機械と人間との間のやり取り、接続は、マン・マシンインタフェースとか、ヒューマン・マシンインタフェースなどと呼ばれます。人間と機械の歴史は、産業革命より以前からも延々と続いてきたわけですが、人間が機械を操作する方法、機械に人間の要求を伝える手段は変遷してきました。
最初は、レバーとかハンドルなどの物理的で力のいるものだったでしょう。進化するにつれ、スイッチやボタン、つまみ、ダイヤルなど、操作手段も進歩してきました。ランプやメーターなどで機械の状態も明確に把握できるようになり、より使いやすくなりました。
汎用コンピュータでパンチカードなどで入力していたのが、低価格化したパソコンが身近になり、キーボードとディスプレイを使ってコマンドを入力するように変わりました。さらに、マウスなどで直観的に操作ができるグラフィカルユーザーインターフェースへと進化しました。
最近はタッチパネルも当たり前ですし、音声認識で言葉を使ったインターフェースも増えてきました。画像認識や、モーションキャプチャーで操作するものもあります。さらにAI、人工知能が状況に応じ、わざわざ細かく指示しなくても最適な状態にしてくれたりします。
ところで、自転車も広い意味では機械、器械です。素材や加工技術の進化でパーツの精度が上がり、変速なども昔と比べてスムースになりました。最近は、電動コンポが登場するなど、操作性は向上しています。ただ、人間がその意志に基づいて操作をするという意味で、本質的には変わっていません。


その、人間と自転車のインターフェースを変えようと考えている人がいます。アメリカはシカゴ在住の、Andrei Botescu さんたちです。開発した“
Xmera Bionic Bike”は、世界初のバイオニックバイクとして、サイクリングの未来を変える自転車という触れ込みです。
この電動アシスト自転車の最大の特徴は、手首に取り付けた心拍計で、乗る人の心拍をリアルタイムに測定し、その状態によって、アシスト力が適切になるように調整してくれる点です。自分で指示したり操作する必要はありません。自転車が判断してくれます。
その日の体調などによって、身体のパフォーマンスは変わってきます。心拍数も変わるでしょう。つまり、同じ道路の走行でも、日によってアシスト力が変わるわけです。これによって、同じ道なのに、今日は何だか疲れるなと感じることが、少なくとも理論的にはなくなることになります。


いつでも変わらずラクに走れるだけではありません。自転車を有酸素運動、フィットネスとして乗る場合、最適な負荷をかけることも出来ます。つまり、目標とする心拍数を設定し、心拍計と連動して運動強度を自動で変えてくれる理想的なトレーニング・マシンにもなるわけです。
自動で体調や疲労を読み取り、いつもと変わらずラクに走行できるオートモード、より速く到着するために最大かつ効果的にアシストするダイナミックモード、より効果的な有酸素運動を行うためのワークアウトモード、いずれかを選べば、後は自転車が調整してくれます。
さらに、脳波を測定するヘルメットも開発中です。脳波で身体の状態を把握、分析してアシスト力の調整をしようというわけです。細かい操作をしなくても、自動で自転車が最適な状態になるわけで、マン・バイシクル・インターフェースの大きな進化と言えるかも知れません。

そのほか、後輪だけでなく前輪にもモーターを取り付けて両輪駆動にすることも出来ます。よりパワーを加えてオフロードなどの走破性を高めるオプションです。バスケットなどの部品を取り付けるカスタマイズも出来ます。GPSトラッカーが装備されており、盗難に遭った際には追跡も可能になっています。
事故の際には緊急連絡先に通報してくれたり、バッテリーを増やすことで航続距離を伸ばすことが出来るなど、電動アシスト自転車、eバイクとして、さまざまな機能が充実しています。ちなみにオートバイのガソリンタンクのように見える部分は小物入れです。
自転車っぽくなく、オートバイの形状を模したようなスタイル、フレーム形状については、好き嫌いが分かれると思いますが、少なくともアメリカでは一定の人気があるようです。電動アシスト自転車としても、いろいろな魅力が詰め込まれた製品と言えるでしょう。


Andrei Botescu さんは、共産主義時代のルーマニア、ブカレストで生まれ育ちました。1994年にシカゴへ移住し、コロンビア大学で一緒に開発に取り組むパートナーに出会いました。そこで、ずっと温めていた、人の心を読む自転車というSFのようなアイディアを実行に移すことにしたのです。
有名な見本市、CESにも出品しています。以前からアナウンスされていましたが、ようやく
クラウドファンディングサイトでの資金調達も開始され、すでに3倍近い金額に達するなど、人気は上々のようです。2020年の1月から世界中に発送が開始される予定です。


今後、すべての自転車のインターフェースが、このような形、AIを駆使するようなものになっていくとは言いません。煩わしく思う人もいるでしょうし、もっとシンプルなほうがいいとの考え方もあるでしょう。必ずしも自転車に必要な部分かについても意見の分かれるところだと思います。
ただ一方で、いろいろ意識しなくて済むのが快適と評価されたり、誰もが便利と感じるようなものになっていくならば、自然と普及していく可能性も排除できません。そして今後、機械やコンピュータ全般のインターフェースは、さらに進化して行くでしょう。
ブレイン・マシン・インターフェース、すなわち、機械に触れることなく、脳波で直接コントロールするような技術の確立も予想されています。人間と機械の関係がどのような形になっていくのかはわかりませんが、もしかしたら、人と自転車のインターフェースも変わっていくのかも知れません。
渋野日向子選手が、海外初挑戦で男女を通じて42年ぶりのメジャー優勝の快挙を達成、これはスゴいですね。
Posted by cycleroad at 13:00│
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