サブスクリプション・サービスは、提供される商品を買い取るのではなく、利用期間に応じて対価を支払う方式のことです。例えば、コンピューターのソフトウェアは、ショップで売っているものを買ってきて、コンピュータにインストールして使う方式が、以前は主流でした。
いわゆるパッケージソフトです。一度買ってしまえば、原則としてそれ以上料金はかかりませんが、買取りですので、使わなくなっても、それを返却して返金してくれることはありません。機能向上などで新版が出れば、また買い替える必要があったりします。
一方、最近はソフトウェアでも、使う期間ごとに料金を支払うスタイルが増えてきました。買い取るよりも低額な料金を、使う期間によって支払います。期間中のバージョンアップなどは原則無償です。使わなくなったら契約を解除すればいいので、割安に使える場合もあります。
このような形がサブスクリプションです。ユーザーにしてみれば、最初に大きな費用、イニシャルコストがかからないのが利点です。一方、メーカー、サプライヤーにとっては安定した収入が見込めるのがメリットで、高額な商品でも使ってもらいやすくなります。
ソフトウェアだけではありません。音楽も、CDなどのメディアを買う形、あるいはネットで1曲ずつダウンロードで買う形ではなく、一か月いくらの聞き放題というサービスが出てきました。これもサブスクリプションです。映画やスポーツなどのコンテンツ見放題もそうです。
最近は、洋服のサブスクリプションもあります。一着ずつ買って所有するのではなく、月額料金を支払えば、毎月新しい洋服が送られてきます。月に何回かチェンジ出来るなど、相対的に安い料金で、いつも違うファッションを楽しめるわけです。使ったものは送り返すので、クローゼットが満杯になることもありません。
同じように、バッグなどのブランド品を定額で、使い放題のサービスも出てきました。好きなクルマを乗り換え放題というものもあります。カーリースも毎月定額を支払う点は同じですが、気分で車種を変えたりすることは出来ません。まだ少ないですが、新しい形のクルマの乗り方として注目されます。
毎月定額を支払えば、居酒屋で飲み放題になるなんてサブスクリプションもあります。飲む人にとっては、都度支払うよりオトクになり、居酒屋は常連客を増やせます。その他、月会費を支払えば安く映画館で映画が見られるサービスとか、定額で高速道路が乗り放題、海外では飛行機乗り放題なんてものも登場しています。
商品を買うのではなく、期間の使用権を買う形のサービス、サブスクリプションは、いろいろな分野に広がってきているわけです。そして、当然のように、自転車のサブスクリプションも登場しています。自転車先進国オランダで始まったサービス、“
Swapfiets”です。
自転車を買うのではなく、自転車の使用権料を毎月払います。シェア自転車も、その都度利用料を支払う形ですが、この“
Swapfiets”は期間中、自分の自転車のように自宅に置き、所有しているのと同じように継続的に使うことが出来ます。車種、学割などによって変わりますが、月額で15ユーロほどからとなっています。
好きなブランドに乗り換え放題というサービスではありません。でも、故障した場合や盗難に遭った場合などには、12時間以内に対応してくれます。その場で修理するか、無理であれば新しいものと交換してくれます。盗難も新しいものが提供されますが、別に40ユーロ負担する必要があります。
自分で自転車屋へ修理に持ち込んだり、買いなおす手間はありません。基本的に12時間以内に対応してくれるので、故障や盗難でも2日以上自転車が使えなくなることはありません。入会金などはなく、1ヶ月だけでも使えるので、臨時に使いたい時にも便利でしょう。
不具合が起きた時に自分で修理したり、自分でメンテナンス出来ない人には、ありがたいサービスということになります。いつも快適な状態で乗れますし、修理代やパーツ代はかかりません。盗難に遭ったとしても、40ユーロという安い費用で買いなおすのと同じ形になるのは割安です。
基本的にオランダのシティサイクル、いわゆるダッチバイクです。グレードの高いものもあります。特徴的なのは、どれも前輪のタイヤが水色というところでしょう。一目で“Swapfiets”の自転車だとわかります。当初は学生をターゲットとしていましたが、現在はあらゆる年齢層に利用が広がっています。
オランダのデルフトという街で2014年に創業した若い会社です。“fiets”はオランダ語で自転車のことです。ここ数年で急成長を遂げており、オランダ国内から、ドイツやデンマーク、ベルギーへも進出し、電動アシストの投入計画もあります。さらにアメリカやアジアへの進出も視野に入れているそうです。
この自転車のサブスクリプションサービス、ヨーロッパで急拡大しているところを見ると、十分にニーズがあったのでしょう。自分で所有する自転車、シェア自転車に加え、新たな選択肢として定着していきそうです。自転車人口的には十分に自転車大国である日本にも、上陸する可能性はあります。
ただ、日本とヨーロッパでは事情が違います。日本では格安ママチャリが自転車市場を席捲しており、それを使い捨てのように乗り、壊れたり、錆びたり、盗まれたりしたら、すぐまた買い替えるという人、放置自転車として撤去されても取りに行かないという人も少なくない状況があります。
格安ママチャリは車体が重く、パーツも粗悪なものが多いため、軽快には走りません。しかし、日本の場合は歩道走行するため、歩行者の間を縫いながらでは速く走れません。重くて速度が出ないことは問題にならず、遠くまで行くこともないため、格安の自転車でも十分に用が足りるわけです。
昨年、同じオランダのメーカー、“VanMoof”が既に日本でサブスクリプションサービスを展開しています。ただし、こちらは高級路線で、料金も高くなっています。日本で圧倒的に多い、ママチャリに乗る人がターゲットではなく、軽快に走れる高級グレードのシティバイクに乗りたい人向けです。
高級な自転車を月額定額で乗れ、盗難に遭っても交換してもらえるサーピスなどが魅力と考える人もあるでしょう。ただ、それほど利用が広がっているという話は聞きません。そのようなグレードを望む人は、趣味のサイクリストが多く、高級なシティバイクというのは中途半端なのかも知れません。
高級路線はともかく、日本では圧倒的にママチャリに乗る人が多く、メンテナンスが出来ず、せずに乗っている人が多いのは確かです。サブスクリプションが受け入れられる素地はあります。しかし、ママチャリの格安さを考えると、サブスクリプションのほうがオトクになるとは限りません。そのあたりが微妙なところです。
日本でも今後、ソフトウェアや音楽、映像コンテンツ、洋服、ブランド品、クルマ、居酒屋などに加え、他の分野へもサブスクリプションは拡大していくでしょう。ただ、自転車だけは、格安ママチャリで済んでしまう点、その背景にある歩道走行がネックとなる可能性が高いような気がします。
日本でも自転車のサブスクリプションが成立する状態、すなわち自転車の活用環境や、自転車に対する認識やニーズが、もっと成熟していけばいいなと思います。しかし、むしろ現状では、格安ママチャリを、使える期間だけで使い捨てるという形で、ある種のサブスクリプションが既に成立してしまっているのかも知れません。
統計不正問題は疑惑を伴ってますます拡大する形になっています。もう厚生労働省は解体するしかないのでは。
Posted by cycleroad at 13:00│
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