March 23, 2019

まず地図をつくるのが突破口

アメリカはクルマ社会と言われています。


日常の移動にクルマを使う人は多いわけですが、最近、特に都市部では、自転車を活用する人も増えています。渋滞に巻き込まれて時間をロスしなくて済みますし、移動のためのコストが抑えられます。環境にも優しく、運動不足を解消して健康増進にもつながります。

ただ、これまでどうしてもクルマ中心で道路が整備されてきたため、必ずしも自転車で移動しやすい都市ばかりではありません。自転車インフラが充実していないこと、またそのことによる安全面の不安から、自転車の活用に踏み切れないという人も少なくないと思われます。

The Bike Streets PlanThe Bike Streets Plan

アメリカ・コロラド州のデンバーも、自転車にやさしい街とは言えません。市内在住の、Avi Stopper さんらのグループは、デンバーをもっと自転車にフレンドリーな街にするべきだと考えています。市民の誰もが、自転車に乗ろうと思ったら乗れる街にしたいと考えているのです。

彼らの調査によると、現状で、自転車のインフラが不十分でも乗るという人、乗っている人は全体の1%でした。7%の人は、今ある自転車レーンを利用するなど、限られた範囲で自転車に乗っているという人たちでした。一方、自転車に乗るつもりはない、乗らないという人はデンバー市民の32%でした。

そして、なんと残りの60%の人は、良い道路環境があれば自転車に乗る、自転車に乗りたいと考えている人だという結果が出たのです。つまり、もっと自転車インフラが整備されれば、自転車を活用する人が大幅に増える可能性があることになります。

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この6割の人は、現状で自転車に乗るのは怖くて抵抗があるという人たちです。この人たちが乗るには、自転車専用レーンなど、安全に乗れるインフラがもっと整備される必要があります。しかし、インフラが整備されるには、実際に乗る人がいて、ニーズがなければ、行政もなかなか動きません。

現状で、デンバーで日常的に自転車で移動する人は、ごく限られています。市内を自転車で移動する人は少なく、ニーズが限られると見られているため、自転車インフラへの投資は進んでいません。市もお金が余っているわけではないので、当然と言えば当然です。

つまり、自転車インフラの整備には多くの利用者が必要で、利用者を増やすためにはインフラが不可欠、というニワトリと卵のようなジレンマがあるわけです。このままでは、自転車インフラの整備は進まず、自転車に乗る人は増えないという膠着状態が続きます。そこで、彼らは一歩踏み出すことにしました。

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彼らとそのコミュニティは、デンバーを全米で最も自転車にやさしい街にすると決心しました。それも、例えば2030年にというのではありません。今すぐにと言うのです。そのための戦略が、“Bike Streets Plan”です。いろいろな内容と、段階を踏んだ実行計画がありますが、その柱になるのが、“Bike Streets Map”です。

現状で、自転車レーンが整っている箇所は限られますが、自転車に乗りやすいストリートは他にもあるところに目を付けたのです。クルマの交通量の多い大通りではなく、その一本裏の細い道とか、クルマがあまり通らない道、すなわち自転車で走りやすい道、安全に移動できる道をピックアップし、地図にしようというのです。

自転車レーンの整備を待つのではなく、現状でも自転車で安全・快適に走れる道、そのネットワークを地図にして、市民に広く知ってもらい、もっと自転車を活用してもらおうと考えたのです。交通量の少ない、安全で静かな脇道だけを使っても、デンバーのどこへでも行くことが出来ると知らせるわけです。

The Bike Streets PlanThe Bike Streets Plan

急いでいる人ならば、最短距離の大通りが速いかも知れません。しかし、多少時間が余計にかかっても、安全で乗りやすい道を走りたいという人も多いはずです。運動不足解消を兼ねようという人、自転車に乗るのを楽しみたい人、のんびり走りたい人、子供と一緒に走る人、安全で快適に走れる道を選ぶ人は多いはずです。

ただ、個人でそのような道を探すのは簡単ではありません。家の近所、よく行く場所なら、お気に入りの道があったり、発見することもあるでしょう。しかし、市内の多くの道は知りません。そこで、そのような道を網羅した地図をつくり、みんなで共有しようというわけです。

地図は、印刷した紙の地図です。スマホのアプリだと、わざわざダウンロードさせなければなりませんが、たいして関心のない人でも、紙の地図なら見てもらえます。スマホの小さい画面より一覧性が高く、見てわかりやすいのも利点です。慣れたらアプリでもいいですが、まず紙の地図と考えました。

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紙の地図を制作し、公共の場所やカフェ、マーケットや図書館などに置き、自転車でもっと安全に、快適に、楽しく移動できることを周知しようというわけです。自転車向きの道路のネットワークがあると知り、あちこちに行けそうだとわかれば、自転車で走ってみようということにもなるに違いありません。

もちろん、地図だけでは不十分です。自転車に乗る人たちのコミュニティも構築していきます。地図に載せる道路の情報やフィードバックだけでなく、デンバーをもっと自転車で走りやすい街にしよう、と考える人の輪を広げて行こうという作戦です。

さらに、例えば、低コストで可能なインフラの設置なども視野に入れています。ペンキや看板、サインなどを使って、ラインをひいたり、道路に目印をつけたり、より自転車での移動を便利にするためです。クラウドファンディングなども利用し、デンバーを自転車フレンドリーな街にしていく仲間を募っています。

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このような動きが広がり、自転車に乗る人が増えれば、自転車レーンなどの整備を市当局に求めていくことも出来るでしょう。道路の改善の要望も受け入れられるかも知れません。例えば、住宅街の中の細い道が、クルマの抜け道になっているような場合、規制をかけることも考えられます。

ハンプなどを設置してもらい、クルマのスピードを落とさせ、より自転車に乗りやすい道にすることも可能かも知れません。もちろん、自転車利用者の独善や、わがままではいけませんが、多くの人が納得する改善もあるはずです。そのような道が増え、有機的に結合していけば、より移動しやすくなります。

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事故が多発するような場所があれば、交差点の形状を変えるとか、信号機などを設置するとか、何らかの改善を求めることも考えられます。自転車で走りやすくするだけでなく、交通事故が減らせるということであれば、行政も積極的に動くかも知れません。

いろいろなことが考えられますが、まず、自転車に乗りやすい道の地図を突破口にして、多くの人を巻き込み、自転車に乗る人を増やそうという計画です。現状のジレンマを打破し、増えた自転車人口が、さらに自転車に乗りやすい街への改良を促すという、良いスパイラルを起こそうという作戦です。





これは、なかなか興味深い試みと言えるでしょう。日本の都市でも見習える手法ではないでしょうか。ただ、日本の場合、自転車の歩道走行という特殊な環境があります。自転車で歩道走行している限り、安全という面では安心という人も多いでしょう。

しかし、歩道を歩行者を避けながら走行していたのでは、遅いですし、遠くまではいけません。ですから、最寄り駅や近所のスーパーへ行くなど、近場へのアシにしか使わない人が圧倒的多数となっています。市内を広く自転車で移動しようという発想になりません。

日本では歩道走行用に特化したママチャリ、イコール自転車だと思っている人が多いため、自転車本来のポテンシャルが理解されていません。最寄り駅の1つ先の駅すら行ったことがない人が多いと思います。なかなか、自転車で広く市内を移動しようという発想にならないのがネックとなりそうです。

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歩道走行していては、交通手段として自転車の活用は進みません。しかし、長い間歩道走行で来てしまった結果、車道走行が怖いという人も多いでしょう。その意味では、デンバーと近いところがあるかも知れません。車道でも、安全快適に走れる道路の地図があれば、日本でも自転車の活用につながる可能性がありそうです。

政府にも、増え続ける医療や介護などの社会保障費の低減には、予防医療の推進が欠かせないとの認識が広がっています。自転車インフラの整備は交通事故の減少につながるだけでなく、日常的な自転車での移動を増やし、国民の健康増進に寄与します。

ただ、財政的にも、いきなり自転車レーンの整備を進めようというのは簡単ではないでしょう。そこで、このデンバーの自転車地図のような考え方、すなわち、今ある道路の中で、クルマと自転車を分散させていくという考え方は、一考の価値があるのではないでしょうか。




うすうす感じていた人も多いと思いますが、イチロー選手が引退、一つの時代が終わったという感がありますね。

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