サイコン、サイクルコンピュータを取り付けている人ならば、速度や走行距離、平均時速など、機種によってはケイデンスなどもわかるかも知れません。記録として残せるものもあるでしょう。GPSロガーなどを使っている人ならば、位置情報やその累積、走行軌跡もデータとして残せると思います。
こうしたデータは一連の走行記録、例えば今日一日に走った全体を把握するのには向いています。気象条件などが変わらないとすれば、過去の記録と比べて同じ距離を短い時間で走破することで、それだけパフォーマンスが向上したと判断することが出来るでしょう。
普通に道路を走る場合、全体を通した走行データでパフォーマンスを判断することに異論はありません。しかし、例えばMTBでトレイルランや、ダウンヒルにチャレンジするような場合、走行中のテクニックの向上とか、脚力やスキルアップを判断するようなデータとしては向かないでしょう。
最近は、半導体技術の進歩によって、各種センサーなどの部品は高性能になり、同時に小さく、低価格になってきています。そこで、こうした半導体部品を使って、細かい自転車の動きを検出、解析、記録して、データとして把握できないものかと考えた人たちがいます。
デンマークはコペンハーゲンを本拠に活動するスタートアップ企業、
TrailSense 社の、Jan ostergaard Hansen さんや、Thomas Kristiansen さんらのグループです。彼らは、マウンテンバイクによる走行の中身に迫るようなデータを取得したいと考えました。
一般的なサイコンの仕組みはシンプルです。スポークに取り付けた磁石を使って、タイヤが一回転する時間を測ります。あらかじめ設定したタイヤの周長により、一回転で進む距離はわかっています。これを元に計算して速度を割り出します。それを表示したり、距離を記録したり、計算して平均時速などを出します。
でも、最近の技術を使えば、タイヤの回転だけでなく、センサーによって瞬間瞬間の自転車の姿勢や動きなど、もっといろいろなデータをとることが出来ます。そのデータを使えば、マウンテンバイクのスキルやテクニック、走行技術の本質に迫れると考えたのです。
開発したのは、こちら“
TrailSense”です。コンパクトな筐体ですが、これをMTBのフレームに取り付けることで、各種センサーがデータを取得します。データは、Bluetooth を通してスマホに送信し、専用のアプリで閲覧したり記録できるようになっています。転倒を検出して動きがなくなった場合は、友人らに通報する機能もあります。
使っているのは、9軸センサーです。前後・左右・上下方向、X、Y、Zの3軸の加速度センサー、同じく3軸の角速度センサー、3軸の方位センサーを合わせて9軸センサーです。角速度センサーは、ジャイロセンサーとも、方位センサーは地磁気センサーと呼ばれることもあります。
加速度センサーやジャイロセンサーなどを組み合わせて、モーションセンサーと言ったりすることもあります。それぞれの説明は長くなるので省きますが、取り付けた自転車の、瞬間瞬間の傾きや加速度、ロール・ピッチ・ヨーの回転の力、方向(方角)、角度、角速度などが検出できます。
これによって、自転車の姿勢や、かかっている力、動き、あるいは衝撃などがわかります。これらのデータを取得することで、実際の走りが分析できるわけです。ジャンプや着地、その間の時間もわかりますし、コーナリングのスピードやRの大きさ、身体にかかる力、G(重力加速度)もわかります。
センサーは、1秒間に最大100回、3Dのデータを生成します。後から、コーナーごと、ポイントごとに振り返り、自分の走りの出来を評価することが可能です。同じポイントの記録を比べれば、成長やスキルアップを具体的に把握、実感できることになるでしょう。
同じコーナーを曲がるにしても、余計な力が無理な方向にかからないほうが、ラクにスムースにコーナリングできるのは自明です。スピードアップのヒントも得られるかも知れません。こうしたポイントごとの走りの評価を具体的な数字で把握できれば、たしかに役に立ちそうです。
自分のテクニックや、走りのクセ、特徴、得手不得手なども把握することが出来ます。他の人と数字でテクニックを比べることも可能になります。このデータから、ダウンヒルやトレイルコースの難易度もわかりますし、コースの評価をすることも可能になります。なるほど、これは面白いアイテムです。
小さく、ただフレームに取り付けるだけと手軽です。これまでにない製品ですが、MTB用のサイコンとしても有用ではないでしょうか。しかし、残念ながら、
クラウドファンディングサイトでの資金調達には失敗しています。4分の1ほどの金額しか集まりませんでした。
面白いアイディアだと思いますが、おそらく自分のパフォーマンスを計測して分析し、技術の向上を目指したいと考える人は限られているということなのでしょう。MTBで本格的にトレイルやダウンヒルを楽しんでいる人自体が、それほど多くないということもあると思います。
一見すると面白そうに見えます。ただ、プロを目指すようなライダーならともかく、具体的なデータが見られることに価値を見いだす人は少ないのでしょう。あれば参考にはなるだろうけど、わざわざ購入して取り付けるほどの意義を感じないといったところでしょうか。
一般的に、データは21世紀の石油などと言われます。GAFAの例を出すまでもなく、データが大きな収益を生み、データを握ることが、これからの経済、データエコノミーでは決定的に重要になっていくでしょう。AIも、IoTも、5Gも、全てビッグデータに関連しています。
データの重要性は20世紀の石油に匹敵するほど高まります。しかし、いたるところに存在、生成されていても、そのデータを採掘出来なければ意味がありません。採掘して、精製して、使って初めて価値が出ます。その意味で、いかにデータを取得するか、出来るかがポイントとなるでしょう。
スマホの検索履歴などなら自然に蓄積していくかも知れませんが、わざわざ何かのデータを取得するためには、そこに何らかのメリットが必要でしょう。自転車の走行データだって、何かメリットとなるものが無ければ取得、蓄積されることは期待できません。器具を取り付けてもらえません。
ちなみに、トレイルコースの走行データは、あまり価値を生まないかも知れません。でも、仮にこの“TrailSense”が普及し、取り付けて街を走る人が増えたら、人々がどこでブレーキをかけるか、スピードを落とすか、一時停止するか、あるいは衝突したかなどのデータが取れるはずです。
データが蓄積していけば、事故の原因を解明して道路の安全性を向上させたり、事故を減らすための貴重なデータとなるでしょう。社会的に見れば、死傷事故は大きな経済損失であり、事故が防げれば、政府や自治体の税収や医療費などにも反映したり、保険会社などにも利益をもたらすはずです。
しかし、そのためには、データを収集する機器を取り付けてもらわなければなりません。データには価値があり、それを取得する技術もある、しかし、取得したくなる理由が足りません。何かユーザーにも取得に協力するメリットをもたらすような、例えばキラーコンテンツが必要となるでしょう。
自転車の走行データが、どれほどの価値を持つかはともかく、データは、取得するための仕組みが重要です。自転車の走行データに限ったことではありません。データエコノミーでは、技術もさることながら、集めるためのアイディアがカギを握るということなのかも知れません。
韓国をホワイト国から除外する決定がなされました。当然日本は、韓国のホワイト国から外されるんでしょうね。
Posted by cycleroad at 13:00│
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