May 10, 2020

コロナ後に元に戻らないもの

Denmark欧米では経済活動の再開に向けて動き始めています。


国による差はあるものの、感染拡大の勢いが衰え、新規感染者の数が減るなど、ピークを過ぎたと判断する国が増えています。少しずつロックダウンの解除に向け、規制を緩め始めるところが出てきました。長期に規制を続ければ、経済に大きな影響が出るのは必至であり、ジレンマを抱えながらの判断ということでしょう。

コロナ後を見据えた動きも出ていますが、このコロナが収束したとしても、生活や社会活動などの広い分野で、完全に元に戻ることはないと見られています。少なくともワクチンが行き渡るまでは感染を警戒しての行動は続くでしょうし、パンデミックが変えたものの中で、不可逆的なものも出てくるに違いありません。

それはテレワークや消費行動の変容など多岐にわたると思いますが、自転車の活用もその一つになるかも知れません。このパンデミック中に、通勤や移動の手段や、運動不足を解消する手段として、自転車に乗る人が急増したことが、世界中で報じられています。

coronavirusCoronavirus

例えば、アメリカ・アーカンソー州リトルロックでは、トイレットペーパーだけでなく、自転車の売り切れが続出しました。クリスマス前の3ヶ月より先月のほうが売れた、これほど売れたのは見たことが無い、初めて買う人が多かったなどと地域の自転車店の声が伝えられています。

ネバダ州ラスベガスでは、自転車シェアの使用率が4月に倍増し、売り上げは3倍になりました。ノースカロライナ州のウィルミントンの自転車店では、3年分の注文が3週間に集中したと言います。国内で自転車を製造している大手企業4社は現時点で、注文に応えきれない状態になっています。

BaguioBike shops

オーストラリアのクイーンズランド州、ブリスベンでは、自転車の4月の交通量が、昨年の同じ時期と比べて、平日22%、週末は91%増加しました。自転車の購入は2ヶ月待ちといった状況になっていると言います。こうした世界各地からの報道は、枚挙にいとまがありません。

自転車に乗る人の急増を受け、各地でいろいろな取り組みも始まっています。イギリスのウェスト・ミッドランズ州のコヴェントリー では、病院スタッフが通勤に使う自転車レーンが臨時に設置されましたが、ロックダウン中に各所に試験的な自転車ルートを設け、今後の整備に活かすことが提案されています。

Coronavirusinfrastructure

フランス政府は、国民にもっと自転車に乗ることを直接奨励するためとして、ロックダウン解除後に、1人あたり最大50ユーロの自転車の修理費を支給することを発表しています。さらに駐輪場の整備などサイクリングを拡大させるため、2千万ユーロの資金計画を発表しました。

パリでは、ロックダウン中に通勤用に緊急の自転車レーンが設置されましたが、他の少なくとも116の都市や町で、現在の封鎖期間と次の数か月の間に、一時的な自転車専用道路が建設される予定になっています。臨時、恒久含め、650キロに及ぶ自転車レーンが設置されます。

Post-LockdownFrance

また、パリの路上駐車スペースの72%を撤去する計画も進めています。フランス政府は、コロナ後を見据えて、クルマの都市部への乗り入れを抑制し、自転車に乗りやすくすることを強く打ち出しています。大気汚染や渋滞対策、温暖化ガス削減に資すると考えているためです。

イタリアは、北部を中心にコロナによって大きな打撃を受けましたが、全国的なロックダウンによって、交通渋滞は30〜75%減少し、それに伴って大気汚染も激減しました。住民は仕事に戻る際、公共交通機関を回避すると共に、クルマ利用の復活は防ぐことを望んでいます。

MilanLondon

そこでミラノでは、35キロにわたって道路を改造し、歩行者や自転車に乗りやすくすると発表しました。クルマ用のスペースを削減し、歩行者と自転車に再割り当てします。ロックダウン後に、再びクルマに戻らないようにする計画の一端です。ミラノでの市民の平均通勤距離は4キロ未満であることも背景にあります。

イギリスのボリスジョンソン首相は、各地の市長に、徒歩や自転車での通勤を奨励し、ロックダウンの部分的解除後に、再びクルマが増えないようにすることを明確に促しました。人々の多くは公共交通機関を敬遠し始めており、自転車を奨励して、環境・渋滞・大気汚染・肥満対策からもクルマの利用を抑制する方針です。

after lockdown lockdown

ロンドン交通局によれば、コロナ後に人々の移動需要が戻ってきたとき、コロナ前と比べて、歩行量が5倍、自転車の交通量は10倍になる可能性があるとしています。公共交通機関の混雑を減らすためにも、臨時と新設を合わせて、戦略的なサイクリングネットワークの迅速な構築を目指すべきと提言しています。

この6週間で、臨時の自転車レーンが設置されるなど、交通政策の大きな実験が行われた形です。各種の調査でも人々の意識が変わり、自転車は今後の標準的な選択肢になっていくと見られています。イギリスの運輸長官も、人々はクルマの使用を制限することを支持していると語っています。

post-lockdownpandemic

スコットランド政府も、道路に歩行者や自転車用スペースを確保するため、1千万ポンドの拠出を決めました。英国人の61%がロックダウン後に公共交通機関を利用することに神経質になっているとの調査もあります。現状でも自転車用の道路スペース需要は高まっており、予算が通りやすいのも確かでしょう。

マンチェスター市では、サイクリストと歩行者への支援として、500万ポンドの拠出を決めました。ロックダウンが始まって以降、自転車の交通量が22%増加しており、今後人々の移動行動は変化すると見ています。道路を一方通行にしたり、構築物を外すなどして、歩行者と自転車用スペースを拡幅し安全にする計画です。

after lockdowninfrastructure

ベルギーのブリュッセルも、ロックダウン後に交通渋滞に戻ることなく、市民を自転車に乗せたいと切望しています。規制解除までに市内の40キロのクルマの車線と駐車スペースを自転車レーンに改修することを決めました。自転車は単なる趣味ではなく移動手段だとし、公共交通機関からクルマへ向かわないよう国民に求めています。

ドイツのベルリンでは、パンデミックの最初の数週間に、自転車専用道路を拡大しています。スペインでも、また異常な大気汚染に戻るべきではないと、自転車の利用拡大、クルマの抑制を打ち出しています。ヨーロッパの多くの国で、自転車へのシフトが目指されているわけです。

LADOT COVID-19

アメリカ、カリフォルニア州ロサンジェルスでは、ダウンタウンの7番街の大部分を改修し、一時的にクルマから保護された自転車レーンを設置する計画を発表しました。その後に大規模な開発を行い、恒久的な保護された自転車レーンを設置し、パーキングメーターなどは撤去するとしています。

ワシントン州シアトルでは、ロックダウン中に設置された、“Stay Healthy Streets”と名付けた臨時の自転車レーンを恒久化すると表明しました。さらに、市民が長期的に安全で健康を増進できるよう、自転車インフラの整備を重視し、整備への投資を加速していくと明言しています。

LockdownStay Healthy Streets

フィリピン・ルソン島の中心都市バギオ市の議会は長年、自転車レーンの設置を拒否してきました。ところが、今回のコロナで、市民が移動手段として自転車を使うことを奨励する決議案を可決しました。公共交通機関を避け、感染拡大を防ぐためでもあるわけですが、今後は一転して自転車の活用拡大が期待されています。

タスマニアは、オーストラリア国内でも最低の自転車利用率を誇ります。これまでは自転車での移動に関心が持たれてきませんでした。ところが、このコロナ禍で、急速な変化が見られると言います。自転車に乗る人が増え、貧弱な自転車インフラに不満が高まり、議会にも大きな圧力がかかり始めています。

shutdownpandemic

こうした傾向は、フランス、イタリア、イギリス、スペイン、ベルギー、オーストリア、ドイツ、ハンガリー、フィンランド、アイルランド、リトアニア、トルコ、アメリカ、カナダ、メキシコ、ブラジル、チリ、コロンビア、アルゼンチン、エクアドル、ペルー、ニュージーランド、オーストラリア、フィリピンなど、世界各国に広がっています。

コロナウイルス感染拡大のニュースに隠れて目立ちませんが、世界中で自転車の利用が急増し、そのためのインフラ整備が進み、人々の意識も変化しています。人々の移動における自転車の意味合いが大きく変わりつつあります。少なくとも、これがコロナ後にすべて元に戻ることはなさそうです。











◇ ◇ ◇

加藤厚生労働大臣の『37・5度以上の発熱が4日』という相談基準は国民の誤解との発言に多くの人が怒っています。この基準を満たさずに保健所から検査を断られた人が大勢いて、中には急変して結果として死亡した人がいることも周知の事実です。厚労省はいわゆる無謬性にこだわり、その責任を認めたくないのでしょうが、この詭弁とも言える理由は酷すぎます。政治家としての加藤氏は率直に謝るべきで、国民が怒るのは当然でしょうね。

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この記事へのコメント
路面電車「ジャマだ」
Posted by # at May 11, 2020 08:43
cycleroadさん,こんばんは.

残念ながら,日本は関連企業と雇用の裾野も広範囲に及ぶ基幹産業の「自動車」を優遇する政策は改まりそうにありません.当方の周辺でも一時は交通量が減って,これで車道を自転車が走りやすくなると喜んだのも束の間,主要な道路はまた以前の混雑が戻りつつあるのが現状です.今回の貴記事に見られる諸外国のような自転車の機能を高める政策を採れば,自動車業界の不利益につながるとでも思っているのでしょうか.

「自動車」で経済成長は重要だと言っても,それが主にどこを走るのか考えて欲しいですね.車が多くて事故の危険があるからと,小中学校で自転車を禁止される地域が「住み良い」とは決して思いません.最近も自転車の中学生が車に刎ねられ死亡する悲惨な事故がありましたが,実に悲しい事です.
Posted by マイロネフ at May 12, 2020 21:50
 元凶は、自転車を歩道に上げたこと。
 これにより
 1:自動車は、車道上の自転車に気を付けず、むしろ、積極的に排除するようになった。
 2:自転車は、歩道上と同じ感覚で、車道上で交通法規を無視するようになった。
ことが事故多発の要因。
 このため、自転車事故の多くは、適切な間隔を取らないで追い越す自動車による接触と、一時停止などの安全確認を無視して行動する自転車に対応しきれなかった自動車が衝突するものとなっている。
 これらを正常化するには、まず、自転車が車両の仲間であるという教育が必要であるが、今上陛下より下の年齢の大人は、ほぼ初めから歩道通行であるので、自転車は歩行者という感覚しかない。
 確か、フランスだったと思うが、通貨を12進法(だったか?少なくとも10進法ではない複雑な方式)から10進法に変更する際、小中学生にまずしっかり教え、切り替え時、「わからなかったら子供に聞け・子供は知っている」という政策をとったという。この程度のことをしないと、なかなか変わることはないだろう。
 自転車が歩道を我が物顔に通る「野蛮な未開国」であることが、オリンピックで来日する真の先進国の方々に知られないようにしてほしいものである。
Posted by ひでさん at May 13, 2020 11:18
通勤にも使うとなると雨の日も乗ることが出てくると思いますが、何か良い雨よけ道具が出てこないですかね…
レインウェアは脱ぎ着やらが煩わしいし、屋根付は駐輪時に邪魔ですし…
Posted by いつも拝読してます at May 13, 2020 20:33
#さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
今までは、エコで排ガスを出さないということで路面電車は評価されてきましたが、これからは変わってくるかも知れませんね。
Posted by cycleroad at May 14, 2020 11:59
マイロネフさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
都市部では、クルマでの移動は合理的ではないという事実は、日本でも変わらないでしょう。日本では、自転車が有用な都市交通の手段として見られていないぶん、自転車レーンの整備という話にはつながっていませんが、人口が都市に集中するにつれ、長期的にはクルマでの移動の需要も減っていくのではないでしょうか。
若者のクルマ離れとか、カーシェアリング、サブスクリプションなども、それを表していると思います。
クルマが必要なくなるわけではありませんし、都市部以外ではニーズがありますし、輸出もあります。新興国ではこれから伸びる部分もあるでしょう。
クルマメーカーも国内の需要が頭打ちなのはわかっていますから、経済的な配慮があったとしても、日本でも少しずつ都市部の交通のスタイルは変わっていくのではないでしょうか。
Posted by cycleroad at May 14, 2020 12:10
ひでさんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私もこれまで、記事で再三にわたって書いていますが、自転車の歩道走行が全ての元凶だと思っています。
これによって、自転車のポテンシャルが理解されにくくなり、有用な都市交通の手段と捉える欧米とは違った、いびつな交通状況が生まれていると思います。
歩道を歩行者感覚で走行する自転車利用者がいる限り、交通ルールの混沌とした無法状態は正されることもないでしょう。
子どもには教育しているとは思いますが、大人が守っていないため、子どもも見習って無法状態になっています。大人も免許取得の際に習いますし、全く知らないわけではないでしょう。交通法規に関しては、その手法は上手くいかないような気がします。
簡単なことではありませんが、もし自転車レーンの整備が進むならば、それが規律を生む可能性はあるのではないかと思っています。少なくとも歩道走行が是正されるかも知れません。
ただ、オリンピックも自転車レーンの整備につながりませんでしたし、何がそれをもたらすかが問題ですね。
Posted by cycleroad at May 14, 2020 12:26
いつも拝読してますさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
雨の多い日本では、それが問題ですね。降ってもスコールのような雨の地域や、濡れてもすぐ乾く気候の地域と違って、日本の雨は厄介です。
濡れる事にそれほど頓着しない欧米人と違って、日本人は濡れるのを極端に嫌う国民性ということもあるかも知れません。
もちろん、現状ではベロモービルが普通に普及して、誰もが使うようにもならないでしょう。
現時点で、一番使いやすく、現実的なのは、ポンチョではないでしょうか。頭からかぶるだけですし。
雨が降りだすと、多くの人が当たり前のようにポンチョをかぶる国、地域もあります。日本でも、もっと普及してもいいような気がしますね。
Posted by cycleroad at May 14, 2020 12:37
 
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