イギリスやフランスが2040年をめどに内燃機関のクルマの販売を禁止する方針を打ち出し、中国も国をあげてEV、電気自動車への転換を進めようとしています。こうした動きに乗り遅れまいと、世界的にEVの開発に力を入れるメーカーの姿勢が報じられています。
これまでヨーロッパでは、ディーゼルがエコカーとして普及してきました。しかし、フォルクスワーゲン社のディーゼル車の排出ガス規制をめぐる不正が発覚し、その悪質さもあって、ディーゼル車の信頼が完全に失墜したことも、EVシフトを加速させる要因となったようです。
中国では、深刻な大気汚染を減らすため、排気ガスを出さないEVに転換させようとしています。ガソリン車の開発競争では、欧米や日本に到底追いつけないと見ていることも背景にあります。大市場である中国をEVにシフトさせることで、自国のクルマ産業をEVで世界のクルマ市場で台頭させる、合理的な戦略と言えます。
ただ、EVの販売台数はまだまだ少ないですし、どのくらいのペースで伸びていくかについては、見方が分かれています。そう簡単には、ガソリン車から電気だけで走るクルマ、EVへの転換は進んでいかないのではないかと見る専門家も少なくないようです。
バッテリーの性能が向上しているとは言え、まだ航続距離が短いのが欠点です。多くのバッテリーを積むと重くなるジレンマもあります。夏や冬にエアコンを多用すると、さらに低下が著しく、ガソリン車と比べた不利は明らかです。今のところ、販売台数が全体から見れば僅かな割合にとどまっているのも当然でしょう。
充電の問題もあります。ガソリン車のように数分で充電満タンというわけにはいきません。自宅で夜間に充電するなら8時間ほどかかってもいいですが、昼間バッテリーが足りなくなった時、充電できる場所が限られている上、一回の充電に何十分もかかるのでは不便です。
急速充電できる場所が増えてくればいいですが、そのためには莫大な電力が必要となります。多くのクルマが急速充電するようになれば、従来のインフラでは間に合わず、発電所の増設が必要になると指摘されています。途上国や新興国ばかりではなく、先進国でも電力不足になる可能性があります。
例えば、テスラ社が発表した電動大型トレーラーの場合、わずか30分間の充電で400マイル(約640km)の走行が可能だそうです。しかし、そのためには1600キロワットの電力が必要となり、一台の充電に住宅4千戸分が使うのと同量の電力が必要になる計算だと言います。乗用車でも急速充電には相応の電力が必要です。
スマホなどを使っていても感じますが、バッテリーが劣化していくのも短所になります。中古車の価格が著しく落ちてしまいます。2〜3年使ったスマホのバッテリーを考えると実感がわくと思いますが、それと同じようでは、誰も中古車を買いたがらないでしょう。
ガソリン車と違って、寒冷地や日中に高温となる場所では、どうしてもバッテリーの能力が落ちます。EVは技術的な敷居が低く、誰でも作れると言いますが、バッテリーの温度管理からコストの問題まで考えると、実はガソリン車よりも開発は難しいと、クルマメーカーの技術者などが指摘しています。
そのほかにも課題は多々あります。2040年までという期間で見ても、必ずしも順調に普及が進んでいくとは言いきれないようです。ただ、これまでもそうだったように、課題を解決する新しい技術が開発されていくのも間違いないでしょう。意外に早く普及が進む可能性も否定できません。
今後、どのような展開になっていくかは、わかりませんが、世界的にEVにシフトしていくと見られており、世界各国のメーカーが開発に力を注いでいます。そして、来たるべきEVの普及を見据えて動き始めているのは、クルマメーカーだけではありません。
いざ、EVを購入したとしても、当面の問題として、充電スタンドが少ないのが不便です。航続距離が相対的に短いのは仕方ないとしても、充電スタンドを探すのが大変です。昼間出先で充電する場合、急速充電であっても何十分と待たなければならないのは不便です。
そこに、新たなビジネスの可能性を見出した人たちがいます。目下、ドイツはベルリンで活動している起業家の、Christian Lang さん、Philipp Anders さん、Paul Stuke さんの3人です。“
Chargery ”というベンチャー企業を立ち上げて活動を始めました。
彼らのアイディアは、まだ圧倒的に少ない充電スタンドを、出前してしまおうというものです。EVのユーザーが充電したい場所へ、充電用のバッテリーを持って行きます。ユーザーは、スマホのアプリを使って予約をすれば、希望する時間、場所で充電が出来るというサービスです。
この方法ならば、充電スタンドで何十分も待たずに済みます。どこかに駐車し、用事を済ます間に充電してもらえれば、数十分かかっても構わないでしょう。充電スタンドを探す手間もなく、自分の都合に合わせた時間、場所で充電が出来るわけです。
充電用のバッテリーの運搬には、自転車で牽引したトレイラーを使います。デリバリー先が広い駐車場とは限りません。道路端のパーキングメーターかも知れません。トラックなどで運んだのでは、往来の邪魔になって、バッテリーを降ろす作業をするのが困難な場合も多いはずです。
その点、自転車で牽引したトレイラーならば、小回りがききます。バッテリーの積み下ろしの手間も省け、スペースもとりません。充電用バッテリーを運ぶのにディーゼルのトラックを使うのでは、せっかくのEV向けのサービスなのに、イメージも良くないでしょう。
予約の場所と時間に充電用バッテリーを届けて充電し始めたら、その場にトレイラーごと置いて、いったん引き上げます。そして、時間を見計らって回収に行くという段取りです。その間、ユーザーは不在で構いません。用事を済ませて、クルマを駐車した場所に戻った時には充電は完了しています。
なるほど、言われてみれば簡単な話ですが、なかなかいい目の付け所と言えるでしょう。トラックなどで配送する構想は、一部の業者にもあったようですが、自転車とトレイラーを使うのは新しいと思います。こうしたサービスがあれば、EVも便利になるに違いありません。
現状では、充電スタンドの空きを探すのは困難です。ドイツでもまだEVが少ないため、数少ない路上のスタンドには、ガソリン車が駐車されていたりします。必要な時、必要な場所、必要な人のために充電スタンドのほうを移動させるのは合理的と言えるでしょう。
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いずれは、インフラとして固定の充電スタンドも増えていくでしょう。ただ、それは、なかなか進みません。ニーズがないとスタンドは出来ず、スタンドがないとEVがなかなか売れずにニーズが発生しないというジレンマ、ニワトリと卵の関係にあるのも理由でしょう。
固定のインフラが充実していく途上で、必要とされるサービスと言えるかも知れません。EVの不便さをカバーするサービスとして、EVの普及にも貢献するでしょう。その意味でも、この充電スタンドのデリバリーというのは、なかなか意義のあるサービスだと思います。
最初の顧客は、“DriveNow”というカーシェアリングの会社です。クルマメーカーのBMWと、Sixt というレンタカー会社の合弁で、2011年、ドイツのミュンヘンで始まりました。2017年10月現在で、世界9ヶ国で、約6千台の車両を運用しています。その一部にEVが使われているのです。
この“
Chargery ”は、“DriveNow”にとっての顧客サービスを向上させます。補完性の高い事業と言えるでしょう。“Chargery”は、エコでグリーンなスタートアップとして、“Greentech Award 2018”にノミネートされ、注目を集めています。今後は、個人客もターゲットにしていこうと考えています。
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バッテリーが高価なため、現在、モバイル充電ステーションとでも呼ぶべき、自転車トレイラーはまだ5台だけです。ただ、バッテリー会社などとも交渉を進めており、来春には最初の資金調達も行う予定です。来年末頃には、40台ほどの充電用トレイラーを用意し、サービスを拡大させていく計画です。
“DriveNow”との協業も進め、共同のテストなども行っています。来年以降は地域を広げ、2021年までにはヨーロッパの13都市をカバーし、350台程度にトレイラーを増やす計画となっています。EVの普及いかんによっては、さらに拡大することになるかも知れません。
まだまだガソリン車と比べ、不利・不便な面があるEVですが、少しずつ、脱化石燃料車への胎動が始まっています。普及の速度は、まだ予断を許さない面があるとしても、バッテリーなどの技術の進歩に加え、こうした新たなサービスの展開が、EVへのシフトを加速させていくのかも知れません。
タクシー会社の社長がタクシーの運転手に暴行とは驚きます。忘年会での酩酊には気をつけたいものです。