
街のあちこちにイルミネーションや飾りが取り付けられ、華やいだ雰囲気に包まれます。クリスマスを控えたこの時期の毎年恒例の光景です。キリスト教の国以外でも、宗教的に寛容だったり似た行事があったりするので、日本も含め、ほとんどの国で祝われます。この時期、世界的に見られる景色と言ってもいいかも知れません。
クリスマスツリーが設置されたり、看板やモニュメントが設置されたり、建物が飾り付けられたりするわけですが、街によっては意外な場所に、飾りが取り付けられています。道路に設置されているボラード(bollard)に飾り付けがなされ、一部SNSなどで話題になっています。
ボラードとは、道路や広場などにクルマの進入を防ぐ目的で設置される、地面から突き出した「杭」のことです。何と呼ぶかは別として、日本でも普通に見かけるでしょう。この道路上のボラードに、クリスマス風の飾り付けが取り付けられているのです。


商店街の前にあるからではありません。特に、周囲に何もない路上の、何の変哲もないボラードです。この時期ですから、飾りが余ったとか、クリスマス気分に触発された部分はあるかも知れませんが、あえて、道路上の杭に取り付けられているのです。
飾り付けられたボラードは、車道上に設置された、自転車レーンとクルマの車線を隔てるためのボラードです。つまり、車道と自転車レーンの境界が見えにくくなっているため、目立たせるために取り付けられたものと思われます。交通安全のため、ドライバーに対する注意喚起の意図があるのでしょう。
これを写真に撮ってSNSに上げたのは、通りがかりのサイクリストが多いようです。ボラードが目立ちにくくなっている場所であったり、危険に感じられる場所なため、その意図をすぐに理解し、共感したのでしょう。朝、見かけてホッコリした、素晴らしくいい気分になった、などとコメントしている人もいます。


Twitterなどでは、“
#festivebikelane”というハッシュタグがついていたりします。この飾り付けを見て共感した人が、他の場所、他の都市でも取り付けたのかも知れません。誰が最初かわかりません。特に説明されているわけでもありません。その意図を理解・共感し、取り付けが広がったものと思われます。
近年、欧米の都市では自転車の活用が進められ、自転車レーンの整備が進みました。ただ、単なる自転車レーンでは、すぐ脇をすり抜けるクルマとの相対速度が大きく、危険を感じたり、意図的かどうかは別として幅寄せされたり、クルマと接触して事故になることが懸念されます。
自転車レーンの安全性ということが意識され、クルマと物理的にセパレートする必要性を指摘する声も増えました。その一つの方法として、クルマの車線と自転車レーンの境に、ボラードが立てられました。比較的コストの安い、オーソドックスな方法と言えるでしょう。


しかし、そのせっかくのボラードも、経年劣化や、排気ガスなどによって色がくすみ、見えにくくなったものも少なくありません。路上のボラードの多くは、柔らかいプラスチック製だったり、踏まれると倒れるようになっています。クルマが誤って踏んでも、事故になったりしないようにするためです。
わざとかどうかは別として、クルマに踏まれて根元しか残っていないものもあります。自転車レーンとの境を示しているのは明らかですが、それを無視して走行したり、自転車レーンの中に無理やり駐車したり、中には自転車レーンの中を走行するクルマまでいます。
せっかくボラードが設置されても、それが有効に機能しているとは限らないわけです。目立ちにくくなったボラードを目立たせるだけでなく、クルマのドライバーに、プロテクトされた自転車レーンを尊重するように啓発する意図もあるのでしょう。



←パトカー

ワシントンDCには、ほうきを使ったキャラクターと共に、プロテクトされた自転車レーンを尊重しろと、メッセージが書かれたものも登場しました。一部は、サイクリストに向けての危険回避、注意喚起もあるかも知れませんが、多くはドライバーに向け、メッセージを込めた飾り付けと言えそうです。
アメリカなどでは、州によって交通法規や交通政策に違いがあります。さらに場所ごとに道路幅だったり、周囲の条件などによって、さまざまな形の自転車レーンが存在するのは、ある程度仕方ありません。例えば、バス停やパーキングエリアを、自転車レーンと車道の間に置く場所もあります。
同じ国、同じ州内でも自転車レーンのデザインや仕様がバラバラで、ドライバーから、その存在がわかりにくい場合もあるようです。自治体によって、予算が違うのも理由でしょうが、ボラードが目立たなかったり、破損していても放置されていたり、意味がなくなっているものもあります。



ボラードの飾り付けは、こうした地元の交通当局に対する抗議、あるいは当てつけがあるのかも知れません。問題なく目立っていれば、個人がわざわざ飾り付けをする必要はありません。せっかくのプロテクトされた自転車レーンが、必ずしも機能していないことを端的に表しています。
日本では自転車レーン、ましてや物理的にセパレートされた自転車レーンの設置は、なかなか進んでいません。一部で、立派な自転車レーンも設置され始めているようですが、まだまだごく僅かな距離に過ぎません。しかし、今後は増やしていくべきですし、そうなってほしいと思います。

これから、欧米を追いかける視点で先進例を見ると、避けるべき点も見えてきます。今後整備を進める上で、利用者やクルマのドライバーに広く認知されるためにも、共通のデザイン、仕様にすると共に、目立たなくなって、安全性が損なわれないよう工夫する必要があるでしょう。
現状では、色を塗っただけの自転車レーンにしても、場所によって色が違ったり、マークが別々だったり、形状もパラパラです。自転車利用者でもわかりにくかったりします。せっかく整備するなら、その有効性を高めるためにも、今のうちに共通のデザインや仕様を決めておくべきではないでしょうか。
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昨日はラグビー日本代表のパレードが行われました。笑わない男もいれば、すぐ泣く男もいるのが面白いです。
Posted by cycleroad at 13:00│
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