December 03, 2019

英国与野党が折り合える部分

イギリスは来週総選挙です。


イギリスのEUからの離脱、いわゆるブレグジットの行方を占う上で、世界からも注目される選挙です。もう3年も続くイギリス政治の混迷に終止符を打てるのか、どこも単独過半数をとれずに、ハング・パーラメント状態になるのか、結果いかんでは、世界にも影響が及びます。

英総選挙イギリスに進出する日本企業は1300社もあります。すでに移転や生産中止する会社も出ていますが、ブレグジットでEUとの間に関税が生じる事態となれば、各社のヨーロッパ事業には大きなマイナスとなります。合意なき離脱に陥れば、物流が混乱して製造停止など、企業収益にも影響するでしょう。

金融立国イギリスの中心、シティは世界最大の金融都市であり圧倒的に重要なハブです。世界の金融機関が一番集まるこの場所が、単一パスポート制度の恩恵を受けられなくなれば、決済が滞るなど混乱し、これをきっかけに金融危機になる可能性も指摘されています。もちろん日本にも大きな影響が及びます。

イギリスがEUの制約から外れ、自国の政策を進める自由を得るのか、単一市場へのアクセスを失い、経済的に大打撃を受けることになるのか、決めるのはイギリス国民です。国民は決められない政治に嫌気がさし、ブレグジット疲れと言われていますが、その影響は世界に及びかねないことから注目される選挙です。

その総選挙に向け、各政党は選挙公約を発表しています。当然ながら、ブレグジットが最大の争点です。そのほか、NHS(国民保健サービス)なども関心は集めていますが、EUからの離脱か残留か、文字通り国論を二分する論点となっています。

BrexitBrexit

ところで、各党は選挙公約として、今後の自転車政策も打ち出しています。ほとんどの人の投票行動に直接影響を与えることはないと思いますが、多くの党が選挙公約にサイクリング政策を取り入れているのです。日本では、国政レベルでの選挙公約としては、あまり見たことがありません。

イギリスもヨーロッパ各国と同じように、気候変動に対し高い危機感を共有しています。イギリスでは、移動や輸送セクターが、最大の温暖化ガスの排出量となっており、自転車政策は気候変動への取り組みでもあるのです。都市の交通渋滞、交通事故など、身近な交通政策とも関連しています。

ディーゼル車による大気汚染も問題となっており、クルマの運転を減らすことが求められています。こうした点からも、自転車政策は重要で、身近な問題と認識されているようです。環境問題に対する姿勢を示す上でも、自転車政策は欠かせない部分なのでしょう。

BrexitBrexit

与党・保守党は、5年で3億5千万ポンドの自転車インフラ投資ファンド創設、インフラの厳しい設計基準、20億ポンドのポットホール基金、全ての子供を対象とした自転車能力トレーニング、主要道路での分離された自転車レーンの提供増加などを打ち出しています。

このポットホールというのは、道路の舗装が剥がれて出来る穴のことです。日本でも、道路の凍結やタイヤチェーンなどの影響から、特に雪国で多くみられます。これはイギリスだけではなく、世界各国でも問題とされています。例えば、アメリカでは補修に年間30億ドル以上必要となっています。

この穴は交通事故も誘発します。インドでは一日に10人がこれによって死亡すると言われ、テロよりも深刻とされています。イギリスでは、クルマとの事故もさることながら、この穴で自転車が転倒することにより、過去5年の間に、250人を超えるサイクリストが死亡、または重傷を負っていると報告されています。

穴だらけポットホール

自転車で走っていて、突然転倒して亡くなったりするわけですから、自転車利用者にとっては切実な問題です。事故が起きる前に、早急に補修する必要があり、各地の自治体で問題になっているのです。この道路の穴を補修するための費用を基金として20億ポンド拠出することを選挙公約に含めているわけです。

最大野党の労働党は、年間72億ポンドの予算をとり、初年度3千1百マイルの自転車道を提供し、全国1万の小学校に安全なサイクリングと徒歩の通学路を確保すると打ち出しています。Eバイクの購入補助、サイクリングイングランド計画の復活、自転車訓練拠出金の倍増、インフラ投資基金創設などを公約しています。

労働党のコービン党首は、EU離脱か残留かで党が割れ、明確な方針が示せず苦慮しています。しかし、自転車政策については、自身も自転車が大好きなので、この選挙公約で掲げた自転車ポリシーを誇りに思っているとコメントしています。

Brexit労働党

最近支持を伸ばしている緑の党は、環境に優しい新契約の一環として、10年で年間25億ポンドの拠出を誓約しています。インフラ整備や自転車訓練などに使います。地方自治体に対して、最高品質のインフラ提供のための支援、仕組みの構築なども打ち出しています。

自由民主党は、5年間で輸送部門の予算の10%を自転車に費やすという野心的なコミットメントを表明、クルマへの依存度を減らす計画を打ち出しています。専用の安全な自転車レーンの整備を含む、徒歩と自転車での移動を促進する国家戦略と位置付け、両者の優先を明確にしています。

ブレグジット党は、イギリスのEUからの早期離脱という単一の論点を打ち出している政党なので、今のところ、特に自転車政策には言及していません。ただ、イギリスの主要政党は、いずれも自転車政策を重視しており、予算に関しても積極的な方針を打ち出していることがわかります。

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保守党のジョンソン首相も、労働党のコービン党首も、個人的に自転車好きとして知られています。自転車に乗って移動しているのも、よく目撃されているそうです。セキュリティの面などから、日本の党首レベルの政治家では考えられないことですが、それだけ自転車に対して理解があるのは間違いないでしょう。

日本の政党が、国政レベルで自転車政策を積極的に打ち出すのは、ちょっと考えられません。イギリスでは、国民レベルで、自転車の活用の重要性、環境に対する有用性、安全対策やインフラ整備の必要性が認識されています。それが、国政にも反映しているのでしょう。

来週に迫ったイギリスの総選挙の結果がどうなるのかはわかりません。仮に保守党が勝利して、来年の1月末に予定通りEUから離脱できたとしても、EUとは将来の関係を定めるための交渉が待ち構えています。来年末までの移行期間の間に、新たな貿易協定を結ぶのはかなり困難との見方もあります。

もし、貿易協定がまとまらなければ、事実上の合意なき離脱となり、世界的な混乱を招く可能性は、依然として否定できません。ブレグジットの行方は、今後も予断を許さないわけですが、一つ言えるのは、選挙の結果にかかわらず、イギリスの自転車環境は、今よりも良くなって行きそうです。




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新語・流行語大賞は「ONE TEAM」ですか。使わないし、使うのは上司が鼓舞する時だけって話もありますが(笑)。

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