
最近は、どちらかと言うとシリアやイラクに注目が集まり、日本ではあまり報道されていませんが、依然としてアフガニスタン国内では戦闘が続き、治安が急速に悪化しているようです。つい先日も首都カブールでタリバンによる大規模な自爆テロ攻撃があり100人以上の死者が出るなど、混迷の度合いを深めています。
1970年代後半の軍事クーデターに続いて勃発したアフガニスタン紛争、当時のソビエト連邦の侵攻、アメリカの同時多発テロに続くタリバン政権と米軍の戦争、さらにISIS系も含めた武装組織によるテロの多発です。トランプ政権は昨年、撤退方針から一転して米軍増派を決めましたが、ますます先が見えなくなっています。
世界からの支援で復興が進んだ時期もありましたが、ずっと断続的な戦乱の中にあります。当然ながら同国の1人当たりのGDPは世界平均の1割にも満たず、国民は貧しい生活を強いられています。食料から医療など多くのものが不足しており、衛生状態も悪いと言います。
ただ、困難な状況に置かれているアフガニスタン国民は、それでも逞しく生き抜いています。もう、ずっと戦乱が続いているわけで、生まれてからこの状態が当たり前という人も少なくないと思いますが、戦闘にテロ、治安の悪さ、貧困、物資の欠乏、衛生状態の悪化などに絶望しているわけにはいきません。


驚くのは、こうした状況でも自転車に乗って練習に励んでいる人がいることです。しかも女性たちです。ただでさえ困難な状況ですが、アフガニスタンはイスラム教の国です。女性には、宗教上のさまざまな制約があり、伝統的な慣習によって、偏見、差別、危険、不自由さに満ちています。
法律的に違法ではありませんが、女性が自転車に乗るのはタブーです。小さな女の子を含めて、女性が自転車に乗っている光景なんて見たことが無いという国民がほとんどだと言います。アフガニスタンだけでなく、イスラム教の戒律の厳しいところでは、女性は外出すら自由に出来ません。


女性のスポーツも一般的ではありません。そんなアフガニスタンで、自転車に女性が乗っていれば奇異の目で見られます。タブーであり、不道徳であり、それは一族の恥だとか、宗教的な冒涜だとして、男性はもちろん、同じ女性であっても許さないとする人が大多数です。
街を走っていれば、石を投げられることもありますし、下手をすれば性的暴行を受けかねません。家族や親せきであっても理解されなかったり、場合によっては虐待を受けかねないと言います。実際にイスラム教の国では、タブーを犯した女性を一族の男性が撲殺するといった事件も起きています。


15人の女性サイクリスト、そのうち6人はアフガニスタンの自転車競技のナショナルチームに属します。始めたのは、サイクリングに魅了されたからと、訳もないことのによう話しますが、勇気がなくては出来ません。彼女たちは、女性への抑圧や宗教的因習に囚われず、新しい時代を切り開く存在でもあります。
ナショナルチームと言っても、元はほとんどが初心者です。練習すら容易ではなく、資金も資材もありません。国内に競技者はほとんどおらず、試合もありません。同じイスラム教の一部の国に行けば大会もありますが、当然ながら遠征資金などあるわけがありません。


でも、そんな中で活動していた彼女たちに関心が寄せられるようになり、ドキュメンタリー映画も作成されています。“
Afghan Cycles”です。ただでさえ、戦乱やテロ、貧困など困難な中、宗教的なタブー、因習に屈することなく自転車に乗る女性たちの物語です。根強く残る女性差別の意識撤廃を訴えるメッセージでもあります。
自転車は、歴史的にも自由と解放の象徴とされてきました。19世紀の欧米でも、女性の権利は大きく制限されていました。参政権などはもちろんですが、自転車に乗ることすら、女性にとっては不道徳で蔑まれる行為と見なされていました。それを女性たちが勇気を持って自転車に乗ることで切り開いてきた歴史があります。
その歴史は、21世紀のアフガニスタンにも受け継がれています。男女平等などは、まだ夢のまた夢ですが、自転車に乗ることで、女性に対する差別や偏見、制約、因習などが少しでも減ればいいと考えています。自分たちの行動が、それに貢献することも期待しています。
もちろん、社会的、政治的なアピールとして自転車に乗っているわけではありません。乗りたいから、自転車が好きだから乗っていると選手たちは話します。でも、もっと多くの女性たちが自転車に乗れるような社会になることを願っています。それは彼女たちの大きな夢、希望でもあります。


戦闘とテロ、貧困と不衛生、最悪の治安に加えて宗教的理由、因習により、アフガニスタンは、女性が生きる上では、世界で最も危険な場所の一つとしてランクされています。そんな中でも困難に屈せずに自転車に乗る女性たちの姿は、多くの人に驚きと共感をもたらしました。
世界では、このアフガニスタンの女性サイクリストとの連帯を表明する団体も出てきました。2016年には、イタリアの国会議員のグループにより、ノーベル平和賞にノミネートされました。アフガニスタンの女性の社会的な権利の代弁者としても高く評価されています。
近年は支援してくれる国際的な団体が現れ、練習環境も向上しました。自転車メーカーのジャイアント社からは機材の提供やサポートも受けられるようになりました。彼女たちの目下の目標は、2020年の東京オリンピックの参加資格を得ることです。そのために一生懸命練習しています。
もちろん、実績も何もありません。しかし、オリンピックに出場し、アフガニスタンの女性の決意と勇気を世界に示すためにも戦っています。少し前まではほとんどの人が初心者だっただけでなく、国の置かれた状況や、宗教的、歴史的な背景から言っても、ハンデどころの話でありません。

普通に考えたら、無謀でナンセンスかも知れません。しかし、これほどの困難な中にあって諦めることはありません。文字通り命がけで練習しています。これほどの勇気を持った選手たちもいないでしょう。東京オリンピックまで、あと2年半、ちょうど900日です。ぜひ東京で彼女たちの姿を見たいものです。
インフルエンザが大流行しています。立春寒波で日本海側では大雪、各地で気温も低く、体調には注意ですね。
Posted by cycleroad at 13:00│
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