多くのスポーツで走る動作がありますし、単純に走らないとしても、基礎的なトレーニングとしてランニングをするスポーツは多いと思います。歩くのも人間の基本的な動作だと思いますが、走るのも運動以前に、人間の自然な動作の一つと言えるでしょう。
人類の祖先が何百万年前かのアフリカで、それまでの樹上生活からサバンナに降り立ち、二足歩行を始めた時から、おそらく必死に走ってきたに違いありません。獲物を追いかけたり、肉食動物に追いかけられたりしながら、走る能力を高め、骨格や筋肉を発達させてきたのでしょう。
ところで、走るのが人間の自然な動作である一方、自転車に乗る動作は少し違います。クランクやチェーンなど、とてもシンプルな機械を使って移動する動作としては、かなり自然だとは思いますが、動きとしては、サドルにまたがってペダルをこぐため、どうしても機械的な制約があります。
動力を使わないのに、走るよりもはるかに速く、効率よく移動できるという点で、自転車は画期的な発明です。ただ、走るのとは違い、せいぜい200年ほど前からに過ぎず、人類の自然な動作とまではいきません。両足を交互に動かすなど、走るのに似てはいますが、似て非なる部分があります。
ロードレースのプロ選手は、一日に何百キロも自転車に乗って練習します。ほとんど一日中、自転車の上にいるような状態です。ペダルをこぐための筋肉が鍛えられるわけですが、そんな生活を続けていると、自転車を降りて歩く時に、とても不自然な歩き方になってしまうと言います。
つまり、あまりに自転車をこぐための身体、筋肉になってしまうため、歩いたり走ったりするのが下手になってしまうのだそうです。このことをみても、走るのに使う筋肉と、ペダルをこぐための筋肉は、同じ足でも微妙に違う、あるいは筋肉の使い方が違うということがわかります。
たまたま前々回も取り上げましたが、クランクによる回転運動ではなく、ステップを踏みこむ動作で走れる変わり種自転車もあります。しかし、この動作も走るのとは違います。足踏みするような形ではありますが、その場で足踏みするのと、走るのでは違う足の動きになるはずです。
自転車での運動は、ランニングと違ってヒザなどの負担が小さいことが特徴です。普通にランニングするだけでも、一歩一歩の着地の際に、体重の何倍もの力で、衝撃が加わることになります。これによって、ヒザなどの関節を故障したりしやすくなるわけですが、自転車ならば着地の衝撃はありません。
その点は、ランニングにはないメリットと言えます。ビザなどへの負担をかけずに、有酸素運動や、心肺機能を高めたりすることが出来るわけです。しかし一方で、厳密に言うと、ランニングの練習の代わり、走る筋肉のトレーニングには向いていないことになります。
そこで、もっと自然な形でペダルをこげないかと考えた人がいます。オーストラリアはシドニーに住む、
Steve Cranitch さんです。出来た自転車が、“
Bionic Runner”、立ち漕ぎしているのではありません。特殊なペダルになっており、足の動きを見ると、ランニングに非常に近い形で動いていることがわかります。
普通のペダルよりは複雑ですが、なるべく少ないパーツで構成しながら、動作が走るような形になるよう工夫されています。これであれば、走るのにより近い形、自然な動作で自転車に乗ることが出来ます。ヒザなどに故障を抱えたランナーの筋力トレーニングやリハビリなどにも使えそうです。
もちろん、マラソン選手などは、最終的には走らなければ話にならないわけですが、ヒザなどへの負担を減らしてトレーニングの量が増やせるのはメリットではないでしょうか。トレーナーに取り付けれは、室内でもトレーニングすることが可能です。
開発者の、Steve Cranitch さんは、“Bionic Runner”というネーミングでもわかる通り、ランナーのために開発しました。新しい自転車というより、ランナーのための機器です。ランナーの負担や故障のリスクを少なくしつつ、より速く、より良いランナーになることを可能にしたいと語っています。
ネット上には一部の愛用者による感想やレビュー、レポートが載っていますが、高齢のランナーにとっても、ありがたいアイテムとなっているようです。関節に負担をかけずに、筋肉やじん帯は強化されるので、レース本番に向けた練習に役立つと喜ばれています。
足で直接走る場合は、どうしてもスピードや運動強度に限界がありますが、“Bionic Runner”を使えば、より長い時間、心拍数を上げたり、心肺機能を高めることも可能としています。本体は、サドルなどが無い分、軽くなっており、重量は8キロほど、折りたたむことが出来るので、クルマなどに積んで出かけることも出来ます。
ランニング、ランナーのための自転車というのは、新しい視点と言えるでしょう。自転車を、より人間本来の動作に近づける改良と見ることも出来ます。長時間の乗車により、サドルでお尻が痛くなることもありません。これが広く受け入れられるかは別として、自転車の進化の方向は、まだいろいろあるのかも知れません。
日本に上陸した台風で西進するものは初めてだそうです。西日本豪雨の被災地を通過しているのが心配です。
Posted by cycleroad at 13:00│
Comments(0)