街を歩けば、みな小ぎれいな格好をしていますし、昔からお風呂好きの民族と言われます。まめに家の掃除や洗濯をするのは当たり前ですし、子供の頃から教室を自分たちで掃除してきました。訪日した外国人は、道路や街の清掃が行き届いていてキレイだと口を揃えます。
道路を走っているクルマも諸外国と比べてキレイだと言われています。洗車好きの人が多く、その頻度も高いため、コイン洗車場などの商売も成り立ちます。日本人が全般的に言って、キレイ好きなことに異論はないでしょう。しかし、それなのに何故、自転車だけはあまり洗わないのだろうと感じた人がいます。
福井響さんという日本人です。ヨーロッパのロードレースチームで、専属のメカニックとして働いてきた人です。プロがロードバイクを整備する時、まず洗車が全ての作業の始まりであり、それなくして整備は始まりません。つまり、自転車の洗車のプロでもあるわけです。
クルマ用の洗車場は珍しくありませんし、ガソリンスタンドには自動洗車機があったりします。手洗いで洗車をしてくれるサービスもあります。でも、自転車用の洗車場というのは見たことがありません。需要がないからか、自転車洗車サービスの店もありません。
そこで、福井さんは、ありそうでなかった自転車の洗車専門店「
ラバッジョ」という事業を立ち上げることにしました。「
ラバッジョ」はイタリア語で洗車場という意味です。なるほど、言われてみればその通りで、なかなかユニークな目の付け所です。
趣味のサイクリストであれば、自分で洗車もするでしょう。しかし、集合住宅など環境によっては、洗車する場所に困ることもありそうです。パーツを外したり、その後のメンテナンスなどで時間もかかります。面倒くさいので、雑巾で拭いて済ますことが多いという人もあるに違いありません。
乗るのは好きでも、洗車は面倒で嫌いという人は少なくないと思います。泥やホコリならともかく、油汚れが落ちないとか、洗車のやり方、使うべきケミカル、必要な処置などがわからない初級者もいるはずです。洗車は億劫なので、頼めるものなら頼みたいという人もいるはずです。
福井さんは、趣味のサイクリストは誰でも、洗車して愛車がキレイになると、思わずニヤニヤしてしまうと指摘します。洗車の時間はサイクリストを笑顔にさせる魔法の時間だと言うのです。自転車は走って良し、眺めて良し、そして洗っても楽しいと語っています。
現在、日本のクラウドファンディングサイトである「
マクアケ」で、
開業に向けた資金調達をおこなっています。開始後、わずか49分で目標金額を達成するという上々の滑り出しです。まだ84日を残していますが、集まった金額は目標の3倍近く、多くの人から期待されていることがわかります。
このサービスがスタートしたら日常的、あるいは定期的に使いたいという人もあるでしょう。ただ、最初から全国展開というわけにはいきません。店を構えるには経費もかかりますし、従業員の手配も簡単ではないはずです。最初は、軽トラに資材を積んで各地へ赴き、出張サービスの形を予定しています。
各地のレースやサイクリング関連のイベントに出かけたり、自転車ショップや自転車好きが集うカフェなどに、「ラバッジョ」を随時設置する予定です。各地のショップに持ち込まれた自転車を回収し、洗車をして返却するというスタイルも考えているそうです。洗車以外にコーティングなどのサービスも展開します。
福井さんは、この事業で日本のアマチュアのサイクリストに、自転車の洗車という習慣、あるいは文化を根付かせたいと考えています。洗車サービスだけでなく、ユーザーが自ら洗車できる環境の整備、さらに、それを趣味のサイクリストだけでなく、ママチャリに乗る一般の人にまで広げたいと考えていると言います。
日本の自転車市場では、格安のママチャリが席捲しています。多くの人はほとんどメンテナンスをしませんし、最近は、ディスカウントストアや量販店に押され、自転車店が閉店して近くに無いとか、修理するほうが高いなどの理由で、全く手入れをせずに乗って、使い捨てのようにする人も少なくありません。
洗車どころか、注油すらしないため、やがて錆びて異音がして快適でなくなります。そうなった時点で駅前に放置して放棄、つまり捨てる人も多いと言います。放置自転車として撤去移送されても、取りに行かない人も多く、また格安のママチャリを買います。これが、駅前などの放置自転車が減らない理由ともなっています。
福井さんは、格安のママチャリだって、キレイにして整備して大切に扱えば、何年も乗り続けられると指摘しています。子供の頃に、みんな自転車の乗り方は習っても、自転車を大切にするという教育は受けていません。彼は、子供たちに自転車が好きになり、愛着を持ってもらうような教育も進めたいと考えています。
私も、このあたりの考え方には共感します。以前から繰り返し書いていますが、格安ママチャリの使い捨て文化が、放置自転車の問題だけでなく、自転車そのもののイメージを損なっています。街角の自転車が街の景観を壊すと白眼視したり、「市民は自転車ではなく歩きましょう」と呼びかける自治体まであります。
使い捨てにするような格安ママチャリでは、自転車本来の楽しさやポテンシャルにも気づけないでしょう。ママチャリそのものの特性もあり、重くてスピードが出ない一方で、足つき性はいいため、歩道走行のための乗り物となっています。この日本独特の歩道走行が、歩行者を危険にし、傍若無人な走行につながっています。
自転車を使い捨てにするのではなく、愛着を持って大切に扱うことを考えるようになれば、品質の高い自転車や、スポーツバイクを買って、長く乗ろうと考える人も増えるに違いありません。自転車本来のポテンシャルを知り、車道走行が当たり前となり、歩道走行の混沌状態が是正され、自転車の社会的な有効活用も進むでしょう。
少なくとも都市部では、クルマ利用を抑制して自転車を使うことで、渋滞を緩和したり、温暖化ガス削減につながります。自転車を使い捨てにしないことは、省エネ・省資源にもなります。自転車を大切に扱うという教育、そして文化は、いろいろな面で良い方向への波及が期待できると思います。
この「ラバッジョ」の事業が、果たして定着していくのかどうかはわかりません。一定のニーズはあると思いますが、それがサービスとして消費者の元に届き、事業として回っていくには、いろいろな課題もあるでしょう。サイクリストはともかく、一般の人にまで広がるかも未知数です。
今、自転車用洗車場や洗車サービスが無いのは、需要がない、自転車を洗おうなんて考えない人が多いということでしょう。しかし、キレイ好きの日本人です。自転車をキレイにするという文化が根付く可能性はあると思います。事業のコンセプトにも共感します。是非がんばって欲しいと思います。
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中国武漢の原因不明の肺炎はタイでも確認、深センでは別のウィルスの疑いのある肺炎が発生、気になります。
Posted by cycleroad at 13:00│
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