近年は、いろいろな面で技術革新が進んでいます。たくさんの分野がありますが、電波の利用技術もその一つでしょう。電波はテレビやラジオの放送、データ通信、気象観測、電波望遠鏡まで、さまざまな用途で役に立っています。身近なところでは、電子レンジなども電波(電磁波)の一種、マイクロ波を使っています。
携帯電話を考えればわかりますが、電波の利用技術は長足の進歩を遂げており、最初は携帯電話もショルダーホンと呼ばれる大きなものだったのが、手の平に乗るほど小さく、薄くなりました。伝送できる通信容量も飛躍的に拡大、伝送速度も速くなっています。
携帯電話の通信回線以外でも、衛星放送、無線LAN、ブルートゥース、ドローンの操縦など、さまざまな分野で電波が使われるようになり、私たちの生活の中で大いに役立っています。交通関連では、ETCやVICS、そしてGPSも電波の技術です。
クルマのナビゲーションや、スマホの地図アプリなどを通してGPSは生活の中に浸透しています。もう地図アプリが無かったら、待ち合わせも出来ないという人もいるのではないでしょうか。ポケモンGOのようなゲームや、登山やゴルフ用にもGPSが使われています。
サイクリストの中にもナビを使ったり、GPSロガーで走行軌跡を保存するなど、お世話になっている人も多いと思います。さらに、今後増えてくると思われるのが、自転車を盗まれた際に現在地を特定して、発見するための装置、GPSトラッカーでしょう。
自転車用以外も含め、すでに実用化されており、使っている人もあるかも知れません。最近新しく開発される電子的な自転車用品の中には、ナビの機能に加えて、盗難時の位置情報を通報する機能が盛り込まれているものも出てきています。今後の有力なアイテムと目されます。
これまで、このブログでも、この手の製品をいろいろ取り上げてきました。盗難防止装置もいろいろ開発されていますが、それでも盗まれてしまった時、追跡する方法があれば、被害を回復する可能性が残ります。被害届を出しても、警察も忙しく、いちいち探してられないでしょうから、大きな武器です。
ただ、問題もあります。多くの装置は、外から見える場所に取り付けざるを得ないため、犯人に見つかり、取り外されてしまう可能性があります。高額のスポーツバイクを狙って換金を目的とする常習犯の場合、検挙される危険を防ぐため、こうしたアイテムの情報には当然気をつけているはずです。
もし、フレームの中に取り付けられれば、外からはわからず、犯人に取り外される可能性は激減するはずです。しかし、一般的な自転車のフレームは金属製なので、フレームの中だと電波が受信出来ません。GPSの電波を受信したり、スマホに通報するための通信のためには、フレームの中というわけにはいきません。
自転車用のGPSトラッカーの宿命と言うべき弱点です。ところが、この弱点を克服した製品が登場しました。本体をシートチューブの中に入れて使う製品、“
itrakit”です。これはフレームの中にセットしても、GPSを使って測位し、位置情報を持ち主に知らせることが出来ると言います。
重さも95グラム、バッテリーの寿命は12ヶ月もあるため、その点でも実用的です。モーションセンサーも内蔵しているので、まず不審な動きを検知した時点で通報してくれます。そのまま盗まれてしまった場合は、リアルタイムに位置情報をトラッキングします。
さらに、盗難レポートを作成し、警察に直接通報する機能があり、位置情報を警察とシェアすることが可能です。開発者グループは警察と継続的に協議を行っています。これは今のところ英国警察が対象ですが、犯人の検挙や自転車の回収に大きく貢献する可能性があります。
これまでの「紙」の被害届では、事件が発生した事実は確認できても、それ以上のものではありません。忙しい警察が、わざわざ限られた人員を捜索に割り当てるのには不十分でしょう。しかし、リアルタイムの位置情報データを受信すれば、犯人の検挙の可能性も高く、警察にとっても、対応する価値があるというものです。
イギリスでは、6分に1台のペースで自転車盗が発生しており、昨年は2017年と比べて21%も増えています。年間25万件に上る自転車盗のうち、わずか1.5%しか検挙して有罪に出来ていません。盗まれた自転車が無事に回収される割合も5%に過ぎません。
もし、この装置が効果的に機能すれば、警察にとっても検挙率を上げることが可能になり、自転車盗犯罪に対する抑止にもつながるに違いありません。サイクリストにとっては、自転車盗の不安を多少なりとも減らせることになるわけで、魅力的な製品と言えるでしょう。
詳しい仕組みが書かれていないので、どのようにしてフレーム内での送受信を可能にしたのかは、よくわかりません。開発者は、これまでGPSトラッカーを自転車のフレーム内に収めることが究極の目標だったと言います。これまで実現出来なかったのを、ついに可能にしたとしています。
GPSの電波は、携帯電話、無線LANやBluetooth、テレビの電波、電子レンジなどと同じ、300 - 3000MHzの、極超短波という周波数帯です。試しに、クッキーの缶など金属の箱に携帯電話を入れ、電話をしてみるとわかりますが、おそらく圏外になって、かからないはずです。
携帯電話やクルマのスマートキーなどを入れるための電波遮断ポーチが売られていますが、これも同じ原理です。金属に囲まれた空間では、電波を受信できないのです。ただ、必ずしも絶対ではないようです。ネット通販で電波遮断ポーチなどを買った人のコメントを見ると、全く効果なしというレビューが少なくありません。
場合によっては、金属で囲んでも遮断できないことがあるようです。可能性としては、隙間があったことが考えられます。電波は反射したり、回り込んだりしますから、少しの隙間があれば、中まで届いてしまう可能性があります。微小な電波をキャッチする感度があればいいわけです。
クッキーの缶に入れ、密閉しているつもりでも、缶の塗装とか、ヒンジの構造などによっては、電波が漏れてしまうこともあるようです。実際に、携帯電話をアルミホイルでくるんでも着信する場合があります。電波を音波で例えると、密閉された部屋にいても、かすかに外の音が聞こえるのと似た感じでしょうか。
もしかしたら、シートチューブに密着して、フレームがアンテナの役割をするのかも知れません。ほかにも、フレームの金属と共振という現象が起こることで、電波が誘導される可能性もあります。素人なので、推測の域を出ませんが、何らかの新しい技術によって、フレーム内に収めることが可能になったのでしょう。
犯人にわからないように、装置を潜ませておけるとしたら、GPSトラッカーとしては効果的です。例によって、
クラウドファンディングサイトで資金調達が行われていますが、早々に目標額を突破し、2倍を超えるほどの人気となっています。多くのサイクリストが期待しているようです。
ただ、もしこれが広く普及し、自転車盗の犯人にも知られるようになったら、犯人はシートポストを外して確認するようになる気がします。もちろん、そうなれば、簡単には外せないようにするなど、新たな対策が施されるとしても、イタチごっこの懸念が残らないではありません。
それでも、GPSトラッカーが窃盗犯の検挙に寄与する確率が高まれば、ナビやGPSロガーだけでなく、サイクリストの間でGPSトラッカーが普及する可能性はあるでしょう。長年サイクリストの悩みであり、有効性が高まるなら、少なくとも高価な自転車に乗るサイクリストで採用する人は増えるはずです。
こうした装置が普及し、当たり前のように『アシ』がつくようになり、もはや自転車盗が割に合わない犯罪となることを期待したいものです。ちょっと先走り過ぎですが、IoTの時代も迫る中、昨今の技術革新の速さを考えると、自転車が盗まれにくくなる社会の実現は近いのかも知れません。
ウィンブルドンの錦織圭、NBAの八村塁、日本プロの石川遼、MLBの大谷翔平、今週は見応え満載でしたね。