June 23, 2018

自由な力と発想でギアを回せ

自転車は進化してきました。


This image is in the public domain.200年前、自転車が誕生した頃には、ペダルもギヤもチェーンもブレーキもなく、足で地面を蹴って進むものだったわけですから、大きく変わりました。近年は、さほど形は変わっていませんが、細かい改良や素材や加工技術などの進歩ともあいまって、進化は続いています。

電動アシスト自転車の登場なども進化と言えるでしょう。これによって、自転車が全てが電動アシストになったわけではありませんが、広く普及しました。さまざまなタイプに分化し、一つに収束しないのも特徴と言えますが、多様性が広がるのも進化の形でしょう。

自転車は乗り物であり、身近な道具ですが、機械でもあります。機械の要素として、例えばクランク機構があります。自転車のパーツとしてもクランクと呼びますが、往復運動を回転運動に変換する機構です。クルマのエンジンのピストン運動をクランクシャフトでタイヤの回転に変換しているのと一緒です。

シンプルですが機械である以上、改良の余地があります。クランクで言えば、構造上どうしても死点、上死点と下死点が出来てしまいます。自転車では大きな問題になりませんが、クルマや蒸気機関車などで、もし死点で停止してしまえば、理屈としては再起動、再発進できなくなります。

この弱点を克服するため、フライホイール(はずみ車)を使ったり、複数のピストンがある場合には、位相差をつけることによって、完全な死点が出来ないようにしています。自転車では、普段あまり意識していませんが、クランクが真上と真下に来た際、力が伝わらないというのは感覚的にも理解できると思います。

自転車に乗っている時には、クランクは連続で動いており、勢いがついているので特に問題になりません。ただ、急な上り坂で、力任せにペダルをこいでいるような場合、クランクが上下の位置に来た時に止まってしまうと、力が入らず、足を着くしかなくなってしまうのは、経験的にわかるでしょう。

SHIMANOThis image is in the public domain.

このクランクの構造的な弱点をなくそうと、これまでにも試行錯誤されてきました。このブログでも、大きなフライホイールを搭載した自転車とか、楕円のチェーンリング、クランクの角度をずらしたものなど、いろいろ取り上げた記憶があります。

さて、このクランクの構造的な弱点を改善する、新たな発明がなされました。それが、「FREE POWER(フリーパワー)」です。開発したのは、日本の、(株)FREE POWER という会社で、販売元はサイクルオリンピックという会社です。

チェーンリングの、クランクからの力をチェーンに伝える部分にシリコンが挟んであります。仕組みとしてはシンプルです。ペダルを踏みこむ力でシリコンがつぶれ、クランクが死点を通る際、すなわち力が伝わらない時に、シリコンが元に戻ります。この時にシリコンの復元力がチェーンに伝わるという仕組みです。

FREE POWERFREE POWER

クランクが死点を通る際、構造上、力が伝わらない時にチェーンリングを回す力になるわけです。開発元によれば、加速性能が2割アップする、長距離や坂道走行に強い、ヒザにやさしい、筋肉負担を軽減するなどの効果が見込めるとしています。

これはペダルをこぐ力に対して、アシスト力のように作用します。つまり、電動ではないアシスト自転車のようになるわけです。バッテリーも電動モーターも必要とせずにアシスト自転車が実現することになります。これは、なかなか画期的なことと言えるでしょう。

このフリーパワー、以前から一部の新聞などでは紹介されていたのですが、今月17日にテレビの朝の情報番組で放映され、大きな反響を呼びました。私も録画していたので先日見たのですが、番組の中では、画期的な発明として取り上げられていました。

FREE POWERFREE POWER

番組では、ふだん電動アシスト自転車に乗っているという、経済評論家の森永卓郎さんがフリーパワーが取り付けられた自転車に乗り、坂道を登っていました。ペダルが軽くてスイスイ登れる、これはスゴいと驚いていました。一切、電気もモーターも使っていないのに、驚きの効果だと絶賛していました。

テレビ番組なので、コメントには多少の誇張はあるにせよ、たしかに映像で、普通の自転車ではキツイ坂をラクラクと登っているように見えます。もし本当にそれだけの効果があるならば、凄いことです。これまで順調に売り上げを伸ばしてきた電動アシスト自転車に取って代わることにならないとも限りません。

電動アシスト自転車と比べて、実にシンプルなシステムです。バッテリーもモーターも不要なので、重量的にも有利です。チェーンリングとクランクの部分を交換するだけなので、既存の自転車にも取り付けることが可能です。もちろん価格的にも有利なのは間違いありません。

開発元や販売元には問い合わせが殺到しており、販売会社サイクルオリンピックの親会社、Olympicグループの株価は、2日連続でストップ高となるほど急騰しました。この、Olympicグループは、首都圏を中心に食品スーパーやディスカウント店を展開する東証一部上場企業です。



もし電源もモーターも無しに電動アシスト自転車並みのアシスト力が見込めるのであれば、市場が一変する可能性があります。わざわざ高い電動アシスト自転車を買う必要がなくなり、フリーパワー搭載の自転車か、既存の自転車の部品交換で済んでしまうことになります。

当然ながら、影響は日本の自転車市場にとどまらないはずです。同社も国際的な展開を視野に入れています。すでに日本、台湾、中国での特許を取得しており、ヨーロッパやアメリカでも特許申請中だと言います。世界を席捲する可能性があるわけで、そう考えると親会社の株価が連日ストップ高になるのも無理はありません。

ただ、物理的、エネルギーの面から考えると疑問も浮かんできます。このアシスト力はどこから来るのでしょう。電気もモーターも使っていないので、当然ながら乗る人の脚力です。エネルギーがどこからか湧いてくるわけではありません。脚力でシリコンを潰し、それが戻る力がアシスト力になります。

結局のところ、アシストしているのも自分の脚力ということになります。つまり、シリコンを潰す過程では、通常のペダルを回す力より、余計に力が必要になるはずです。そのぶんの力が、死点の通過時にアシストとして還元されるというわけです。

しかし、このことによって、死点でも力が加わる形になるため、ペダルが軽く感じられるということなのでしょう。エネルギーが増えるわけではありませんが、力のかかり方が変わることで、よりペダルが軽く感じられ、坂道がラクになるものと思われます。

FREE POWERFREE POWER

コロンブスの卵的なアイディアと言えるかも知れません。結果としてペダリングの効率が良くなり、アシストパワーのように感じられるようです。しかし、森永さんが普通の自転車では登るのが困難な坂を、スイスイ上れてしまうのですから、効果的なアシスト自転車なのは間違いなさそうです。

特許がおりているだけでなく、大学や中小企業庁などからも、その性能や可能性については高い評価を受けているそうです。一昨年くらいから、一部のメディアでは取り上げられていましたが、テレビに出たことで、一挙に知られることになったということのようです。

シリコンを挟んだだけのシンプルな仕組みです。言われてみれば、実に簡単なアイディアですが、これはそうそう考え付くことではないでしょう。発明したのは、開発元の(株)FREE POWER の代表取締役である浜元 陽一郎さんという方ですが、この方、実は元々は社会保険労務士なのだそうです。

テレビにも出演されていました。失礼ながら、どこにでもいそうな普通の65歳のおじさんにしか見えません。社会保険労務士であり、専門家でもエンジニアでも科学者でもありません。普通の人、いわば素人が、この発明を生み出したという事実にも2度ビックリです。

この浜元さん、交通違反で免停になり、1ヶ月ほど自転車に乗る機会があったそうです。しかし、漕ぎ出すたびにペダルが重く、なんとかならないものかと感じたと言います。そこで、素人、門外漢にもかかわらず、独学で開発をはじめ、なんと、わずか半年で試作品の製作に至ったと紹介されていました。

FREE POWERFREE POWER

自分では製品化のノウハウがなかったので、たまたま知り合った、サイクルオリンピック社と共同で製品化したそうです。当然ながら、浜元さんにその資質があったということだとは思いますが、どこに発明の種があるか、誰に画期的なアイディアが降りてくるか、わからないものです。

現段階で、この発明がどの程度普及していくかはわかりません。テレビで見た限りでは、電動アシスト自転車を駆逐してしまいそうにも思えます。ただ、私は実際に試乗したわけではないので、スポーツバイクにまで採用が進むのかについては判断できません。

ペダルをこぐと、フワフワとした感じだそうです。パワーの伝わり方にロスが発生する可能性もあるでしょう。ロードバイクで登坂するようなケース、すなわちケイデンスを上げてペダルを回すような乗り方にも適しているのかといった点は不明です。

少なくともシティサイクルには向きそうです。パーツを変えるだけでアシスト自転車のようになるのであれば、画期的なことだと思います。果たしてこれが自転車をどう変えていくのか、どの程度の影響を及ぼすのかはわかりませんが、これもまた自転車の進化であることは間違いなさそうです。




W杯が日本でも盛り上がってきました。ポーランドを破ったセネガル、かなり強敵ですが頑張ってほしいものです。

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この記事へのコメント
永久機関が無いのと同じで
結局はパワーをロスしているだけです
どれだけパワーロスを抑えるかに皆んな苦心している
ロードバイクでは有り得ません
ギヤ比を落とした楕円ギヤの方が実用的でしょう
Posted by あるふぁ at June 24, 2018 01:19
かなり怪しいですね。
似非科学的な発明のような気もします。
今後の展開が非常に楽しみです(いろんな意味でね)。
Posted by Shigeo at June 24, 2018 20:03
自転車の歴史を辿ると、この種の「力を掛けやすい時に駆動力の一部を割いて蓄えておき、力が掛けにくい時に推進力として使う」という発明はバネに気圧に可動錘りと手段を変えて数限りなく存在しますが、どれ一つ普及しなかった所を見ると相当な難関ですね。

どうもデモ動画ではこの装置の装着車と非装着車でギヤ比が違う様に見えてしまうのが引っ掛かります。この企業の主張する「加速20%アップ、筋力負担60%削減」が事実なら私もサガンやキンタナと渡り合えそうな位に凄い事なので、有無を言わさぬデータでバシッと効果を立証してくれないかなあ…。
Posted by Tom at June 24, 2018 20:24
これはママチャリしか乗った事がなくて両足が地面にベッタリと着くようにサドル高を合わせて窮屈なペダリングをする人には一定の効果があるように思えます
あとは交換によってクランク長の最適化が出来るってのも効いているのかも
単品販売はせず、店頭のみのチェーンとペダルのセット販売ってのが残念なとこですね
Posted by 乗り物大好き at June 24, 2018 21:09
cycleroadさんおはようございます。
私もTVで観ました。
私もそうですが、ペダリングスキルの低い人には効果が有るかもしれません。
しかしながら、クランク周りの重量増や、
シリコンゴムの劣化等メンテナンスの問題はどうなのでしょうか。
ロードバイクにも使える代物なのか、気になっています。
Posted by Fischer at June 25, 2018 09:21
こんにちは。
以前cycleroadさんが紹介されていたのでは??? 記憶が曖昧ですが、僕もどこかで情報を得て時々ネットでチェックしていました。最近ホームページが新しくなり、購買意欲が湧いてきているところでした。15,000前後という情報もありますので、その程度の価格で未知の感覚を味わえるとしたら安いと思います。
Posted by INTER8 at June 25, 2018 12:35
あるふぁさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
永久機関がないのとは論点が違います。本文にも書いたように、どこからかエネルギーが増えるとは誰も思っていないでしょう。
私もロードバイクで有効かについては疑問が残りますが、乗り手が余計にエネルギーを使っている感じがしないのに、結果的により大きな推進力を生むのだとしたら効果的と言えるでしょう。
ペダルの回転を効率的にすることで、坂がラクに感じる可能性はあるかも知れないと思います。
Posted by cycleroad at June 25, 2018 20:32
Shigeoさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
これまでの常識では考えにくい、あるいは驚くというのはあります。少し前に開発されたのに、これまでなかなか理解されなかった理由も、そのあたりにありそうです。
ただ、実際に乗ってみて明らかな効果を感じている人がいるのも確かです。そうでなければ、わざわざ一般のテレビ番組で取り上げないような気がします。
科学的と言うより、効率化させる、ちょっと意外な方法、コロンブスの卵的な発想という可能性はあると思います。
Posted by cycleroad at June 25, 2018 20:44
Tomさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
たしかに、どの程度普及するかはわかりません。
ただ、例えば、はずみ車のように、それ自体を回すのに余計にエネルギーを使うけれども、結果的に回転が効率的になるということはあり得る気がします。
いったん、はずみ車が回り出すと、ペダルがラクになりますし、実際にその効果が認められて搭載されている器具もあります。
今後、どのように評価されていくのか気になりますね。
Posted by cycleroad at June 25, 2018 20:54
乗り物大好きさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
これまでの常識からすると、一見、眉唾のようにも見えますが、実際に体感している人も少なくないわけで、こうして全国ネットのテレビ番組でまで取り上げられるようになったのでしょう。
どのくらい普及するかは別として、一定の効果が感じられのは確かなようですね。
Posted by cycleroad at June 25, 2018 21:01
Fischerさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、どの程度の効果があるものなのか、シティサイクルでは一定の効果があるようですが、ロードバイクでも使えるのかは気になります。
番組を全て真に受けるわけではありませんが、画期的と評価する人もいるわけですし、これだけ取り上げられていることを考えると、頭ごなしにナンセンスと決めつけるようなものではない気がしますね。
Posted by cycleroad at June 25, 2018 21:12
INTER8さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
よく覚えてらっしゃいましたね。このFREE POWERについては、2016年の4月に取り上げました。
ただ、その時は小さな新聞記事を見つけただけだったので、具体的にどのようなものだか、詳しくはわかりませんでした。
『言ってみれば、電力不要でゴムでアシストする自転車ということでしょうか。どのようなものか、実際に見てみないとわかりませんが、新発想のパーツのようです。日本のものづくり、技術力のある中小企業の中には、画期的なブレークスルーの可能性が眠っているのかも知れません。』
と当時はコメントしました。
その時は、完成品の自転車として売り出す計画だったようですが、他の部分でニーズや好みが分かれてしまうので、今の戦略のほうがベターだと思います。
Posted by cycleroad at June 25, 2018 21:28
こんばんは
力がロスする場合というのは、砂浜を走るイメージです
足が砂に埋まって力が吸収されてしまいますよね
対して跳び箱の踏み台がこの FREE POWER だと思うんです
踏み台を踏んだ力は一旦は沈みますが、反発して返ってきます
これと似たことが FREE POWER の内部で起こっていると思うんです
脚力と回転数とエラストマーがうまく同調した時、自転車が予想以上の進み方をするのではないでしょうか
Posted by INTER8 at June 27, 2018 00:44
INTER8さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
たしかに、跳び箱の踏み台みたいなものかも知れませんね。
結局、使えるのは脚力だけなわけで、シリコンを潰すのに余計なパワーを使っているようにも思えますが、必ずしもパワーがロスするだけで無駄だとは限りません。

例えとして適切でない気もしますが、今まで裸足でアスファルトを走っていたところを、ゴムの靴底のついたシューズで走ったほうが、その反発力も使えて走りやすくなったり、結果として速くなったりするのと似ているかも知れませんね。
Posted by cycleroad at June 28, 2018 20:39
 
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