未来の都市の道路交通はどうなっていくのでしょうか。
いろいろ考えられるわけですが、ドイツ車メーカーのBMWは、未来の革新的都市モビリティコンセプトとして、“
BMW Vision E3 Way”を発表しています。クルマメーカーであるにもかかわらず、インフラとしての道路システムのコンセプトであり、しかも自転車用の高架道路網の構想です。
世界的に都市化が進み、人口の都市への集中が著しい中、モビリティの持続可能性は限界に来ており、渋滞や高水準の大気汚染などが、人々の生命、生活の質を著しく脅かしていると指摘しています。そこで自転車や電動二輪など専用の高架道路網を構築することで、都市の未来への課題を解決しようというものです。
この“E3 Way”は、持続可能で、効率的なモビリティを都市における生活の質の向上に結び付けるという目標に沿ったものです。BMWは、クルマやオートバイを提供するメーカーですが、供給者として、将来どのような動きが起きるかという疑問に対する答えであり、ビジョンだと言います。
“E3 Way”のE3は、“elevated”(高架式)“electric”(電動)“efficient”(効率的)の3つのEです。渋滞対策や大気汚染、温暖化ガス削減に取り組む都市が増えている中で、電動を含む自転車の利用を促進し、より安全で便利な移動手段とすることで、都市を支援するという考え方に立っています。
高架道路は自転車や電動二輪など専用で、時速25キロ程度に制限されます。電動とは言え、オートバイと自転車が混在することに違和感や危険性を感じる人もあると思いますが、スピードが同程度であれば、それほど問題はないでしょう。実際に、世界には電動二輪と自転車が混在して自転車レーンを走行している都市もあります。
構想ではモニターやセンサーが設置され、AIによって交通の流れが常時制御されます。また、高架道路には屋根がついており、雨水を利用して快適な温度に保つシステムも備わっています。クルマは一切入って来れないので安全ですし、当然立体交差なので、ノンストップで走ることが出来ます。
高架道路はモジュール化され、どこの都市でも対応でき、経済的に建設できるものにする考えです。もちろん、これまでの普通の道路網や、地下鉄その他の公共交通と併存し、接続することになります。そのために、出入口のランプや合流路が設置され、ショッピングモールなどにも結合されます。
これにより、都市内での移動が効率的で速くなるのは間違いないでしょう。サイクリストからすれば、素晴らしい構想です。あくまでもビジョン、構想ですから、現時点でぬか喜びしても仕方ありませんが、ぜひとも実現し、世界的にも普及してほしいと願わずにいられません。
ただ、こうした構想は決して目新しいものではありません。これまでにも、いろいろな人や団体が類似の構想を発表し、繰り返し語られてきました。このブログでも、何度となく取り上げています。一部、小規模な高架専用道路が実現しているところもあります。その点から言えば、特に驚くようなものではありません。
では、なぜクルマメーカーであるBMWが、このようなビジョンをここにきて発表したのでしょうか。多くの人が疑問に思うところでしょう。BMWグループは単なるクルマメーカーではなく、プレミアムな移動用の製品やサービスを提供するものとして、確立されたシステムに囚われない解決に取り組むと説明しています。
それ以上の説明はありません。なるほど、いろいろな可能性を考えておくことも必要でしょうし、都市の課題や取組みに対し、クルマメーカーがどのように貢献していくかという視点も大切でしょう。クルマに留まらない、総合的な都市とモビリティーの関係を提案することで、企業イメージのアップにもつながるかも知れません。
クルマメーカーが、その枠に囚われないビジョンを語り、研究をし、コンセプトを模索するのもいいでしょう。特にこれからのクルマが、これまでの延長線上にあるような変化ではなく、革新的な進化やパラダイムシフトが起こると目される中、従来型のクルマにこだわっていられないということかも知れません。
もちろん、自転車の活用が進んだとしても、クルマがなくなることはないでしょう。将来的に排気ガスは出せなくなるとしても、依然としてクルマは存在し続け、クルマでの移動のニーズも確実にあるのは間違いないでしょう。その意味で、未来のクルマとその他の交通の関係、都市インフラの形を考えるのは無駄ではありません。
もっと、穿った見方をするならば、地上の道路から自転車が隔離されることになるならば、クルマのドライバーにもメリットが出てきます。事故のリスクが減って、注意を強いられずに、もっとラクに運転出来たり、もっとスピードが出せたりするかもしれません。
ドライバーにメリットが出てくれば、クルマメーカーもクルマが売れるというわけです。事故の発生リスクが減るのは、被害者になるサイクリストだけではなく、加害者となりうるドライバーにも幸いです。クルマメーカーにとって、自転車専用高架道路は決して不利益をもたらすものではないわけです。
もっと違った見方が出来るかも知れません。近年、急速に自動運転のクルマの実現が視野に入ってきました。しかし、すんなりと実現するとは限りません。技術的には可能でも、よく言われるように、事故が起きた時の責任がドライバーにあるのか、オーナーにあるのか、メーカーにあるのか、といった問題もあります。
法的な問題をはじめとする社会的な準備という点では、まだ課題が山積しています。自動運転と手動運転が混在する過渡期にも、さまざまな混乱が起きるに違いありません。その途上では、誤認識や誤作動による死傷者が出たりすることも、当然考えられます。
例えば、突然子どもが飛び出してきて、ブレーキをかけても間に合わず、子どもを死傷させると見込まれた場合、そのまま突っ込むのか、あるいはハンドルを切って回避を試みて、結果的に乗車中の人を死傷させるリスクをとるのか、といった倫理的な問題も出て来ることが考えられるでしょう。
仮に将来、自動運転によって、歩行者や自転車に衝突するようなことがなくなったとします。歩行者や自転車に乗る人は安全になります。ならばと、クルマを気にせずに道路を横切ったりする人が出てこないでしょうか。歩行者や自転車が優先だからと、クルマの進路を妨害する人が出てきても不思議ではありません。
その時、いちいち回避して止まったり、減速したりしていては、移動速度が上がらないという事態も当然考えられます。自動運転で便利になったのはいいけれど、止まってばかりで、クルマは遅くて使い物にならないということになったりしないでしょうか。私の素人的な憶測に過ぎないでしょうか。
もし、そうなった場合、どう解決するのでしょう。これも素人考えですが、道路上で歩行者や自転車と完全に分離しようという議論になる可能性がありそうです。自動運転の実現のため、今以上に、歩行者や自転車がクルマの進行を妨げないような道路構造が必要だという話になってもおかしくないでしょう。
それならば、自転車は別途、高架道路を作って、そちらを利用させようという話になっても不思議ではありません。そこまで考えての、自転車専用高架道路の構想だと考えるのは、穿った見方でしょうか。私は、この構想を考えた人たちの頭の片隅にもないということは、ないような気がします。
自動運転になれば便利で、誰でも移動に使えてバラ色に見えます。しかし、同時にインフラも改善して、自動運転カーの邪魔が入らないようにしないと、実際問題として使えないというオチはないのでしょうか。もしかしたら、この“E3 Way”、そのへんの可能性を踏まえたものなのではないでしょうか。
サイクリストにとっては、それはそれでいいでしょう。近い将来、自動運転カーが現実の話になってきた場合、歩道や自転車レーンは、車道と完全にセパレートされるようになっていくという未来です。それはサイクリストだけでなく、自動運転車に乗る人にとっても、メーカーにとっても理想ということになるかも知れません。
これまでも、クルマと自転車、徒歩がもっとセパレートされるほうがベターでしたが、そうでない場所も多くありました。それが、自動運転の実現のために、分離の必要性が切実になっていくかも知れません。そうなれば、自転車専用の高架道路も実現していく可能性がありそうです。
全て高架のネットワークになれば理想的ですが、それも難しいでしょう。遠い未来のことはわかりませんし、短期間に劇的に変わる可能性も無いとは言いません。でも、将来の道路交通は今の延長線上で、地上の自転車レーンの分離が進んだり、部分的に立体交差になっていく、そんな予想が妥当なところかも知れません。
今日は全国的に気温が上がっているようです。でも来週は関東でも雪という予想があり、まだ春は遠いですね。