アメリカ、ラスベガスで毎年1月に開催されている国際見本市、CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)です。一般消費者向け民生機器の見本市として、世界最大規模のイベントです。以前はテレビやオーディオなどの家電製品が中心になっていました。
近年はその主役が、クルマの自動運転、AI(人工知能)、IoT、ドローン、eコマース、ロボット、ウェアラブル機器、ゲーム、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、サイバーセキュリティといった分野へも広がり、最新技術の発表の場として注目されるようになってきました。
クルマの自動運転の実現に向けた技術をはじめ、大手企業の発表が関心を集めていますが、それ以外にも、いろいろな分野の新製品が発表されています。目立たないですが、その中には自転車向けも含まれます。フランスの会社、Helite 社からは、“
B’Safe”という製品が発表されました。

これは自転車用のエアバッグです。クルマ用は当たり前で、もはや標準的装備ですが、自転車専用のものは、これまでなかったと思います。水上などに出る時に使うライフジャケットに似た、ベスト型の胴衣になっており、これを着ておけば、事故や落車した時に瞬時にふくらんでクッションになるというものです。
事故が起きた時に、一番致命傷になるのは頭部への衝撃ですが、それにはヘルメットがあります。次に重篤な怪我になりやすいのは、心臓や肺、それに脊椎などが集中する胸や背中、首です。サイクリストの事故重傷者の40%が胸部、25%が脊椎領域というデータもあります。それらへの衝撃を和らげる効果が期待出来ます。

ベスト本体と、サドルに装着するセンサーで構成されています。サドルのセンサーで衝撃を検知すると、ベスト内部にセットしたカートリッジから瞬時に炭酸ガス、CO2が放出されてベストが膨らみます。その時間は、検知するのに60ミリ秒、膨張するのに80ミリ秒という速さです。
ベスト本体にも別のセンサーが内蔵されており、自転車自体には衝撃が加わらずに、サイクリストが落車したような時には、こちらのセンサーが落下を検知して、やはり膨らむようになっています。落車を、ジャイロスコープや加速度センサーなどが感知する仕組みだと言います。
ただ、自転車に乗っていて、ちょっとした段差を越えただけで、いちいち作動しても困りますし、本当に必要な時に作動しなくては意味がありません。この製品は、数百タイプにおよぶ転倒をシミュレートし、数千に及ぶデータを分析することで、エアバッグを膨らませる最適なアルゴリズムを開発したのだそうです。
エアバッグは、胸部、背中、首を保護するようになっています。着るわけですから、エアバッグは軽いナイロンで出来ていますが、膨張した後に、裂けたりしない丈夫な生地になっています。膨張した後は、ゆっくりと収縮していきます。クルマのエアバッグと違い、カートリッジを交換すれば、また使うことが可能です。
ベストを着て、ジッパーを上げるとスイッチが入り、LEDが点灯するので作動が確認できます。色は普段着の上に着ても違和感のない黒と視認性を重視した黄色があります。撥水性や風通し、リフレクター付きなど、自転車用としての工夫もされています。
実は、着るエアバッグというアイディアは新しいものではありません。このブログでも2008年に取り上げましたが、日本の会社が開発したオートバイ用のエアバッグ、hit-airという商品があります。オートバイとワイヤーでつなぎ、身体とオートバイが離れた時、ピンが抜けて膨らむ仕組みでした。
こちらはオートバイ用の、hit-air という商品 ↓


“B’Safe”は、自転車用として開発され、作動アルゴリズムなども最適化されている点で新しいと言えるでしょう。センサーで衝撃や落車などを検知する仕組みの部分も違います。どのくらい有効なのか、実際に使ってみないことにはわかりませんが、ヘルメット以外にも、自転車用の防護用品の選択肢が出来たことになります。
この、“B’Safe”、アメリカとヨーロッパで来春発売される予定となっており、価格は700ドル程度になると見られています。実際に、これがサイクリストに普及するかどうかはわかりません。安全に対する考え方は人それぞれであり、ヘルメットだってかぶらない人はいます。

いちいち着るのが面倒だったり、動きにくくなる、夏場は暑いなど、さまざまな理由で敬遠する人は多いと思われます。釣りやマリンスポーツなどで、水上に出るのにライフジャケットを着るのとは違い、まだ自転車に乗るのにエアバッグという習慣に馴染みがないので、なかなかすぐには普及しないかも知れません。
しかし、考えてみれば、ロードバイクなどであれば相当のスピードが出ますし、事故や思わぬアクシデントで落車する危険は常にあります。クルマと違って、身体が何にも守られてない自転車こそ、こうしたエアバッグが必要だとする考え方には、一定の説得力があるでしょう。

この、Helite 社は元々エアバッグを内蔵するオートバイ用や乗馬用などのジャケットを製造しており、これを自転車用に広げた形です。そのラインナップの中で注目すべきなのは、シニア用の製品、“
HIP’SAFE”でしょう。高齢者が腰に巻くことで、転倒した時のクッションになるというものです。
高齢になって足腰が弱ると、どうしても転倒しやすくなります。骨ももろくなっており、それが例え家の中で少し転んだだけでも、骨折したりすることが多くなります。高齢者の骨折は治りにくいのも事実です。例えば腰骨とか大腿骨などを骨折すれば、相応の期間、ベッドで寝て過ごすことになるでしょう。


身体は元気だったのに、骨折をきっかけに寝たきりになる人も多いと言います。寝たきりを防止する意味で、シニア向けのエアバッグは、高齢者やその家族にとって福音となるかも知れません。そして、このシニア用を見ると、よりコンパクトになったり、他の部位も保護するような進化も期待出来そうに見えます。
“B’Safe”が、すぐに広く普及するのは難しいとしても、サイクリストの安全性の向上のため、こうした新しい製品が開発されることには意味があると思います。まず最初に開発されなければ、使い勝手が改善されたり、より安全になったり、身近になり、使う人が増えていくこともありません。
水上用のライフジャケットも、最近はコンパクトなものが売られています。この“B’Safe”も、もっとコンパクトで邪魔にならなくなったり、より使い勝手が良くなったり、より有効性が認知されるようになれば、広く一般に使われていく可能性は十分にあるでしょう。
どんな製品だって、最初から売れるとは限りません。この“B’Safe”も、何かのきっかけでブレイクし、将来、当たり前のようにヘルメットとエアバッグを装着して自転車に乗るようにならないとも限りません。自転車用のエアバッグ、今後の動向が気になるところです。
米朝首脳が2月末に再会談することになったようです。双方に思惑があり、果たして進展するのか注目されます。
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Posted by cycleroad at 13:00│
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