欧米の大都市ではロックダウンが行われ、人通りが途絶えました。日本ではゴールデンウイークだと言うのに、繁華街も行楽地も閑散とし、空港には駐機したままの飛行機であふれ、乗車率がゼロ%の新幹線が走るなど、これまでなら考えられなかったような景色が広がっています。
欧米では感染のピークを過ぎつつあると見て、少しずつ経済活動の再開を模索する動きも出てきました。日本では、まだ緊急事態宣言の解除は見込めない情勢ですが、いずれ短期的には街に人々が戻り、少しずつ以前の景色を取り戻していくでしょう。
ただ、このコロナウイルスによるパンデミックが収束しても、以前のようには戻らず、違う光景になっていくものも出てくるでしょう。例えばテレワークが進み、通勤風景も変化する可能性がありそうです。ネット通販やオンラインでの消費が進んだことで、リアルの店舗への人の流れが変わっていくかも知れません。
日本では、学校を9月入学、新学期に移行させようという議論が巻き起こっています。この変更は、平時に行えば大変な混乱が見込まれますが、今はすでに混乱しており、導入のチャンスだという見方があります。考え方は以前からあったものの、なかなか進まなかったのが、一気に変わる可能性があります。
まだどうなるかわかりませんが、もし、そうなれば、各方面に影響が及ぶことになるでしょう。卒業式や入学式は桜と無縁となり、受験が大雪やインフルエンザの心配と無関係になるだけではありません。就職活動から高校野球まで、これまでとは違った光景が繰り広げられることになりそうです。
世界に目を向ければ、道路上の景色も変わる可能性があります。2012年のロンドン五輪の際は、イギリスでは開催に向けて、渋滞対策として自転車の活用が大々的に進められました。渋滞だけでなく、老朽化して輸送能力の低い地下鉄の混雑を避けるためです。
その前にロンドンで起きた、地下鉄やバスを狙った同時爆破テロの影響もありますが、多くの市民が五輪開催中は自転車に乗りました。そして、終了した後も、多くの市民が自転車に乗り続けました。自転車の利便性や快適さに目覚め、元の移動手段に戻らない選択をした人も多かったのです。
似たようなことが、世界の都市で起きる可能性があります。このコロナ禍で、多くの都市で人々は公共交通機関の密集のリスクを避け、また運動不足を解消するため、自転車に乗り始めています。自転車の交通量や、シェア自転車の利用率などが跳ね上がっている都市も少なくありません。
こうしたニーズを受け、自治体の中には、クルマの通行が減っていることもあって、クルマを通行止めにして、通りを自転車用にしているところも出ています。コーンを置くなどして、車道上に臨時の自転車レーンを設置したり、自転車レーンの幅を拡大したりしています。
この機会を利用して、新たな自転車レーンの設置を進める都市も出てきています。新たに計画したり、計画を大きく前倒しをして自転車レーンの整備を進めているという話は、
少し前にも書きました 。市民は、突然、自転車レーンが誕生する光景を目にしています。
欧米では、温暖化対策や都市の渋滞、大気汚染と市民の健康など、さまざまな観点からクルマの都市部への乗り入れを抑制しようとしてきました。こうした動きが、このコロナ禍を利用して、一部で加速している面があるわけです。インフラの充実も手伝って、コロナの終息後も自転車に乗り続ける人が増える可能性があります。
さらに、このほど自転車インフラの整備を促す発表がなされました。これまで、自転車レーンは上述の問題の解決のため、あるいは交通安全や事故死者を減少させるため、必要な対策として整備するというスタンスでした。沿道の商店主などの利害関係者の反対もありながら、計画が進められてきたケースも多いはずです。
今回、アメリカ・
ポートランド州立大学の研究者による報告 は、また違う観点から、自転車インフラの設置を促すかも知れません。この調査・研究によれば、自転車レーンが地元の商店主、地元企業に経済的なメリットをもたらすことが判明したと発表しているのです。
これまで、自転車レーンが出来るとクルマの通行が抑制されたり、駐車しにくくなるなど、お客を減らし、売り上げの減少をもたらすと一般的には思われてきました。しかし、この「
街路改善の経済的影響に関する全国調査 」によれば、むしろ
地域のビジネスを振興していると結論 づけられました。
とくにフードビジネスでは、売り上げや雇用が大幅に増加したと言います。外食産業ほどではないものの、小売りなどのセクターでも利益は増えています。つまり、自転車レーンは問題の解決や交通安全のために、仕方なく設置するものではなく、ビジネスの振興のための投資となるというのです。
自転車専用レーンを設置するため、駐車スポットを除去すると、沿道や近隣の商店や企業に害が及ぶという、これまで一般的だった考えを、完全に否定する結果が出た、としています。クルマ社会であるアメリカでさえ、都市部では、クルマで来にくくなり売り上げが落ちるというのは思い込みだったというわけです。
詳しい
調査結果は、リンク先の資料 を見ていただくとして、自転車インフラの整備を後押しする調査結果なのは間違いないでしょう。地元企業や商店主などにとって、むしろメリットが大きいことがわかれば、自転車レーンの整備を進める上で反対する勢力が減ることにもなるでしょう。
こうした世界各国で起きているトレンドが、日本にも及ぶかは不透明です。世界の都市で、自転車の走行空間が増えているのに対し、日本では自転車が歩道を走っています。ただ、欧米では、今後も自転車に乗り続ける人が増え、道路の形状も変わっていく可能性があるでしょう。
もちろん、自転車レーンの整備など、全体から見れば小さなことに過ぎません。このコロナは、もっと大きな部分で、世界を変えていくに違いありません。このコロナウイルスは、今世紀に入って流行した、SARS、新型インフルエンザ、MERSなどの感染症とは明らかに違います。
2009年の新型インフルエンザもパンデミック宣言がなされましたが、結果として被害は小さくて済みました。今回の、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)は、その地理的な広がりも、感染者数、死者数、そして経済的な影響も桁違いです。日々のニュースで見る世界の状況を見ても明らかです。
今回の新型コロナと人類の闘いを、“World War C”と呼び、2つの世界大戦と並べる人もいます。“BC”“AC”すなわち「Before Corona(コロナ以前)」と「After Corona(コロナ後)」と分けて、紀元になぞらえる人もいます。コロナ後は、全く違う世界になると指摘する有識者も少なくありません。
まだ見通せませんが、経済に与える影響も甚大なものとなるでしょう。100年に一度と言われたリーマンショックどころか、世界大恐慌以来の深刻な景気後退に陥ると見る専門家も多くなっています。中小はもちろん、大手でも破綻する企業が出るでしょうし、アメリカでは既に失業申請が記録的なペースで増えています。
政治的にも、一部の国では民主主義体制が崩れ、権威主義的な体制が現れています。全体主義の国が影響力を強めつつあります。グローバル化は後退し、保護主義やブロック経済化が進み、格差は拡大、ポピュリズムが台頭し、世界の分断、国際的な政治や経済の転換点となる可能性は高まりつつあります。
歴史的にみても、パンデミックは世界を変えてきました。14世紀にヨーロッパで大流行したペストは、大きな被害をもたらしただけでなく、カトリック教会の権威が地に落ち、封建社会は崩壊し、中世という時代を終わらせたと言われています。まさに時代を大きく転換させるきっかけになりました。
1918年のスペイン風邪は、第一次世界大戦の最中だったため、正確にはわかりませんが、世界で5千万人とも1億人とも言われる死者を出しました。これが遠因となって、ヒトラーの台頭を生み、第二次世界大戦を引き起こしたとも言われています。
このコロナウイルスが世界をどう変えていくかはわかりません。ただ、世界が元通りにならないことは確かなようです。コロナによって人々が分断され、世界的に政治や経済が変わり、そのことが中長期的には、大きく世界を変えていくことになるのでしょう。
この人類の危機に世界が協調して対処し、政治や経済的困難を克服し、乗り越えていくことを望みます。街に人々が戻り、社会的な動物である人間の本分を取り戻し、人々がつながれる社会が戻ってきてほしいと願います。そして、願わくば街も、自転車で走りやすく変わっていってほしいものです。
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営業を続ける飲食店を罵倒する張り紙をしたり、県外ナンバーのクルマに嫌がらせをするなど、過敏で過激な行動をする人が増えているようです。人々を分断させる、コロナのまた違う側面と言えるでしょう。これは自らの過剰な防衛本能や恐怖がさせていると気づく必要があるでしょう。日本赤十字社も、↓下の動画で発信していますね。
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