May 13, 2019

自転車に信号無視をさせない

自転車の交通ルール無視は社会的な問題です。


法律違反というだけでなく、交通事故の原因となっています。今に始まったことではありませんが、なかなか改善しない課題でもあります。信号無視や逆走、スマホを使いながらの走行など、当たり前のように見かけます。これは、必ずしも若い世代に限ったことではなく、大人も子供も、そして高齢者にもあてはまります。

クルマが来なければ、信号が赤でも止まろうとせず、交差点に進入する高齢者が少なくないという話題を少し前に取り上げました。こうした交通法規の無視によって、クルマとの事故だけでなく、自転車同士で出会い頭に衝突したり、歩行者にぶつかるなどして死傷事故の原因となっています。

近年は、電動アシスト自転車に乗る高齢者も増えており、高齢者でも速いスピードで走行していることも事故の背景にあると目されています。信号無視が違法なことを、わからないはずがないのに止まらないのは、いったん止まると、再び漕ぎ出すのに力がいるため、止まりたくないということのようです。

Photo by Visitor7,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.電動アシストであれば、漕ぎ出しは軽いため、止まっても負担は少なそうなものです。しかし、これまでの習慣や先入観、あるいはクセなのか、電動アシストであろうと止まろうとしない高齢者が多いという指摘もあります。もちろん、止まらないのは高齢者に限ったことではありません。

高齢者にしてみれば、周囲の人もルールを守っていないのに、自分だけルールを守るのはバカバカしいという心理が働くのかも知れません。危険性や交通違反なことも十分にわかっていて止まらないのですから、啓発や注意では、なかなか改まらない点が厄介です。

ところで、これまでにもいろいろ取り上げているように、世界の都市では、自転車の活用が大きなトレンドとなっています。都市問題の解決という観点に於いて、自転車が有力な選択肢となることが明らかだからです。自転車を利用する人も増えています。

都市部の酷い渋滞、それに伴う深刻な大気汚染、ヒートアイランド現象、温暖化ガス削減や省エネ、交通事故の増加、こうした問題による大きな経済損失など、世界の都市に共通する課題です。大気汚染については、北京やデリーばかりではなく、パリやマドリードなど先進国でも、依然として大きな問題となっています。

渋滞は数多くの問題をもたらします。道路網は、古から都市に集まるように発達してきたため、都市に用事のない、通過交通の多さも問題です。平均して1人と少ししか乗っていないクルマが延々と並ぶのは、貴重な道路という公共空間の無駄使いでもあり、非常に非効率です。

そこで、都市部へのクルマの流入を抑制し、代わりにもっと自転車を使おうと考えるのは自然な流れでしょう。全て自転車には出来ませんが、都市部の近距離の移動であれば、自転車でも十分に代替出来ます。実際に自転車で移動する人は増えており、もっと自転車のインフラを充実させようという都市も増えています。

Bike ConnectBike Connect

例えば、アメリカ・オレゴン州のポートランドは、全米有数の自転車に乗る人の多い都市であり、自転車インフラの整備も進んでいます。自転車レーンは、もはや当たり前、それをもっと改善して、安全快適に通行できるよう、高規格な自転車インフラの整備を進めています。

さらにその先の研究も進められています。オレゴン大学のコンピュータや情報科学の教授、Stephen Fickas 博士や、都市計画および都市問題の教授である、Marc Schlossberg 博士らは、都市の信号機を、自転車向けに最適化することを考えています。

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彼らが開発している“Bike Connect”というシステムは、自転車レーンを走行する自転車が交差点に接近したら、その前方の信号を青にすることで、なるべく止まらずに走行出来るようにしようというものです。ノンストップで走れれば、自転車に乗る人はラクですし、速く着きます。より快適で移動効率も上がります。

信号機の制御システムとそのコントロールボックス、通信するスマホアプリで構成されています。安いコストで実現できる点もメリットです。サイクリストの前方の信号を青にするだけでなく、前方の信号機の状態を知らせてくれ、手元で確認できるため、赤に変わるか心配することなく、余裕をもって走行できます。

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プロジェクトは、まだ開発の初期段階ですが、オレゴン大学の地元であるユージーン市の協力の元に、9ヶ月間、10人によるテストも行われました。このテストでは、約80%で上手く作動したそうです。これは、かなりの好スコアと言えるでしょう。

当然ながら、クルマの信号を止め続けるわけにはいきません。テストライダー同士が交差点でクロスすれば、どちらかは止めざるを得ないでしょう。それでも、信号単体ではなく、信号同士の連携も含めて制御することで、ある程度自転車のスピードもコントロールし、高い確率で青信号になるように出来たわけです。

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単に、自転車の接近を検知して信号を変えるのではなく、信号システム全体を自転車向けに最適化するわけです。今後やってくるIoT時代には、当然ながら自転車もネットワークに接続されていくでしょう。これは単に信号待ちを減らすだけにとどまらず、自転車に乗る人の安全を向上させるものでもあります。

将来、クルマの自動運転が実現した暁には、当然クルマと信号機間の通信が行われるようになります。信号機が自転車とも通信していれば、その動きは自動運転のクルマにも伝わることになります。自動運転のクルマがカメラやセンサーで自転車を検知するだけでなく、システムが認知すれば、より安全なのは明らかでしょう。



プロジェクトのメンバーは、オレゴン大学以外に、ポートランド州立大学、オレゴン工科大学、ユタ大学、アリゾナ大学、テキサス大学アーリントン校などに広がっています。これは自転車にとどまらず、さまざまな都市交通の手段を統合し、都市をより良くしていくインフラ構築の研究なのです。

持続可能な社会、サスティナブルな都市へと変革させていく上で、自転車は欠かせない手段だと考えています。でも、自転車にルールを厳守させよう、縛ろうというのではありません。自転車に乗る人の気持ちもわかっています。なるべくならラクをしようとする人間の行動も前提にしているわけです。

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赤信号を無視するのは道交法違反であり、危険な行為で、周囲にも迷惑なことは論を待ちません。でも、とにかく信号を無視させないようにしようというスタンスではありません。なるべく信号を青にして、信号無視をさせなくて済むようにしようという、いわば真逆のアプローチです。

自転車に乗っている人にラクをさせろと、そのワガママを正当化するつもりはありません。しかし、日本では、自転車利用者の意識やマナーの問題に、スポットが当たりがちなのは確かでしょう。オレゴンの例を見ると、このあたりにも、クルマ優先が当たり前という固定観念があるような気がします。




ケガから復帰したエンゼルスの大谷翔平選手が調子を上げてきているようです。次は本塁打が期待されますね。

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