そう考えている人は少なくありません。普通に考えれば、自転車の基本的な部分は長らく変わっておらず、むしろ成熟した製品です。細かな部分は別として、改良の余地は多くないと考えるのが一般的でしょう。しかし、自転車をもっと良くしたり、もっと役に立つように出来ないかと考える人達が世界中にいます。
前回は、新しいスタイルの自転車、次世代のモビリティとしての自転車を生み出そうとしている人たちを取り上げました。シェアリングやスマホアプリによるマッチングサービスなど、既存の移動手段も大きく変わろうとする中、自転車の新しい形を考える人たちでした。
一方、自転車そのもの、根本的な部分を改良できるのではないかと考えている人たちもいます。例えば、オランダのデルフト工科大学の研究チームは、地元の自転車メーカー、Royal Dutch Gazelle 社と連携して、自転車の根本的な部分のハイテク化とも言うべき研究を行っています。
オランダでは、深刻な交通事故の発生数は減少しているものの、自転車の事故は増えています。その背景には、社会の高齢化に伴って、比較的高年齢のサイクリストが増えていることがあると考えられています。そこで、自転車に、もっと安定性をもたらすことを考えました。
低速走行しても、フラつかないようにステアリングをアシストするシステムです。ハンドルがフラついて、転倒の恐れが生じると、モーターの力でハンドルを調整し、補正します。このシステムは、時速4キロ以上の速度で作動し、自転車の姿勢を安定させます。
デルフト工科大学では、過去15年にわたってこの研究を続けてきました。自転車を安定させる理論については、“Science”などの科学雑誌で発表しています。この理論をアルゴリズムにしてプロセッサを動かし、センサーやステアリングを調整するモーターを制御しています。
個人的には、モーターやプロセッサ、バッテリーを搭載するより、3輪にしたほうが簡単で手っ取り早いのではないかという気がしてしまいます。むしろ、より低速のほうがフラつきやすいのに、時速4キロから動作という点も、効果に疑問が残ります。実用化にはまだ多くの研究が必要としています。
自転車のペダルについて疑問を持った人もいます。ペダルの回転運動には、どうしても上死点と下死点が出来、足の力が効果的に伝わる角度は限られます。それならば、上の動画のように、ペダルは上下運動、ポンプアクションにしたほうが効率的だろうと言うわけです。たしかに物理的に言えばその通りなのでしょう。
これによって、坂を上るのもラクになると言います。普通の自転車を、この上下運動ペダルにするためのキットを開発しています。同じような主張をする人は、他にも見ますから、理屈としては間違いではないのでしょう。ただ、クラウドファンディングによる資金調達には失敗しています。
もっと生活に即した実用レベルで、自転車の活用を広げることを考えている人もいます。“Cycle Mower X”は、自転車で牽引する芝刈り機です。アメリカなどでは、個人の住宅の庭に芝を植えるのは一般的であり、乗用などの芝刈り機が当たり前のように普及しています。
しかし芝刈り機は、ガソリン式が一般的で有害な排気ガスを排出します。アメリカ環境保護庁の資料によれば、アメリカ人は毎年、芝刈りで8億ガロンのガソリンを燃やし、1台あたり88ポンドの温室効果ガスと34ポンドの汚染物質を大気中に放出していることになるそうです。
稼働中の振動も大きく、音がうるさいのも悩みの種です。日本でも公園などで芝刈りをしているのに遭遇すれば、排気ガスの臭さとその騒音の大きさが理解できるでしょう。つまり、自転車式にすることで、『地球上で最も環境に優しい乗用芝刈り機』にしようと言うわけです。ガソリン代もかかりません。
雪かきに自転車が使えないかと考えた人もいます。スコップなどを使って雪かきをするのは重労働です。そこで、上の動画のような除雪機の自転車版があれば、自転車に乗っているだけで除雪が出来てラクだろうと考えました。多少の脚力は必要ですが、ラクなだけでなく効率的です。
実は、この雪かき自転車については、同じことを考える人が多いらしく、自作で自転車に部品を取り付け、実際に雪かきをしている人がいるようです。下の動画のように、さまざまなタイプが載っています。日本でも実践している人がいるかはわかりませんが、これは使えそうです。
最後に、もう一つ。こちらは自転車本体ではなく、自転車のタイヤなどのパーツを使って、杖に作ることを考えた人がいます。普通の棒のような杖でなく、杖自体に車輪がついて転がる、“THE WALKING WHEEL”です。持ち手に体重をかけるとブレーキがかかり、身体を支えることが出来ます。
自転車のタイヤと互換なので、修理や交換もできます。オフロード用にすることも可能です。使い勝手はどうなのかわかりませんが、歩行器とか、高齢者が杖代わりに使う手押しカートにも車輪がついているわけで、案外使えるのかも知れません。普通の杖と比べて、スタイリッシュに見えるのも利点でしょうか。
ここに挙げたのは、ごく一部です。もちろん、普及して一般的に使われるようになるとは限りません。しかし、これまで一般的になった自転車も、最初からあったわけではありません。例えばマウンテンバイクは、山からオフロードを下って楽しむために、ビーチクルーザーを改良して使っていたのが元です。
もっと改良できないか、もっと違うことに使えないか、新しい道具が出来ないかなど、いろいろ試行錯誤をしている人が、世界中にいます。そして、そんな試行錯誤の中から、また新しいカテゴリーの自転車、自転車用品や道具が生まれてくるかも知れません。
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サモア戦の最後のワンプレーでトライしてボーナスポイント獲得には感激しました。いよいよ次が正念場ですね。
Posted by cycleroad at 13:00│
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