いろいろあると思いますが、その一つに、時間がかかるからという理由があります。単純に比較すれば、クルマのほうが速いのは当然です。都市部の渋滞など、条件によっては、かえって自転車のほうが速いこともありますが、もっともな理由でしょう。
私の友人にも、自転車は運動不足解消になったり、健康にいいかも知れないが、時間がもったいないという人がいます。クルマで行けば、何分の一かの時間で着くのに、わざわざ自転車で行くのは時間の無駄だと言うのです。クルマという文明の利器があるなら、あえて自転車を使う理由がないというわけです。
よく行く場所、例えば通勤にクルマでなく自転車を使うとしたら、毎日時間を無駄にすることになるという考えです。その時間のロスは、積み重なれば大きな時間になります。言ってみれば、それは人生を無駄にしていること同じだと考えているようです。
たしかに、自転車のスピードには限界があります。クルマのほうが速いのは当然です。とくに朝の時間は貴重ですから、なるべく時間を短縮したい、そのぶん寝ていたいといった気持ちもあるかも知れません。しかし、自転車に乗ることが人生の無駄かと言われると、必ずしもそうとは言えない面もあると思います。
ご存じの通り、オランダは世界有数の自転車大国です。国家政策として自転車の活用を進め、インフラ投資などにも力を入れています。自転車の効用に関する調査研究も多いため、どうしてもオランダのデータを引用することになってしまうのですが、この件に関して、オランダの
ユトレヒト大学による研究があります。
オランダ人は、週に75分自転車に乗ります。自転車は、全人口の全ての移動の4分の1以上を占めます。自転車に乗らない人も含めた平均ですから、かなりの量です。そのオランダ人5万人の統計データによれば、自転車に週75分乗る人は、そうでない人に比べて、寿命が約6ヶ月長いことがわかったそうです。
これは、他の要因を排除し、自転車に乗るか否かだけの違いを導きだしたものです。WHO(世界保健機関)の研究成果などを使い、統計データの解析をしています。6ヶ月の差というと短い気もしますが、週75分の自転車の違いだけによる差としては、大きいと見ることも出来るでしょう。
これは、週75分自転車に乗ると、ちょうど75分、長生きすることに相当すると言います。自転車に乗れば、乗った時間と同じだけ長生き出来ることになります。つまり、自転車に乗る時間は全く無駄になっていないことになります。なかなか興味深いデータです。
週75分というのは、全オランダ人の平均ですから、乗る人はもっと乗ります。日常的に自転車を使っている人も多いですから、そういう人なら、もっと長生きすることになるでしょう。自転車は健康増進に寄与するだけでなく、平均寿命も伸ばすわけです。統計的には、乗った時間だけ伸びているというのも面白い結果です。
自転車によって、ガンに罹患するリスクが45%減るとか、心疾患系のリスクは46%、早期死亡リスクは41%少ないなど、この手の研究結果は他にもたくさんあります。自転車の健康効果によるメリットを経済的な効果に換算すると、
オランダの国内総生産の3%以上に相当するという研究もあります。
自転車に乗らない派は、自転車が健康にいいことはわかるけど、もっと別のリスクもあると主張するかも知れません。例えば、自転車で走れば悪い空気も吸い込むことになるし、交通事故のリスクも高まります。そうした死亡リスクも考えれば、必ずしもメリットがあるとは言えないのではないかとの疑問です。
ヨーロッパでは、都市の大気汚染は依然として大きな問題となっています。フォルクスワーゲンの排ガス不正などをきっかけに、ディーゼル車は減る傾向にありますが、まだ走っている割合は高くなっています。いわゆる粒子状物質や窒素酸化物などによる大気汚染、そしてそれによる健康被害は、依然として問題なのです。
排気ガスによる大気汚染に曝露されることが、健康に悪影響を及ぼすのは間違いないでしょう。交通事故についても、年代によっては、クルマの死亡率のほうが高いとは言え、事故による潜在的な死亡リスクが高まるのも当然です。実は、こうした
リスクを調べた研究データもあります。
事故や大気汚染など、自転車に乗ることによるデメリットを、疫学的な調査データと解析によって導き出している研究があります。結論的には、こうしたリスクを考慮しても、自転車に乗るメリットのほうが、かなり優ったそうです。交通事故や大気汚染の影響は、長期には低下しているので、この優位は揺るがないと言います。
私の友人にも、ふだん自転車に乗らない人は多いですが、そうした人たちに、特に自転車に乗るように勧めたりすることはありません。理由に関わらず、自転車に乗ろうが乗るまいが、それは個人の勝手です。考え方は人それぞれですから、押し付けるつもりは毛頭ありません。
ただ、食わず嫌いで、イメージだけで敬遠している人も多い気がします。乗ってみると目からウロコで、考え方が変わる人も少なくないと思います。残念なのは、日本では格安ママチャリが席捲しているため、それらに乗っても、なかなか目からウロコ体験になりにくい点でしょうか。
ベッタリ、足が地面に着く乗り方なのも問題ですが、きちんとした自転車に正しく乗ると、自転車本来のポテンシャルが理解できるはずです。単に健康上のメリットだけでなく、『自転車に乗るのは楽しい』ことも実感するでしょう。乗る乗らないは自由ですが、一度きちんと体験してから判断してほしいな、と思います。
米中の貿易戦争、覇権争いが世界経済のブロック化につながり、悪夢の歴史が繰り返されないといいのですが。
Posted by cycleroad at 13:00│
Comments(2)