自転車において、足の力を駆動輪である後輪に伝える機構はいろいろあります。言うまでもなく、一番一般的なのはチェーンです。ほとんどの自転車で使われています。そのほかに使われているのは、ベルトドライブと、シャフトドライブが主なところでしょうか。
極端なことを言えば、足で直接地面を蹴ってもいいわけで、キックバイクというものもあります。19世紀の初頭に誕生した際にも、自転車は足で地面を蹴って進むものでした。今も、幼児の自転車練習用としてのキックバイクはありますが、スピードは出せませんし、一般的な自転車には使われていません。
そのほかに、ギヤをつなげて直接伝える方式とか、ヒモ状のストリングを使ったもの、前輪にペダルが直接ついたもの、体重のかけ方で後輪を動かすフラバイク、ルームランナーのようなトレッドミルバイクなど、変わり種自転車もあることはありますが、一般的ではありません。
ベルトドライブは、チェーンのような注油が不要で、手や服が汚れることもなく、メンテナンスがラクです。動作音が静かで、錆びることもなく、耐久性などでも優れています。しかし、変速が内装式に限られ、価格が高い、切ったりつないだり出来ず修理が面倒、フレームが特殊、部品が手に入りにくいなど欠点もあります。
シャフトドライブも、注油の必要がなくメンテナンスがラクで、手や服が油で汚れることはありません。服を巻き込む心配もないのが利点です。でも、ギヤの精度や強度が求められ、どうしても重量が重くなります。コストが高くなってしまうのも難点でしょう。
ベルトドライブとシャフトドライブの自転車は、一部で市販されていますが、やはり圧倒的なのはチェーンです。メンテナンスが面倒で油で汚れるなどの欠点はありますが、全体が軽量化出来ますし、パワーロスが少なく、ディレーラーで変速も容易です。自転車向けとして総合的に優れているのは確かでしょう。
では、もっとほかの伝達機構、駆動装置は考えられないのでしょうか。チェーンを使わずにメンテナンスがラクで、オイルで汚れない方式はないのでしょうか。この課題に、以前から繰り返し提案されてきたのは、テコの原理を利用し、クランクを直接後輪に取り付ける方法です。
過去にも、いくつか見た記憶がありますが、今また“
NuBike”と名付けて提案している人がいます。アメリカはカリフォルニア州に住む、Rodger Parker さんです。ペダルの取り付けられたクランクが、後輪まで直接伸び、上下させることで駆動する方法です。
クランクは、シートステーに取り付けられた点を中心に動き、テコの原理で後輪を回転させます。長いクランクは、その点で有利となり、大きな力を伝えることが出来るわけです。たしかに、これならチェーンは不要なので、メンテナンスや汚れる問題はクリアできます。
独自のフレームなので、クランクが付いたまま後輪を外すことが出来ます。輪行するにもチェーンやスプロケットに気を使う必要はありません。これはこれで一つの選択肢になりうるように思えます。ただ、変速は出来ないようですし、どれほどスピードが出るのかも明らかではありません。
ブレーキなどのパーツは流用できるとしても、フレームは独自のものとなり、最初から量産できるわけもないので、価格は3千6百ドルからと高くなっています。これらのデメリットがあっても、これを選ぶかと言われれば、首を傾げざるを得ないのが正直なところでしょうか。
現在
クラウドファンディングサイトで資金調達を目指していますが、1%ほどしか集まっておらず、人気はありません。やはり、注油が不要でメンテナンスがラク、汚れないというだけでは、なかなかチェーンに勝つのは難しいのが現実のようです。
やはり難しいかと思っていたら、同じ時期にもう一つ、同じ原理を使った新しい自転車を提案している人たちがいました。オランダは、Nieuwegein という街に住む、Vince Molenaar さんらのグループです。こちらもステップするような形でペダリングする自転車、“
StepTwin Bike”です。
ペダルのついたクランクが、やはり後輪を直接動かします。ただ、“NuBike”がクランクで押す形で使っていたのに対し、こちらは引っ張る形になっています。厳密に言うと、後輪のハブを引っ張る部分にチェーンのような部分がありますが、後輪のハブを直接回転させています。
ユニークなのは、左右のクランクが独立しており、片足を動かすだけでも駆動することです。両足交互でもいいですし、両足を同時に動かしても走ります。ステップツインと名付けられた理由でしょう。イザとなれば、片足を骨折してギプスで固定していても、もう片方の足だけで乗れそうです。
さらに、独自の変速機構で5段にギヤチェンジ出来るところも優れています。最高速も30キロ程度は簡単に出るようです。基本的には小径のフォールディングバイク、折りたたみ自転車です。持ち運んでの街乗りがメインであれば、速度的には十分でしょう。
さらにユニークなのは、サドルを取り外して、ステップバイクとして乗ることも出来ます。立ち乗りのような姿勢で、ペダリングではなく、ステップを踏んで走るスタイルです。スカートなど、服装によってはサドルにまたがりたくない場合もあるでしょうから、これはこれで便利かも知れません。
サドルなしでも乗れる、ちょっと変わった小径のシティバイクであり、20秒でたため、チェーンがなくて運びやすいフォールディングバイクでもあります。年齢や体力に関係なく、ステップバイクとしてリハビリなどにも使えることを考えれば、それなりにニーズはありそうです。
価格も259ドルからとリーズナブルです。こちらも
クラウドファンディングサイトで資金調達を実施しています。目標金額が違うので、単純には比較出来ませんが、すでに106%を集めて調達成功し、今年の6月には出荷される予定となっています。なかなか面白そうな自転車です。
こうしたクランクバイクが、マイナーでニッチであるのは否めません。チェーンのほうが優れている点も多いので、主流の方式となるのは期待出来ません。しかし、チェーンを使わない自転車も、用途や工夫によっては、新たなカテゴリとして認知される可能性は十分にあるような気がします。
英国のEU離脱はますます混迷を深めています。合意なき離脱で世界的に混乱する事態は防げるのでしょうか。
Posted by cycleroad at 13:00│
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