さまざまな面で不都合なものはあると思いますが、物理的に一番の邪魔となるのは風、あるいは空気抵抗ではないでしょうか。強い向かい風には難儀しますし、強い横風も厄介です。風向きは別としても、空気抵抗は、自転車にとっての最大の抵抗力なのも間違いありません。
地球上、大気圏内で移動するあらゆる物体は、空気抵抗を受けるのを避けられません。でも、クルマやオートバイ、その他の動力付きの乗り物と違って、基本的に推進力が人力だけの自転車には影響が大きく、無視できない存在です。出来ることなら空気抵抗を少なくしたいと思うのは当然でしょう。
そこで、自転車のフレームを空気力学的な観点から見直した自転車があります。ご存じの方も多いと思いますが、日本のトライアスロン専門バイクブランド“
CEEPO”の、“
Shadow-R”というモデルです。これは、他に類を見ないような斬新なデザインです。
前輪を支えるフォークが通常の場所になく、水平方向から伸びています。後輪のシートステイも水平です。これは、空気抵抗を減らすためのデザインです。フロントフォークが鉛直に近い形になっているより、水平方向なほうが、前方から見た時の面積は格段に小さくなります。つまり、それだけ空気抵抗が小さいわけです。
トライアスロン用のバイクは、その競技の性質上、ロードバイクとは、また違った特性が求められます。あまり急加速したり、細かく進路変更したりしない代わりに、ライディングポジションも含めて空気抵抗を小さくし、いったん出したスピードを持続出来たほうが体力を使わず、次のランに余力を残す上で有利です。
ロードレースと違って、トライアスロンでは一般的にノンドラフティングルールが適用されます。団体走行禁止です。頻繁な順位の入れ替わりや駆け引きなどをするのではなく、いかに体力を温存しつつ、スピードを落とさずに走り切るかという点が、設計上重要になるわけです。
一般的なロードレースでは、規定でダイヤモンドフレームであることが求められますが、トライアスロン用ならば、その特性に合わせた独自の設計が可能です。“Shadow-R”は、水平のフォークなどの独特のデザインによって、空気抵抗を27%低減しているそうです。
ちなみに、このフォークは従来型より重くなってしまうという短所もある一方、路面からの衝撃や振動を吸収して減衰させるため、疲労の蓄積を抑える効果もあるそうです。フォークの構造を変えたことによる副次的なメリットです。斬新なデザインも、リーズナブルに見えてきます。
フレーム空気抵抗が3割減っても、たいした違いではない気もしてしまいますが、走行中常に減ることを考えると、トータルの疲労度はかなり違ってくるに違いありません。空気抵抗の小さい姿勢をラクに維持できることも含め、フレームの形状の違いは小さくなさそうです。
固定観念があるからなのか、一般的なダイヤモンドフレームと比べると奇抜に見えてしまいますが、それだけ自転車のフレームには、まだまだ工夫の余地があるということなのかも知れません。ただ、トライアスロン用には優れていても、普段の移動に使う自転車には向かず、なかなか一般的な自転車への波及は見込めないでしょう。
フレームもそうですが、人間の身体の空気抵抗も無視出来ません。しかし、身体の形を変更するのは困難です。そこで、ウインドシールド、ウインドスクリーン、あるいはフェアリングなどと呼ばれるパーツを取り付けることで、空気抵抗を減らそうという考え方もあります。
単体では、かえって空気抵抗が増えそうですが、スムースな空気の流れを作り、人間の身体の空気抵抗を減らすことで、トータルではプラスになるようです。自転車のパーツとして、あまりメジャーとは言えませんが、風防実験などで、理論的には実証されているそうです。
ロードレースなどでもそうですが、集団走行で前の人を風除けにすると、たしかにラクになります。上手くデザインされたウインドシールドは、空気の流れを作り、乱気流や空気の渦が出来ることを防ぎます。このことによる、空気抵抗の低減効果は大きいと言います。
さらにスムースな空気の流れを作るならば、全体を覆ってしまう方法も考えられます。自転車による最高速のチャレンジでは、必ず全体が覆われたベロモービルが使われることを見ても、ダントツに抵抗が小さいのは間違いありません。ただ、日常走行には不便で不向きであり、そのへんとの兼ね合いということになりそうです。
中には、空気抵抗を減らすのではなく、利用出来ないかと考える人もいます。ウィンドサーフィンのような帆を自転車に取り付けて、風を受けて走ろうというわけです。しかし、少し考えればわかる通り、広い海や湖ならともかく、道路で上手く風向きをコントロールするのは難しいなど、あまり実用的とは言えません。
モーターファンを取り付けてしまった人もいます。いわば風によるアシストです。こちら、“
Jet Bike”は、全て通販などで個人で購入可能な部材を使っており、誰でもマネが出来るようになっています。これがあれば、多少の空気抵抗は無視出来るでしょう。気持ちはわからないではありません。
ただ、音はうるさいですし、バッテリーなどの問題もあります。風を起こして推進力にするより、電動バイクのほうが、はるかに効率は高いはずです。動力を使うのであれば、電動バイクや、それこそオートバイにすればいいということになってしまうわけで、意味がある技術とは言えないでしょう。
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こうして見てくると、自転車を阻む空気抵抗が、まだまだ課題であり続けるのは間違いなさそうです。科学技術で、かつては考えられなかったような進歩を遂げている分野もあるわけですが、自転車の行く手を阻む風や空気抵抗に関するブレークスルーは、少なくとも、私たちの生活の中では依然として起きていません。
人類が宇宙に出ていこうという時代、現代の科学技術の急速な進歩を思えば、空気抵抗を限りなく小さくするような画期的新技術が出てきても良さそうなものです。ただ一方で、いまだに強風だと使い物にならない傘を使っていることを考えても、これからも自転車に乗って、強い風に悩まされる時がある日常に、変わりはないようです。
折しも台風が上陸しています。さすがに台風の時には出かけないに限ります。過ぎたら梅雨明けになりそうです。
Posted by cycleroad at 13:00│
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