検索サイトから来られる方も多いので断っておきますが、ここで言う自転車通勤は、最寄り駅まで自転車を使うことではなく、直接職場まで自転車で行く自転車通勤です。以前は、電車でなく自転車で職場まで通勤するなんて、よほどの変人か自転車オタク、社会人スポーツの選手など特別な事情がある人だと思われていました。
そこには、自転車が歩道を走行するという日本独特の事情があります。何十年もそれで来たため、タイヤが太く、重くてスピードが出ない代わりに、足つき性がよく、歩道をゆっくり走行するのに適したママチャリに乗る人が圧倒的多数を占めてきたという日本独特の環境です。
ママチャリは遠くまで行くのに向いていません。スピードが出ませんし、第一、歩道を歩行者を避けながら走るのでは速く走れません。最寄り駅よりも遠くへなんて、行ったことのない人が多く、職場まで通勤なんてことが出来るとは思っていない人、考えたこともない人が大多数だったわけです。
それが、自転車は原則車道走行という当たり前のことが少しずつ知られるようになり、スポーツバイクにも注目が集まるようになりました。いろいろなメディアでも取り上げられ、世間の認知度も上がり、それほど特殊な話ではないことが理解されるようになってきました。

やってみれば、それほど時間がかからず、経路や、乗り換えとか朝の列車の遅延状況などによっては、同等か、より速く着いたりします。満員電車のストレスから解放され、運動不足も解消、安くてエコで、朝から頭が働き仕事がはかどるなど、そのメリットも知られるようになりました。
もちろん、依然として電車やクルマなどで通う人のほうが圧倒的に多く、全体から見れば、僅かな割合でしょう。しかし、認知度は大きく向上し、少なくとも不可能とか、異常なものとは見られなくなってきました。興味を持ったり、やってみたいと思っている人もあると思います。
ただ、そうは言っても、ハードルが高いと感じている人も多いのは確かでしょう。すぐ実行してみる人もいる一方で、なかなか実行に踏み切れない人も多いのではないでしょうか。わからないこともありますし、心配もあるでしょう。周囲に聞ける人がいるとは限りません。
必要な装備とか、注意すべきことなど、一通りのことは調べてわかったとしても、まだハードルがあります。実際にどんな道順をとるべきか、途中で迷ったり道を間違えたりしないか、アクシデントの時どうするかなど、不安なことはいろいろあります。何より、一人で心細いということもあるに違いありません。

そんな時、もし、こんなグループが身近にあったら自転車通勤にも踏み切りやすいでしょう。アメリカはニューヨークで自転車通勤する人たちのグループ、“
NYC Biketrain”です。このグループの趣旨は単純明快、一緒にニューヨークの中心部まで自転車通勤をしようというものです。
いくつかルートが決まっています。住んでいる地区から近いルートの出発地点に決められた時間に集まるか、ルートの途中から合流して、一緒に連なって走行します。ルートごとにリーダーが決まっていて、ネットから誰でも参加を申し込めます。もちろん料金は一切かかりません。
初心者をサポートしようというのが目的ですから、誰でも参加出来ます。朝、出発地点でコーヒーでも飲みながら、メンバーが集まるのを待ちます。出発したら、初心者でもついてこられるようなスピードで走ります。当然ながら、急いでいる人、少しでも早く着きたい人には向きません。

それでも、見ず知らずの人を受け入れ、一緒に走ろうという人たちです。自転車通勤を始めたい、でも自信がないというサイクリストのためのボランティア活動です。この活動を通して、ニューヨークの自転車コミューター(通勤者)が増えることはいいことだと考えている人たちなのです。
同時に、自転車好きで、比較的近くに住んでいる新しい友達が出来るのがメリットです。所要時間が多少増えても、自転車好きの仲間と一緒に通勤するほうが楽しいじゃないかと考える人たちでもあります。ニューヨークのサイクリスト人口が増えることにもつながるでしょう。
純粋に自転車の良さ、楽しさを知る人を増やしたいという気持ちもありますし、不安な初心者をサポートしてあげられるのは嬉しいことです。また、法律を守り、安全を重視することを優先しており、ニューヨークの自転車コミューターのモラル向上の一助になればとも考えています。

自転車になんて何十年も乗っていないので出来るだろうか、脚力に自信がないのでついていけるだろうか、といった不安を覚える人にも、親切に大丈夫と答えています。さすがに、帰りの時間はまちまちでしょうから、朝だけですが、不定期に有志で週末に集まるライドイベントなども開いています。
自転車通勤をやったことのない人、やりたい人にとって、これほど心強いことはないでしょう。道に迷ったり間違う心配もないですし、突発的な事情で迂回しなければならないといった、いつもと違う状況が起きても経験者がいれば安心です。何より、一人ぼっちで心細いことはありません。
ベテランの人から、ルートの沿道のお勧めの店とか、耳寄りな情報も教えてもらえるでしょう。多少遠回りだけど走りやすい道とか、かえって速いルートなんかもわかってきます。ルート上で注意すべき地点もわかりますし、起こりがちなトラブルを避ける方法といったノウハウを蓄積するのにも持ってこいです。

なかなか興味深いグループ活動です。ただ、残念ながらこの“
NYC Biketrain”、現在は休止となっています。サイトはあるので、再開する可能性はありますが、まだその予定は決まっていません。サイトのルート情報を元に、誰か別の人が始めることは歓迎しています。
全くの無料であり、有志の人の好意が活動のベースです。コンセプトは素晴らしいと思いますが、続かないこともあるのでしょう。グループ通勤を休止したからと言って、リーダーたちを責めるわけにもいきません。このあたりが、全くの善意で行われている活動の弱点と言えば弱点でしょう。
特定の仲良しのグループなら長く続くかも知れませんが、誰にでも開かれ、見知らぬ初心者が入って、常に入れ替わるようなグループの場合、いろいろ難しいこともありそうです。教えてあげるほうにしても、モチベーションがいつまでも続くとは限りません。

初心者が慣れて、リーダーを交代して続けるような循環が出来れば理想ですが、教わっても教えることに興味のない人もいます。寄付などを元に非営利法人としてサービスを提供するような事業とは違い、善意を強要するわけにはいかず、仕方のないところです。
一緒に自転車通勤するだけと、簡単なことのように見えて、それを続けていくのは簡単ではないようです。ただ、コンセプトは面白いと思います。全く見ず知らずの人と知り合いになれるというのも魅力的です。ふだん、職場の同僚とか、学生時代の友人とか、ママ友とか、限られた人としか付き合わない人は多いと思います。
職場の仲間とは毎日顔を合わせますし、学生時代の友人は同じ年で、似たような環境の人が多かったりします。それに比べて、このようなコミュニティは、ふだんあまり知り合えないような人、自分の友達にはいないようなタイプの人とも知り合えたりします。

自転車通勤ではありませんが、私も似たような経験があります。世代も違えば、性別も、職業も、育った環境も、考え方も、置かれている状況も、場合によっては国籍も言語も文化も違う人たちと、何かの共通点で知り合い、仲良くなるというのは、なかなか普段ありませんが、面白い経験です。
自転車通勤という共通点だけでも、仲良くなれそうです。見ず知らずの人に声をかけるのも、今はSNSがあるので、昔とは比較にならないくらい簡単でしょう。例えば、東京へ通う人を広く組織するのは難しいでしょうが、地元からの1コースだけなら誰でも出来そうです。思い切って立ち上げてみるのも面白いかも知れません。
いよいよ平昌の熱戦が始まりました。一部で政治的な話も伝わってきますが、純粋に観戦・応援したいものです。