国の面積は日本の22.5倍もあって南米最大、世界5位です。これはロシアを除くヨーロッパ全体より広く、インド・パキスタン・バングラデシュを合わせた面積の2倍もあります。中南米で最多の2億1千万人の人口をかかえ、ラテンアメリカ最大、世界では7位の経済規模です。
北部を赤道が通り、温暖な気候で農業が盛んです。広い国土で、サトウキビやコーヒーなど大規模なプランテーションで農業が行われています。ただ、農業と言ってもいろいろあり、当然ながら、都市近郊で野菜などを栽培する小規模な農家も存在します。
ブラジルのサンパウロは、人口1千1百万人以上、ブラジル経済の中心で、ブラジルだけでなく南米最大の大都市です。そのサンパウロ近郊の住宅地に隣接して農園を営んでいる、Maria Augusta Bueno さんたちも、そうした小規模な農家で、有機農法でオーガニックな作物を栽培しています。
有機農法は、肥料や農薬を極力使わないようにするため、さまざまな作業が必要です。農園で使う堆肥を作るため、作物の茎とか根っことか雑草といった廃棄物を砕いて細かくするのも、その一つです。でも、手作業でやるのは重労働で、人手も不足がちです。機械があれば便利ですが、それほど大がかりなものは必要ありません。
そこで、知り合いの近所の自転車屋さんに頼み、自転車を改造して人力のシュレッダーを作ることにしました。人力なら足の筋肉を使うのは、パワーや持久力的にも理にかなっています。手で鉈などを振るうより、はるかに効率が高くなります。処理能力的にも必要十分、電力や燃料なども不要なのでエコで経済的でもあります。
ここまでなら、ペダルパワーを農器具として生かし、工夫して人手不足を補ったという、ごくありふれた話なのですが、それだけでは終わりません。ある時、都市の住民がフィットネスジムに通い、エアロバイクで汗を流しているのを見て、閃いたのです。
フィットネスジムでエアロバイクをこぐ人に、自分たちの農園へ来てもらって、このペダル式のシュレッダーをこいでもらったらいいではないか、と思いついたのです。同じペダルをこぐ運動なのですから、フィットネスジムでエアロバイクをこぐ代わりに農園で農機具をこいでもらってもいいでしょう。
近くの住民たちは、会費を払ってジムでトレーニングをする代わりに、農園のシュレッダーで汗を流すわけです。彼らは会費を支払わなくて済みます。農園としても、シュレッダーをこぐ労働力を無償で手に入れることになるわけで、双方にメリットが期待できます。
ジムのマシーンと違って、農園の器具は実際の農作業に直結しており、作物を育てるというペダルをこぐ目的があります。ジムで無駄に力を使うより有意義と感じられ、モチベーションにもなるでしょう。室内での単調な運動と違って、今までにない刺激もあります。
さらに農園の人と近隣住民、あるいは住民同士のコミュニケーションの場ともなります。自分たちがペダルをこいで協力した野菜などが収穫できたら、それを買うことも出来ます。スーパーで買うより安く、何より新鮮です。この点でも双方にメリットがあります。
Maria さんたちは、この画期的なアイディアを“
Agro-Gym”、農園ジムとして立ち上げることにしました。エアロバイクだけではメニューとして足りないので、そのほかの農作業も、ジムでのトレーニングのような運動と農作業を兼ねるプログラムとして組み立てました。
マシンは自作です。ペダル式シュレッダーのほかにも、手動のウォーターポンプ、ふるい分けステーション、二人用シャベル、ダブルバケツ、掘り靴などです。いろいろな運動が出来るようにし、それをサーキットエクササイズのように、順繰りに使って1時間ほどのメニューにもしました。
農作業を兼ねたトレーニング器具は、アイディアから自分たちで考え、工夫しました。例えば、堀り靴のアイディアを出したのは、ルイザちゃんという女の子です。靴に取り付けられる鋤のような器具を使って、農地をウォーキングします。ウォーキングマシンを使う代わりに、畑を耕すことが出来るのです。
住民たちは、これまで以上に運動の意欲がわき、農園での農作業に親しめ、作物を栽培する喜びを味わえます。収穫期には新鮮で安価な作物が手に入り、農園の人や周辺住民とも仲良くなり、単調なトレーニングが楽しくなりました。農園側も、有機栽培の労力が減り、人件費が節約できました。
メンバーは、これは都市近郊農業の新しい可能性を示すパイロットプロジェクトになると考えています。人々の余剰のパワーを有効活用するので、化石燃料も使わずエコでサスティナブルです。農園の従業員とフィットネスに通っていた人に加え、その家族や子供たちなども巻き込み、コミュニティは広がっています。
なるほど、これは面白いアイディアです。ジムでエアロバイクをこぐ単調さから解放され、作物を栽培する喜びが味わえ、トレーニングするモチベーションが上がり、地域の友人の輪が広がり、安く作物が買えて、一石何鳥にもなります。これは参加したいと考える人も多いのではないでしょうか。
日本でも同じような仕組みを構築できる地域があるかも知れません。農家の人手不足解消にも役立つ可能性があります。最近は市民農園など、小さな畑を借りて、趣味で農作物を育てたいという人が増えていると言います。自分では作物の面倒はみれないけど、好きな時に「力」だけ貸せるなら参加してもいい人もあるでしょう。
自転車はペダルの力で移動出来ますが、ジムのエアロバイクは汗を流すだけです。そのパワーは熱や器具の摩耗として失われるだけで、考えてみれば、もったいない話です。農業以外でも、その有効活用されていない運動エネルギー、無駄になっているパワーを何かに活かせないか、という視点はあってもいいのかも知れません。
稀勢の里引退、負けても出続け調子が戻れば勝ち越しもと思いましたが、地位が許さないのでしょう。残念です。
Posted by cycleroad at 13:00│
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