5月5日も子供の日ですが、11月20日は、「世界こどもの日」です。国連が加盟国に対して制定するよう勧告しており、日付は各国に任されています。日本では5月5日としていますが、世界では、1989年に「児童の権利に関する条約」が採択された11月20日とするのが一般的です。
この子どもの権利条約は、196という史上最も多くの国と地域が締結しています。すべての子どもたちは、病気や怪我の治療を受けられるなど、「生きる権利」、教育や遊ぶなど、「育つ権利」、虐待や搾取をされない「守られる権利」、自由に意見を言うなど「参加する権利」があると定めています。
大人たちが、この権利を守ることを義務付けられているわけですが、実際には、ほど遠い現実があります。飢餓や病気のために5歳未満で死亡する子どもは年間数百万人単位ですし、教育を受ける機会のない子どもは数千万人、過酷な児童労働を強いられる子どもは、1億数千万人に達すると言われています。
人権の侵害という点では、人身売買、人身取引も深刻です。世界では、いまだに、2100万人もの人が人身売買の被害に遭っています。近年は人身取引という言葉が使われるようになっていますが、これは、単に人間をモノのように売買するというだけでなく、性的搾取、強制労働、臓器売買などを広く含んだ人権侵害です。
2100万人のうち半分はアジアに集中しているそうです。そのほか、アフリカや南米などですが、この数は氷山の一角に過ぎないと言います。奴隷貿易が行われていた時代とは違って、非合法、犯罪が絡むため、多くは地下に潜った状態で、その全体像は明らかではありません。
そして、2100万人の半分近くは未成年と考えられています。子どもに対する最悪の人権侵害である人身売買、人身取引を減らすべく、国際機関やNGOなどが協力して活動を行っています。世界には、まだまだ貧困に苦しむ人々が多くいて、子どもを売らざるを得ないような親も少なくありません。
親だけではありません。過激派や武装組織が拉致、誘拐をして少年兵にするような事例も報道されています。犯罪組織などが誘拐し、監禁して重労働させたり、売買するケースもあります。貧しい農村部の少女が都市部に出て騙され、劣悪な環境に置かれて売春などをさせられる事例も後を絶ちません。
このような人身売買の被害に遭っている子どもを発見して救い出すだけでは終わりません。もともと貧困状態で暮らしていた子どもが多く、生計を立てる術も持っていません。中には避難所や施設に収容する必要のある子どももあり、生活させ、保護して教育を受けさせる必要もあります。
栄養状態が悪かったり、疾病や怪我を負っている子どももいるでしょう。それだけではなく、多くの子どもは精神的なダメージを受け、心に傷を負っているであろうことは想像に難くありません。希望を失い、生きる気力すら持てない子どもも少なくないと言います。そうした面のケアも求められます。
その一助としてもらうべく、子供たちへの支援を行っている組織があります。“
88bikes”です。このNPOは、世界中の、主として自身売買の被害者である少女たちに、自転車を贈る活動を行っています。人身売買の悲惨な状況からの勇敢な生存者である女の子たちに対する支援活動です。
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88bikes”の88は、単に車輪のイメージといった理由ではありません。そこには由来があります。2006年に、ある兄弟がカンボジアを自転車で旅行したことから始まります。カンボジアの農村地帯を旅して、この国の圧倒的な貧困に直接触れたのがきっかけでした。
この旅行で、貧困地域における自転車の役割の違いを痛感したと言います。先進国で自転車は、単に趣味や娯楽であり、エコで気楽な日常のアシ、スポーツの道具です。しかし途上国の貧しい地域の人々にとって自転車は、死活的に重要な道具であることを知ったのです。
公共交通機関がなく、クルマなどが使えない貧困層にとって、自転車は貴重な移動手段です。自転車がなければ、工場などへ通えない、市場に農産物を出荷できないなど、生計を立てられなくなる人もいます。水を汲みに行ったり、食料など必需品を買いに行くためにも必要不可欠な手段だったりします。
救急車もタクシーも来ない地域で、病院へ病人を運ぶ手段だったり、子どもが学校へ通う手段だったりします。先進国のように、すぐ近くにそうした施設はありません。歩いては到底たどり着けない距離でも、自転車があればこそ生活が成り立つような人々もいるわけです。
そんな状況を知った兄弟は、自転車旅行を終えたところで、自分たちが使った自転車を、この国の慈善団体に寄付することにしました。そして、旅行を終えたプノンペンで出会ったのが、パームツリー孤児園にいた88人の女の子たちだったのです。そのほとんどは、人身売買の被害からの生還者でした。
この兄弟は、アメリカ・ワシントン州のシアトルに住むドキュメンタリー映画のディレクター、Dan Austin さんと、弟でオレゴン州ポートランドの小児科医で大学の助教授の、Jared Austin さんです。友人でニューヨークに住むデザイナーで起業家の、Nicolas Arauz さんも一緒でした。
彼らはアメリカに戻り、オンラインで資金を集めるキャンペーンを始めました。なんと2週間で目標金額を集め、2007年の1月、88台の自転車を持って、パームツリー孤児園に戻ってきたのです。この最初の88台の自転車から、“88bikes”の活動が始まったのです。
彼らが、支援活動として自転車を贈ることにしたのは、遠く東南アジアを自転車で旅行するような自転車好きだったからだけではありません。カンボジアで見聞きしたこと、経験したことで、自転車の価値や役割が先進国とは決定的に違うということを知った以外にも理由があります。
性的搾取の過酷な経験をした女の子たちは、自転車の贈り物を心から喜んでくれました。それだけではなく、自転車に乗れることは、男性と同等の気分になれる唯一のものだと話した子もいました。そして、そのことは、少女たちにとって、『自分には価値がある』と感じられる経験だったのです。
もちろん、彼女たちにとって、自転車は生活の手段として貴重な道具となります。それだけでなく、自転車に乗れるということが、彼女たちにとって大きな喜びであることを知ったのです。通学や生計を立てる支援となるだけでなく、自転車は幸せをもたらす贈り物であることに気づいたのです。
彼らは広く支援者を募り、一台につき88ドルの寄付を求めます。このお金は、現地の経済に資するよう、現地で自転車を購入するのに使われます。地元の業者と良い取引が出来れば、さらに、自転車の組立や輸送、修理や補修部品の購入に充てられるなど、この支援の目的に資するように使われます。
自転車には、寄付した人、支援した人の名前や顔写真、支援者の所在を示す世界地図が添えられます。これは、少女たちに、見知らぬ遠い国の人が、あなたを支援しているよと知らせるためのものです。あなたには、その価値がある、貴重な存在だと実感してもらうためです。出資者へは感謝の手紙が届きます。
この支援活動は、単に自転車を贈るだけではありません。心に負った傷をいやし、女の子たちが前を向いて立ち上がってもらうためのものでもあります。ぜひ、希望を持ってもらいたいと考えています。単に生計を立てる手段や移動手段ではなく、彼女たちに幸せを贈りたいと願っているのです。
その後、“88bikes”は、ウガンダ、ペルー、ベトナム、ネパール、インド、ガーナ、モンゴル、タンザニア、モザンビーク、南アフリカなどの国へも多くの自転車を届けています。さらに、自転車の修理技術や自転車を使った職務、裁縫のトレーニングなど、貧困からの脱出を助ける活動も行っています。
ところで、日本では子どもの人身売買など、遠い国のことのように感じる人も多いと思います。しかし、そうではありません。アメリカ国務省の出したレポートには、日本で見られる、いわゆる援助交際や、JKビジネスと呼ばれる事例は、性的目的の人身売買の例として取り上げられています。
私は、JKビジネスに詳しいわけではありませんが、確かに人身売買の被害もあると思われます。女子高生たちがアルバイト感覚で、このような店で自発的に働くケースばかりとは限りません。ただ散歩や食事につきあえばいいと思って来たら、実は性的な搾取に遭うというケースもあるでしょう。
最初は、家出や非行の延長のような感覚だったり、興味本位や高額のバイト料で引き寄せられたりするのかも知れません。しかし、無理やり恥ずかしい写真を撮られ、ネットでバラまくと脅され、逃げられなくなる事例もあると言います。契約書を書かされ、後で拒否すると、契約を盾に高額の違約金を請求して脅す手口もあります。
暴力団などの反社会的な組織が関係していることも多く、法的な知識も社会経験も乏しい少女たちに立ち向かえるはずがありません。結果的に強制的に性的な労働をさせられたり、売春や風俗産業などに売られるといった事例もあるようです。これは立派な人身売買です。
日本は、国際的にも人身売買の中継国、受入国だと指摘されています。東南アジアなどの送出国から、女性が日本へ送られてきます。貧困や薬物、借金など理由はいろいろでしょうが、日本に送られ、工場や飲食産業などで搾取的な労働をさせられたり、風俗産業などで性的搾取されています。
前出のアメリカ国務省の報告書の分類では、日本は人身売買の国別分類で、“Tier2”です。G7の他の先進国や、そのほかのヨーロッパ諸国、オーストラリア、韓国、台湾など31ヶ国・地域は、“Tier1”ですが、日本は、人身売買撲滅のための最低基準を十分に満たしていない国のカテゴリー、“Tier2”に分類されているのです。
アフリカや中東、東南アジア、南米などの89ヶ国と一緒です。その下のランクに、“Tier2 WatchList”の44ヶ国や、“Tier3”の23ヶ国、特別なケースのソマリアなどもあります。でも、努力中だが、基準を満たしていない“Tier2”に分類されているのは恥ずかしく不名誉なことです。
JKビジネスとか、外国人の女性が働いている店に行ったことのある人もいるでしょう。表向きは、そのような悲惨な境遇にいるようには見えないのは、商売ですから当然ですが、実は、どんな経緯があるかわかりません。興味本位で行ったとしても、それは人身売買に加担していることになります。
多くの国際機関やNPOが、女性や子どもを人身売買の被害から救出し支援しています。でも、一向にその被害が無くならない一因は、受入国があるからです。世界で人身売買被害者の支援をする人がいる一方で、日本は世界から、人身売買被害の拡大に加担している国と見られていることも知っておくべきでしょう。
新天皇の即位、改元の具体的な日程が絞られてきました。いよいよ平成の時代も終わることになるわけですね。