言われてみれば、確かにそうだと思うことがあります。
指摘されるまで気がつかず、特に考えていないことは少なくありません。身近にある何かの製品について、今まで特に不満にも不便にも感じず使っていて、こういうものだ、これが普通と疑ってもいなかったのに、言われた途端、なるほどと気づくこともあるのではないでしょうか。
例えば掃除機、ごくありふれた身近な家電です。紙パックにゴミが溜まり、そのまま捨てるタイプのものが、かつては普通でした。そういうものだと思っていた人も多いと思います。ところが、イギリスの電気機器メーカー、ダイソンがサイクロン式の掃除機を出した途端、その不満な点に気づきました。
つまり、吸引した空気は紙パックを通るため、ゴミが溜まるにつれ、どうしても吸引力が落ちて行かざるを得ないという構造的な問題に気づいたわけです。サイクロン式なら吸引力が落ちないわけですが、言われてみて、確かにそうだと気づいた人は多かったことでしょう。
今では各社がラインナップしていますが、このサイクロン式掃除機を初めて開発・製造したことで、ダイソン社は一躍世界的に有名な企業となりました。今まで、とくに不満を感じていなかった掃除機の分野で革新を起こし、その後も扇風機やドライヤー、加湿器、空気清浄機など、新しい工夫をしたユニークな製品を出しています。
言ってみれば、革新を起こし、会社を飛躍ざせたのは、サイクロン式という一つのアイディアです。だからとは言いませんが、アイディアにこだわる会社なのでしょう。常識にとらわれない、他とは違う考え方、問題解決のアイデアを求めて“
JAMES DYSON AWARD”という賞を設立し、毎年作品を募集しています。
ジェームズダイソン財団が運営していますが、対象者はデザインやエンジニアリングを学ぶ学生や卒業後4年以内の若手エンジニアやデザイナーです。次世代を担うエンジニアの支援でもあります。優秀者には賞金に加え、国内外のメディアで紹介される機会の提供を通して、応募者のキャリア形成をサポートするとしています。
さて今回は、このアワードの多数応募されているエントリーの中から、最新の2019年の自転車に関連する作品を見てみたいと思います。学生や若手のアイディアですので、必ずしもピンとくるものばかりではありませんが、その中には、将来のヒット商品の卵が隠れているかも知れません。日本からの応募作品もあります。
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LUFT FORK”は、サイクリストが道路を走行中、ポットホール、すなわちアスファルト舗装の路面に出来た穴やくぼみにタイヤをとられて、前方に投げ出されるのを防ぐフォークです。世界初のインテリジェントバイクフォーク、自転車用安全装置の革命だとアピールしています。
フォーク内のひずみゲージで衝撃を検出し、フォークがポットホールによる衝撃を打ち消すように作動します。舗装道路のポットホールは、毎年死亡や多くの重傷事故の原因となっており、その対策が必要だと主張しています。このフォークは命を救う可能性があるというわけです。
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HOLM BIKES”は、天然の亜麻繊維とエポキシ樹脂の複合材を使って、ユーザーがフレームを自作できるシステムです。特別なツールやテクニックは不要で、テーブルの上のスペースだけで誰でも自作出来ます。当然ながら、自分の身体にあわせたカスタムサイズにすることが出来ます。
天然素材なので、エコでサスティナブル、その一方で道路からの振動の吸収に優れ、疲れにくいのも特徴です。もちろん、万人向けではありませんが、溶接などが必要ないため、フレームを自作してみたいという人には、格好の入り口となるはずだと主張しています。
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MULTI-GEAR”は、トップチューブを分割してモジュール化するというアイディアです。その日の行き先やニーズに合わせてモジュールを交換します。荷物や携行するバッグによって変えられます。トップチューブの強度が、やや落ちることになるので、ダウンチューブをダブルにしています。
モジュールは、前、中、後の3つのセクションに分割されます。荷物に合わせるだけでなく、いろいろなバリエーションが考えられるでしょう。その日の気分やスタイルによって決めてもいいですし、フレームのデザインを変えることで、毎日、違う気分で出かけることが可能になります。
“
EGG BICYCLE”は、乗り手の安全第一という発想で、これまでとは違う新世代の自転車だとしています。事故に遭遇した時の影響を軽減することを重要視した、新しいスタイルです。ライダーを囲う形になっているフレームは、まさに卵のカラのような役割、中身を保護するものです。
横方向から衝突されても、卵ごと回転する形になって、衝撃を和らげます。シートベルトがついているので、そのままの姿勢で転がります。タイヤはフレームに沿って位置しており、前後ではなく左右に大きな二輪となります。前後に転がることを防ぐ小さなタイヤもついています。
そのほか“
ELECTRIC CARGO TRIKE”は、フレームが傾斜するコンパクトな電動カーゴバイクです。“
RAF”は、日常生活のニーズを満たす新しいスマートバイクのプラットフォーム、“
NEW BMX CULTURE”は、BMXのデザインを改善した新しいタイプの自転車です。いろいろなアイディアが応募されています。
ちなみに、ここで取り上げたのは自転車に関連するものだけですが、全体は広い分野にわたっています。ジェームズ ダイソン アワード2019の国際最優秀賞は、“
MARINATEX”に決定しています。魚と藻の通常捨てる部分から出来ていて、分解して自然に還り、堆肥としても使える、使い捨てプラスチックフィルムの代替素材です。
ダイソン社のサイクロン式掃除機のような、言われてみれば、なるほどと思うようなアイディア、会社を飛躍させ、世界的に有名にするようなヒット商品は、そう簡単に生まれるものではないでしょう。ただ、一つの画期的な製品は、日の目をみない無数の挑戦、失敗があってこそ生まれるのも確かだと思います。
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マスク不足が続いています。月6億枚生産に増やしても、仮に5千万人が毎日使えば15億枚、追いつきません。やはり、咳が出ている人以外使わないようにし、それを皆で許容して需要を抑えるしかないのではないでしょうか。
Posted by cycleroad at 13:00│
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