国土が平坦ということもあって、日常的な短距離の移動に自転車を使う人は多く、自転車保有率は世界一です。ただ、クルマが少ないわけではありません。高速鉄道がそれほど発達していないため、都市間など短距離以外の移動はクルマが多くなっています。自転車とクルマを使い分けているわけです。
自転車王国として知られるオランダですが、実は温暖化ガスの排出量削減という点では、EUの中で大きく遅れをとっています。今年はじめには、オランダ環境評価庁(PBL)が、法的に要求される改善を達成するために早急に行動を起こす必要がある、と政府に対して警告を発しました。
石炭火力の発電所の閉鎖など、さまざまな対策の必要性が指摘されています。燃料価格を上げることで、クルマの使用を抑制し、クルマが出す排出ガスの削減するのも有力な選択肢です。長距離を自転車で代替するのは難しいですが、都市部の近距離移動でも、まだまだクルマを使う人を減らす余地があります。
オランダ環境評価庁の警告から1ヶ月ほど経った今年2月、ある一台の『クルマ』がアムステルダムの街に現れ、話題となりました。走る自転車ラック、自転車ラックカーとでも言うべきクルマです。アムステルダムの高級店が並ぶ、Pieter Cornelisz Hooftstraat という通りに駐車されました。
四角くて透明、独特な形ですが、占有スペースはクルマ1台分です。この中に、自転車が8台駐輪できるようになっています。あえてクルマの駐車スペースを“奪い”、自転車の駐輪スペースにするクルマなのです。屋根には“Bikers first”と書かれ、駐輪場のマークも添えられています。
ゲリラ的な方法のように見えますが、合法です。なぜなら、このクルマはナンバーを取得しており、見た目はともかく、れっきとしたクルマだからです。この地域のパーキングメーターの料金、1時間につき4ユーロ(およそ500円)も支払っています。もちろん、必要に応じて違う場所へも、すぐ移動出来ます。
自転車利用者を優先にというアピールと共に、クルマ1台のスペースで8台もの自転車が駐輪できるという事実、すなわち、いかに駐車スペースの効率が悪いかを示す意図もあります。付近に駐輪場がなく、駐輪するスペースがとれない場所でも、簡単に駐輪場が設置できるというアイディアでもあります。
この動く自転車ラックは、オランダの自転車ブランド、“
Union”と広告代理店、“
Natwerk”が共同で、社会にアピールするため制作されました。もっと自転車を使おうという呼び掛けであると共に、まだまだ自転車を便利にする余地があるという指摘でもあります。
温暖化ガス排出削減達成に黄信号が点灯し、もっとクルマの利用を抑制すべきとの議論が広がる中で、あらためて自転車という選択肢を示し、一石を投じた格好です。すでに広く自転車が使われていると自認するオランダですが、まだまだクルマ優先の部分があることも浮き彫りになっています。
オランダでも、都市部の近距離の移動であってもクルマを使う人はいます。一方、多くの人が自転車を使うため、駐輪場は不足しており、なかなか設置が進まない場所も少なくありません。考え方次第で、もっとクルマを抑制し、自転車を使いやすくする余地があることを示唆しています。
もちろん、反対意見もあります。例えば、クルマで来るお客が、すぐ前に駐車できるようにしたいという商店主もいます。そうした考え方を否定するのではなく、議論を起こすのが目的です。実際に議論になっています。この方法なら、いつでも撤収出来ますし、その効果を簡単に試すことが出来るのも利点と言えるでしょう。
温暖化ガス削減の観点から、さらに自転車の活用を進めようとするオランダと、放置自転車の撤去に躍起となっている日本とでは、議論も違ってくるでしょう。しかし、このアイディアは、場合によって日本でも参考になるのではないでしょうか。
日本でも周囲に駐輪場が無く、店舗の前などに駐輪され、通行の邪魔になっている場所があると思います。でも、歩道の幅は狭く、駐輪機の設置は難しいという場所もあるでしょう。そのような場所でも、車道には路上駐車のクルマが延々と並んでいたりします。そんな場所では、一考の余地があるかも知れません。
パーキングチケット代を負担しても、お客様用の駐輪場を確保したいと考えるお店もあるはずです。仮にパーキングメーターの料金が1時間600円としたら、自転車一台あたり75円です。1時間も滞在せず、仮に20分としたら1人25円と、わずかな金額で顧客サービスが出来ます。
クルマで来るお客1人と同じスペースで、最大8人のお客のスペースが確保出来ます。店舗前のスペースが、関係のないクルマに占有されるなら、料金を払って駐輪スペースにしてしまう手はあるでしょう。勝手に道路を使うわけにはいきませんが、パーキングチケット代を払えば、簡単かつ合法的に駐輪場が設置出来ます。
それでお客が立ち寄りやすくなり、来店客が増えるかも知れません。店の前の迷惑駐輪がなくなり、歩道も通行しやすくなります。自転車で来店するお客、歩いてくるお客には、好印象を与えることにもなるでしょう。試してみる価値はありそうです。
日本では、温暖化ガス削減の観点から、自転車の活用が議論されることは少ないかも知れません。ただ、都市部の渋滞は大きな経済損失となっており、路上駐車も公共空間の社会的損失です。クルマ用の道路、駐車スペースが当たり前のように確保される一方、自転車は使いにくくなっている例も多いはずです。
多くの人は、クルマ優先が当たり前になってしまい、そのことを疑いすらしません。たしかに歩道にとめられ、往来の邪魔になっている自転車は迷惑です。しかし、だから撤去するのではなく、車道まで含めて考えて、駐車スペースを削り、駐輪スペースを増やすという選択があってもいいような気がします。
核関連施設の再建の兆候が見られる北朝鮮が米国の批判を始めました。またキナ臭くならないといいのですが。
Posted by cycleroad at 13:00│
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