自転車には、使い方に応じて種類がいろいろあります。
ママチャリのように汎用性が高く、いろいろな用途に広く使われるものもありますが、何か単一の用途に使おうとすると、使い勝手が良くないということがあります。人間が出せる脚力は限られていますので、なるべくなら効率が良いに越したことはありません。
ロードバイクで山道を走ったり、逆にMTBで舗装道路を走るのは効率が悪く、パワーのロスになったりします。荷物を運ぶならカーゴバイクのほうが効率よく運べます。フォールディングバイクやファットバイク、電動アシスト自転車など、それぞれ得意とする分野があり、同時に長所短所があります。
とにかく速く走る、スピードを出すことが目的ならば、リカンベントです。日本で見かけることは少ないですが、仰向けのようなスタイルで乗る自転車です。ペダルは前輪より前にあります。ペダルに力が入れやすく、空気抵抗が少ないので、スピードが出ます。速く移動したいならリカンベントということになります。
ロードレースの大会にリカンベントが出場すると、ロードバイクよりリカンベントのほうが速くて有利になってしまうので、公式レースでは、リカンベントでの出場が禁止された歴史があります。それほどスピードが出せ、人間の脚力を活かせる自転車でもあるのです。
(左:リカンベント、右:ベロモービルの例)
ベロモービルという種類もあります。フェアリングで覆われ、キャビンのようになっている自転車です。わかりやすく言えば、クルマのように屋根がついた自転車です。これもベースとなる自転車は、リカンベントが使われていることが多くなっています。
スピードを出すだけだったら、むき出しのリカンベントよりベロモービルのほうが、さらに速くなります。自力で加速してのスピードの世界記録挑戦には、全てベロモービルが使われているのを見ても、やはり空気抵抗の点で、リカンベントより圧倒的にアドバンテージがあります。
ただ、ベロモービルには弱点もあります。全身が覆われるタイプだと、雨でも濡れないメリットがある一方、見通しが悪く、中に熱がこもってフロントの風防が曇ったりします。3輪のものが多いので、幅があるぶん場所をとる、そしてどうしても車重が重くなるのが短所でしょう。
さて、そんなリカンベントとベロモービルの短所を補う新しいタイプの自転車が開発されています。カリフォルニアを本拠とするメーカー、
Lightning Cycle Dynamics 社の製品、“
Lightning F-22”です。リカンベントをベースに、身体の部分を覆う小型のフェアリングがつけられたベロモービルです。
一般的なベロモービルのフェアリング、あるいはシェルと呼ばれる車体を覆う素材は、通常グラスファイバーやプラスチック系などの固い材質のものが使われます。しかし、この“Lightning F-22”は、伸縮性のある布が使われています。この点で、一般的なベロモービルとは違います。ペダルもフェアリングの外に出ています。
このことにより、グラスファイバーなどの素材のように重くならず、重心が高くなって安定性が悪くなることもありません。一方で、フェアリングの役割を果たし、風の抵抗を大きく減らします。そのぶん、小さい力でスピードが出せることになるでしょう。
実際、この“Lightning F-22”、時速30マイル、約48キロの巡航速度を出すことが可能で、ロードバイクより速く走れるのがウリです。下り坂なら、さらに時速60マイル、約96キロまで出るそうです。ファスナーで開閉できるので、乗り降りもラクです。
ベロモービルは、キャビンのようにスッポリ身体を覆う形が多いですが、こちらは足と首から上はシェルの外になります。空気抵抗的には不利ですが、これによって、中が曇ったりしませんし、周囲の見通しも悪くなりません。一方、身体の部分は撥水性素材により、雨に濡れなくて済みます。
足つき性も損なわれないので、ストップアンドゴーを繰り返すような街中を走るにもラクです。ファスナー開閉で、暑い季節は開けて走ることも出来ます。シェルがコンパクトなぶん、横風の影響が小さいのも、他のベロモービルの弱点を軽減することになります。
重い車体で重心が高いベロモービルと比べ重量が軽いぶん、登りに弱いという点も軽減しています。3輪のベロモービルのように幅をとらないので、駐輪時も邪魔になりません。リカンベントとベロモービルの、いいとこ取りを狙った自転車と言ってもいいかも知れません。
シェルとは元々、貝の殻などのことで、硬くて覆うものを指すわけですから、シェルを全部布にしていまうというのは、なかなか斬新な発想と言えるでしょう。今までにも、部分的に布になっているシェルはありました。同社の、“Lightning F-40”もそうです。
世界記録を狙うようなレーサーや、一部の高性能ベロモービルの愛好家向けのモデルです。実際に約12の世界記録を更新したそうです。この“Lightning F-40”は、ライダーが乗降りする部分に布を使っていました。蝶番などを使うより構造が簡単で有利だったからでしょう。
“Lightning F-40”のシェルを全面布張りにし、足は前に出しました。空気抵抗の点は多少妥協しても軽量化を優先し、足つき性を良くしたわけです。より一般的なユーザーにも使ってもらえるよう、ベースとなるリカンベントも一般的な量産車を使い、価格を抑えたモデルが“Lightning F-22”というわけです。
現在、クラウドファンディングサイトで資金調達すると共に、販売もされています。価格は2千780ドルからとなっています。これは、なるべく速く移動したい人や、通勤用などに特化して考える一部の人には、魅力的な選択肢となりうるのではないでしょうか。
ただ、締め切りを16日後に控えて、目標額の0.5%ほどにしか達していません。日本ではリカンベントやベロモービルを見ることは少ないですが、世界的に見ても、興味を示す人は少ないようです。やはり、自転車全体からすれば、かなりマイナーな分野と言わざるを得ません。
そのメリットを考えれば、例えばカーゴバイクやファットバイクくらいには普及してもおかしくないと思いますが、人気はありません。まだ、リカンベントやベロモービルの知名度や認知度が低く、正しく理解されていない面も大きいのでしょう。仰向けの乗車姿勢に抵抗のある人も少なくないようです。
もちろん、好き嫌いの要素もあるでしょう。試す前から敬遠する人も多いと思います。個人的に、固定観念を捨てて考えれば、次世代の自転車と言ってもいいくらいのポテンシャルを秘めていると思います。しかし、必ずしも効率の良さや理屈では割り切れないのが、人間なのかも知れません。
ブエノスアイレスで行われているG20サミット、特に米中首脳会談の行方が注目されます。どうなるでしょうか。
Posted by cycleroad at 13:00│
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