携帯電話やインターネットの普及などにより、会話や手紙などの伝統的な手段以外に、外出中でも電話が出来るようになったり、メールやテレビ電話、SNSなど多様なツールが生まれました。コミュニケーションをとりやすくなったり、その形が進化したのは確かでしょう。
ただ、依然として意思の疎通が不足しがちな場所、場面というのも存在します。例えば、道路上もその一つではないでしょうか。最近、あおり運転が報じられているのをよく目にします。でも、あおり運転自体は、今始まったことではありませんし、日本だけの現象ではありません。
東名高速で夫婦が死亡した悲惨な事件で、関心が高まったこともあるでしょう。スマホやドライブレコーダーの普及で、動画が公開されるようになったことも背景にありそうです。しかし、これだけ報じられているのに後を絶たないのは、それが一時的なものではなく、根源的な理由があるものと思われます。
よく指摘されるのは、クルマに乗ることによる人間の心理の変化です。人はクルマを運転すると、気が大きくなると言われています。クルマは鉄の塊で、自分を守っている鎧のようなものです。そのため、歩いている時と比べて強くなった気になり、攻撃的になるとされています。
当然ながら、クルマの運転中は徒歩の時と違い、他の人の運転によって死傷させられたり、大きな損害を負いかねないという要素があります。他者による危険な運転は、時に深刻な脅威となります。これによって、人間が持つ防衛本能、野生的な闘争本能が呼び起こされる面もあるに違いありません。
そして、コミュニケーションの不足が要因となることも多いはずです。相手が故意ではなく、危険にさせた認識がないような場合でも、その真意がわからず、腹を立てることになりかねません。徒歩であれば、すぐ気づいて謝罪も出来ますが、クルマの中にいると、そうはいきません。
もちろん全てとは言いません。中には最初から攻撃的で、あおり運転をする機会を狙っているような人や、面白半分でやったり、喧嘩を売るのが楽しくてやるような人ももいるようです。ただ、コミュニケーションが不足したために、双方が必要以上にエスカレートしてしまうようなケースもあるはずです。
さて、デジタル技術は、人と人とのコミュニケーションの形を変えてきたわけですが、さらに、これまでコミュニケーションをとらなかった場面、とりづらかった場面でも、コミュニケーションの手段を生み出す可能性を開いています。ちょっとユニークなアイテムを考えた人がいます。
イギリスはロンドン在住の、Emanuel Daniel Novacescu さんらのグループ、“IVY”です。彼らが考えたアイテムは、“
Smart backpack ”、背中の部分にディスプレイのついたバックパックです。このディスプレイには、手元のスマホから、好きなイラストやメッセージを表示させることが出来ます。
背中のスクリーンに文字を表示させれば、周囲の人に意思を伝えることが出来ます。例えば、外国の知らない街を歩いている時に、何かを探していますとメッセージを流すことも可能です。周囲の人に片っぱしから尋ねなくても、知っている人が教えてくれるかも知れません。語学堪能でなくても、単語さえわかれば出来ます。
走って人ごみを駆け抜けるような際には、『遅刻しそうです。ごめんなさい。』と表示しておけば、無用の軋轢を生むケースを防げるかも知れません。『○○は最高だよね。』と表示しておけば、同じ○○、例えばアーティストなど、同じ趣味の見知らぬ人と仲良くなるきっかけが生まれるかも知れません。
その時の気分を表示してもいいでしょうし、周囲を和ませるようなジョークを出してもいいでしょう。タクシーを止めたい時にも使えるでしょうし、単に模様やイラストなどを表示させ、個性を主張することも考えられます。人それぞれ、いろいろな場所や場面で、多様な使い方が出来そうです。
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残念ながらクラウドファンディングでの資金調達には失敗してしまったようですが、面白い発想だと思います。必ずしも街で、周囲の見知らぬ他人とコミュニケーションをとる必要はないわけですが、とろうと思えば不特定多数の人とでも意思疎通が図れるのがユニークだと思います。
それは、不特定多数の人と混在することになる道路上で、自転車に乗っている時にも言えるかも知れません。自転車に乗っていて、突然クルマのドライバーに幅寄せされたり、嫌がらせを受けるなどの敵意に晒され、戸惑ったり腹が立ったりしたことのあるサイクリストは少なくないはずです。
中には、面白半分でワザとやるような人もいますが、コミュニケーション不足で、そのような場面になることも考えられます。こちらは、何の悪意もなく障害物を避けたつもりでも、ドライバーにとっては、急に飛び出したように見え、事故になるところだったと腹を立てるかも知れません。
ただ、自転車に乗りながら、いちいちメッセージを使い分けるのは現実的ではないでしょう。もっとシンプルでもいいと思います。例えば、クルマ同士の合図でハザードランプを出して感謝の意を伝えるというのがあります。割り込みされてムッとしても、ハザードを出されれば感謝、あるいは謝罪を感じて許せたりするでしょう。
同じ公道上を走るのに、自転車にはウィンカーやストップランプがありません。意思表示の手段を一つ欠いていることになります。もちろんハンドサインを出せばいいわけですが、理解しないドライバーもいるでしょうし、夜間はよく見えないこともあります。態度が偉そうと反発する人もあるようです。
自転車にもウィンカーやストップランプがあればと考える人は多いらしく、これまでにもたくさんの製品を取り上げてきました。こちら“
Wayv ”も、そうした製品の一つです。ただ、他の製品と違い、サイクリストの安全が、より考えられていると言えるでしょう。
ハーネスになっている ので、背中に直接装着してもいいですし、バックパックに取り付けることも出来ます。荷物がある時、無い時、両方に対応出来るわけです。ジャケットの背中に取り付けたものもありますが、それだと、そのジャケットを必ず着る必要があり、夏は暑いなど汎用性に欠けます。
自転車本体に取り付けるものもありますが、どうしても小さくならざるを得ず、目立たないのが欠点です。ハーネス型ならば、背中の全面を使えるので表示が大きく、後方からの視認性に優れます。ヘルメットの後ろに取り付けるパーツは、高い位置に取り付けられます。いずれも手元で操作出来ます。
ウィンカーは、右左折や進路の変更を伝えるものです。夜間の後方からの視認性をアップさせるものでもあり、いずれもサイクリストの安全性を向上させます。ただ、クルマのハザードランプのように、ドライバーとの意思疎通の手段としても使うことが出来るはずです。
そのことによって、どのくらい自転車に対する幅寄せや嫌がらせが減るかは未知数ですが、こちらの意図を理解してもらえたり、謝罪の意思を示せたりするでしょう。障害物の回避で仕方なかったのかな、などと寛容になるケースもあるに違いありません。その点でも安全性を向上させそうです。
SNSなどを使う際、顔文字1つでも、伝えたい意図や感情を補助したり、相手を和ませたり、関係の潤滑油的な役割を果たしたりします。そう考えると、ちょっとした合図だけでも、相手の怒りを鎮めたり、敵意を和らげたりするでしょうし、それは道路上でのサイクリストの安全性向上に寄与すると思います。
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コミュニケーションの方法は、時代と共に変わってきました。手段が多様になるだけでなく、とる相手も変化しています。ネット上で不特定多数ともつながる時代です。リアルの世界でも、これまでとらなかった相手、不足していた場面でのコミュニケーションを考えてみるべきなのかも知れません。
10連休も終わり、今日から令和の仕事始めという方も多いでしょう。調子を取り戻すのに少しかかりそうですね。
Posted by cycleroad at 13:00│
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