身近なところでは、スマホの音声認識アプリとか、各種ウェブサイトのサジェスト機能もそうです。AI家電なども登場していますし、医療の分野では画像による病気の診断で医師の補助をしたり、ビジネスでもマーケティングからコールセンターまで、さまざまな分野ですでに稼働を始めています。
近未来に実現するとされているクルマの自動運転でも、AIは欠かせません。自転車の分野でも、最近のアクセサリーの中には、スマホと連動させAIを使うものが登場しています。あらゆる場面でAIが利用され始め、今後さらに増えていくのは間違いないでしょう。
ただ自転車は、クルマのようなAIを使った自動運転にはならないと思います。二輪でバランスをとるのは難しいですし、止まれば転倒という問題があります。トライクにしたとしても、センサーや操舵装置などを搭載すると重量も重くなりますし、クルマより困難だと思われます。
自転車が自動運転になったとしたら、それはもう自転車ではなくなるでしょう。自動運転のオートバイ、もしくは、自動運転のクルマの小型省スペースタイプということになると思われます。一方、人間がペダルをこぐ自転車は、あいかわらず自転車として残っていくと思います。

それでは、自転車とAIは縁がない、そりが合わないのかと言えば、そうとも限りません。オーストラリアの
ロイヤルメルボルン工科大学が、
IBM基礎研究所と共同で
AIが乗り手をサポートする電動アシスト自転車を開発しています。“
Ari the e-bike”です。
IBMと言えば、人工知能のワトソンが有名ですが、この自転車は“Ari”という人工知能とIoTを利用することで、街を走行する時に、なるべく赤信号にひっかからないようにするというものです。AIのサポート通りに走行すれば、行く先々の信号が青となる可能性が高くなるように計算され、制御・伝達されます。
自転車は基本的に人力で走るものです。そのため、出来ることならば、スピードを落とさずに走りたいという欲求が生まれます。スピードに乗れば、慣性の法則で、ある程度ラクに走れますが、一旦止まってから加速するのは余計に力を使います。なるべくならスピードを保ち、止まらずに走りたいと思うのは人情でしょう。
電動アシストならば、走り出しが軽くはなります。それでも、いちいち赤信号で止まらされて待たされるより、スーッと走れたほうが快適なのは変わりありません。止まりたくないという動機がどうしても働くため、クルマが来なければ赤信号を無視する自転車も絶えないのでしょう。
そういう観点から考えると、なるべく赤信号にひっかからず、青信号でそのまま交差点を通過できるというのは、サイクリストにとってメリットです。それが実現されるのならば、このAIを使った“Ari the e-bike”も一定の意味を持つのではないでしょうか。
実験が行われたビクトリア市の、交通局の交通データと青信号モデルを取得し、“Ari”がリアルタイムに最適な走行速度を割り出します。ルート前方の青信号のタイミングを計算し、必要に応じて電動アシストモーターのサポート力を上げ、加速させます。

逆に減速が必要な場合は、勝手にブレーキをかけるわけではなく、ライダーが身につけた骨伝導ヘッドフォンで、減速の指示を出します。それを聞いた乗り手がペダリングをやめ、そのまま空走することで自然に減速してスピードを調整するわけです。
AIは、電動アシストのサポート力を増加させることはしますが、走行の主体はあくまで人間です。AIは、なるべく青信号で通過できるように指示、サポートするだけです。走行地点と速度を把握し、少しでも快適に目的地に着けるよう、スピードの出し具合をナビゲートをするのが役割です。
骨伝導ヘッドフォンを使って音声で指示するのは、安全のためです。画面表示などによる減速の指示だと、、脇見になってしまいかねません。この形は、自転車とAIの、マン・マシンインターフェースの将来の設計にも反映され、役に立つと考えられています。
それぞれの都市で、交通データや信号システムなどは違いますので、今のところ汎用性には欠けます。研究チームも、このまま拡大させていく予定はありません。ただ、自転車におけるAIの有効な使い方について、一つのスタイルを示したと言えるでしょう。
なんだ、それだけかとの感想を持つ人もあるかも知れません。しかし、少なくともクルマは自動運転になっていき、信号システムや各モビリティの移動データを統合するような方向に向かうと予想されます。こうした技術は、将来の交通基盤の中での自転車走行に役立つ可能性があるでしょう。
この“Ari the e-bike”のように、AIが直接アシストを制御するものだと、この自転車そのものが普及する必要があります。しかし、例えば、このようなAIを、どの都市にも対応させて、スマホのアプリを経由して使うようにすれば、広く普及していく可能性もありそうです。
例えば、スマホアプリを通してブルートゥースの骨伝導ヘッドフォンで加減速を指示する形ならば、電動アシスト以外も含めて、どんな自転車でも利用できます。そして、そのAIの指示通りに走行すれば、赤信号でなるべく止まらず、快適で、ラクに着けるとなれば、使う人も増えるかも知れません。
加えて、見通しの悪い交差点での出会い頭の事故を防いだり、一時不停止による事故を未然に回避させるといった機能の拡大も考えられます。都市全体の交通、移動データをIoTで共有、運用するような時代になっていけば、AIが全体の交通安全の一翼を担うようになっても不思議ではありません。
さらに、スマホでAIのサポートを受けながら走行したほうが安全・快適なため、自転車乗車中はAIを使うようになり、他のスマホアプリを使いながらの走行をしなくなったりするかも知れません。これは私の勝手な希望的観測ですが、あながち無いとも言い切れないでしょう。
AIは、それと気づかないうちに、ありとあらゆる面で私たちの生活の中に入り込み、便利で快適にしてくれ始めています。人類全体に及ぶであろう恩恵の実現も見込まれます。いずれにせよ、自転車の世界だけ、AIが利用されないということは無さそうです。
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台風21号の影響もあって大雨になっています。まだ復旧していない被災地で更に災害が起きないといいですが。
Posted by cycleroad at 13:00│
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