです。各地で縦割りでは、非効率で不経済です。こと安全に関しては、考え方も含めて統一し、同じ方向を向いていくべきではないでしょうか。
アメリカには、参考になる組織があります。“
National Association of City Transportation Officials”という組織です。“
NACTO”と略されます。日本風に言うとしたら、全国都市交通関係者協会とでもなるでしょうか。各都市の道路交通の関係者が集まっています。
この“NACTO”は、各都市、自治体が、都市の交通や道路整備について、共通のビジョンを構築し、各種のデータを共有する目的で設立されました。会議やワークショップを通じて、関係者同士がやり取りを行うことで、メンバーである自治体の間のコミュニケーションをとっています。
都市の地上交通、自転車、バス、ライトレールなどの公共交通、自転車シェアリング等も含めて研究調査を行い、道路整備のデザインガイドを制作しています。その使命は、都市を人間のための場所にし、安全で持続可能な交通や道路等を整備することで、地域経済や市民の生活の質の向上を目指すことです。
サイトを見ると、いろいろと参考になります。例えば、クルマのスピードは都市がコントロール出来るという考え方がベースにあります。これは重要なポイントの一つです。そして、米国の都市や交通関係者が、しばしば忘れてしまっている点であることを指摘しています。
クルマのスピードを30キロから40キロに抑えることは、人間の安全を優先し、事故を防ぎ、都市での居住や快適性を向上させるための中核的な戦略となると言います。法令のスピード制限だけではなく、信号の制御や車線の形状、交差点の仕様などによって、車両の速度をコントロールできるし、するべきという指摘です。
もちろん、都市ごとに構造や成り立ちが違い、道路幅や形状、整備状況などには違いがあるでしょう。地形や気候、人口、交通量など様々な点によっても違いが出てきます。全てを一つの型に押し込めようというのではありません。世界の都市に適用して分析できるような計算式やモデルを提供しています。
近年、全米の各都市で自転車レーンの整備が進んでいますが、さらに一歩進め、物理的にクルマと分離され、プロテクトされた自転車レーンの導入が推進されています。どこからセパレート化していくべきか、といった具体的な整備計画をたてるための計算モデルなども示されています。
道路は都市の公共スペースの8割以上を占める重要な空間であり、人々が安全に歩いたり、自転車に乗ったり、クルマを使ったり、乗り換えたり、そして交流するための大切な役割を果たします。しかし、それが必ずしも上手く出来ていない例があります。整備の考え方が古くなり、時代にそぐわない例もあります。
そんな都市を再設計し、再投資しようとする際、21世紀の道路設計の青写真、開発の指針となるようなガイドを提供しています。全米の一流エンジニア、デザイナー、プランナーの知見を集め、よりベターな道路を整備するための明確なビジョンと、その方法を示しています。
日本にも似たような組織があるのか、寡聞にして知りません。専門家や業界団体の集まりなどはあるのかも知れませんが、私は聞いたことがありません。あったとしても、少なくとも現状を見ると、各自治体で知見やデータ、そしてビジョンを共有しているようには見えません。
日本でも、国や各自治体などの道路整備の関係者は、自治体ごとの縦割りを廃し、旧態依然とした道路整備のスタイルを変えていくべきではないでしょうか。少なくとも、このような組織をつくることで、例えば各地の自転車レーンの形状や体裁がバラバラという状態は是正できるでしょう。
さらに、道路整備の問題点や対策、事例やデータを共有し、あるいは先進諸国の事例を参考にして、21世紀型のビジョンを構築することも可能になるでしょう。これまで、クルマ優先一辺倒で来てしまった道路整備の歪みや、気づけなかった部分に目を向けてほしいと思います。
高度成長期には、交通事故で多くの人命が失われ、交通戦争と呼ばれました。その酷い状況は是正され、確かに死者や事故件数は減少傾向にあります。しかし、冒頭にも書いたように、依然として多くの人が交通事故に遭い、たくさんの死傷者が出ています。
減ったことで、感覚が麻痺している部分がありますが、ある日突然、ふだん生活してる街角で命を失う人がいます。これは、ある意味、異常な状態です。クルマのドライバーが歩行者を優先せず、無謀な運転をしています。少しでもスピードを上げようとし、住宅街の細い道を爆走し、横断歩道で止まらず、多くの命が奪われています。
警察をはじめとする関係者の努力で交通事故は減少しましたが、依然として年間62万人もの人が死傷しているわけで、交通違反の取締りだけでは防げない事故があります。道路の形状や仕様、その他により構造的に発生している事故もあると思われます。取締り以外にも、もっと減らせる手段があるはずです。
諸外国を見ても、これまで、あまりにクルマ優先で整備されてきた道路を、人間優先に見直す方向にあります。法令順守が必要なのは当然ですが、うっかりミスしただけで命を落とすことのないよう、ましてや罪もないのに命を落とさないような街、人間に優しい21世紀の道路にしていくべきではないでしょうか。
中国特使の北朝鮮訪問、トランプ大統領も注目していますが、外交による解決の糸口になってほしいものです。