June 06, 2020

事故の真相は伝わってこない

交通事故は毎日どこかで起きています。


減少傾向にはあるものの、それでも日本では年間43万件以上の事故が起きており(2018年)、そのうち自転車が関係する事故は8万6千件ほど、450名以上の自転車利用者が亡くなっています。ふだん、私たちは事故のことをさほど意識していませんが、確実に起きているのは間違いありません。

文字通り日常茶飯事であるため、特に大きく報道されることはありません。死亡事故でないと、ニュースにもならないでしょう。事故後、病院に運ばれ、何日も経ってから亡くなるような事例も多いはずですが、なにか特筆すべきことがない限り報じられず、私たちの目にとまらないことになります。

目撃者がいたりすれば、事故の概要が書かれることはありますが、多くの場合、事故の発生の場所、被害者の年代・性別が出るくらいで、さほど詳しい経緯が載ることもなく、原因が特定されるわけでもありません。道交法違反があると事故に直結するくらいの感想は持てたとしても、事故が教訓になるようなこともないでしょう。

しかし、誰かがうっかりルール違反をしてしまったとか、偶然、はずみで事故になってしまったというケースばかりとは限りません。なかには起こるべくして起きた事故もあるはずです。被害者が死亡してしまったり、警察もそれ以上解明せず、事故の本当の原因が明らかにならないケースもあるのではないでしょうか。

Ipley CrossIpley Cross

イギリス・ハンプシャーの郊外、ニューフォレストに、イプリーという交差点があります。どこにでもあるような田舎道の交差点で、何の変哲もない、目立たない場所です。しかし、5年間で3回、似たような事故が発生したため、なぜそこで同じような事故が繰り返されるのか、一部で関心が集まりました。

2本の道路が交差する場所で起きたクルマと自転車の事故ですが、3件とも被害者は自転車に乗っていた人です。そして、片方の道は一時停止、止まれの標識がありました。クルマが一時停止を怠ったため、3人は死傷しました。一義的には、クルマのドライバーの違反、過失であることは疑いようがありません。

しかし、似たような交差点はいくらでもあるのに、なぜここだけ事故が続けて起きるのか、不思議と言えば不思議です。なぜ、この交差点では、ドライバーが違反をするのでしょうか。いろいろ調査をした結果、この交差点には構造的な原因があることが判明しました。

一時停止を怠ったドライバーが悪いのは言うまでもありません。しかし、誰だって事故は起こしたくありません。必要であれば、一時停止や安全確認をするはずです。問題は、ほかの場所では必要に応じて一時停止するのに、なぜこの場所では一時停止を怠ってしまったのかという点です。

Ipley CrossIpley Cross

なかには無鉄砲だったり、無謀な運転をする人もいるでしょう。しかし、そういう人は早晩事故を起こすにしても、ここでだけ事故を起こす、違反をするというのは変です。つまり、ごく普通の人が、ここでだけ、ルール順守を怠ってしまうような原因があるはずです。

その理由は、あまりにも見通しが良く、交通量も少ないからです。交差する方向からクルマも何も来ないのに、わざわざ減速して停止する意味がないと思えてしまうのです。周囲に違反を検挙しようと待ち構えるパトカーが止まっていないことも明らかにわかります。

交通量の少ない田舎の交差点で、クルマも歩行者も自転車も通っておらず、誰も見ていません。そんな場所で危険も違反切符の可能性もないのに止まるのは無意味、バカバカしいと感じる人は一定程度いるはずです。明らかに停止する必要がないとみれば、わざわざ停止しなかい人もあるでしょう。

しかし、見通しがよく誰も通行していないという、一時停止を怠らせる要素はあったにせよ、それだけでは事故は起きません。なぜ自転車が来ているのに、気がつかなかったのか、そのまま止まらず交差点に進入してしまったのかという疑問が残ります。そこには、偶然の要素が絡んでいました。

コリジョンコース現象コリジョンコース現象

俗に、「コリジョンコース現象」と呼ばれる錯覚が起きてしまったのです。一つの交差点に向かって、図のように同じ速度で近づく2台のクルマがあったとします。下のクルマからは左前方45度の方向に相手のクルマが見えます。しかし、速度が一緒なため、この角度が維持され、変わりません。

すると、左前方45度の方向に止まっているように見えてしまうのです。中心視野にないばかりか、動いていないため、見落としてしまうこともあります。偶然このような状態になってしまったため、危険を認識できず、回避行動が遅れ、衝突してしまうのです。



これは、もともと船や航空機で起きる現象として注目されましたが、条件が揃えばクルマでも起きます。いや、むしろ地上でこそ数多く起きていると言います。これはクルマ同士でなく、相手が自転車でも起こりえます。自転車のほうが小さくて目立たないため、危険と言えるかも知れません。

ロードバイクなどであれば、クルマに匹敵するようなスピードも出ます。同じ速度で接近する状況が起きてもおかしくありません。これが郊外でなく、遠くから見通せなければ起きない事故です。見通しが良くて、自転車が来ていることに気づかなかったため、そのまま進んでしまったというわけです。

さらに、ピラーの陰に入ってしまうこともあるようです。ピラーとはクルマのボディーから天井に向けて立つ柱状の部分のことです。図のAピラーの方向に、ちょうど自転車が入ってしまい、見えないことも起こりえます。最近は、クルマの強度を上げる為、Aピラーが太かったり、斜めと縦と2本あるものも多いようです。

Photo by User:Stahlkocher,under the GNU Free License. Ipley Cross

しかし、まだ疑問が残ります。ドライバーのほうに一時停止義務があったにせよ、減速する様子もなく近づいてくるクルマがあれば、サイクリストは減速するなり、停止するなりして、衝突を回避できたはずです。なぜ、自転車のほうも、そのままのスピードで直進してしまったのでしょうか。

実は、この交差点、90度で直交しているのではなく、69度と多少鋭角だったのです。文字で説明するのは難しいので下の動画(1:50頃〜)を見ていただきたいのですが、鋭角だったため、サイクリストからは視野の外になってしまっていました。つまり、斜め後ろからクルマが接近してくるような形となるため、視野に入らなかったのです。

角度によっては、同じスピードでなくてもコリジョンコース現象は起こります。クルマと自転車の速度差が一定なら、角度によって、動いていない、あるいはピラーに隠れたままになる可能性があります。つまり、自転車がクルマと同じスピードを出していなくても起こる可能性は十分あるわけです。



コリジョンコース現象でもあったのですが、さらに後方から接近してくるような角度であったため、サイクリストもクルマの接近に気づかなかったわけです。もちろん、直角でも気づかないケースはありえますが、さらに気づきにくい角度だったことが災いしたのです。これが構造的な原因です。

サイクリストにしてみれば、見通しの良い交差点で、わざわざ左右を確認するまでもなく、クルマは来ていないと思っていたはずです。優先道路で止まる必要はないにしても、もし気づいていれば警戒したり、減速することも可能だったでしょうが、全く存在に気づかなかったわけです。

日本でも、例えば郊外の農道のような見通しのいい道路を走ることはあると思います。走りやすくてスピードも出せて、交通量も少なく、横切るクルマもないと見れば、いちいち左右に首を振って、クルマがいないか確認しないでしょう。首を振るまでもないからです。

Ipley CrossIpley Cross

Ipley CrossIpley Cross

これは、サイクリストにとって教訓を含んだ事例と言えるでしょう。日本でもコリジョンコース現象による事故は多数起きています。信号どころか、停止標識すらない場所も多いと思いますが、ふつうに郊外の農道のような道路をツーリングしていて、条件が揃ってしまえば、いつでも起きてしまいかねないのが怖いところです。

クルマが多かったり、歩行者が飛び出してくる街中と違って、郊外の道路だと油断しがちです。走行中は、中心視野しか注意していないことも多いはずです。これは、知っておいて損はありません。郊外の見通しの良い、交通量の少ない道路を走る時でも、あえて首を動かして、確実に左右を確認すべきなのでしょう。

ふだん、あまり意識していませんが、交通事故は、いつ自分の身に起きても不思議ではありません。交通ルールを守っていても事故は起きます。誰も事故を起こしたくて起こすわけではありません。ふだんは守っていても、ルールをスルーさせるような状況が起こり得ることにも留意したいものです。








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政府は新しい生活様式ということを盛んに言いますが、政府のやる事は相変わらず遅くて非効率、不透明な業者の選択や再委託、無駄に多すぎる事務費など疑惑も満載です。安倍政権こそ新しい行政様式にすべきですね。

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