イギリス政府は先週、自転車と徒歩による移動を促進する計画に総額20億ポンド、日本円にして約2770億円を投じることを明らかにしました。ボリス・ジョンソン首相は、この “cycling revolution (自転車革命)”は、サイクリングの黄金時代をもたらすだろうと話しています。
ジョンソン首相は、首相になっても自転車で通勤するほど自転車好きです。ロンドン市長時代には通称ボリスバイクと呼ばれるシェア自転車を推進したり、自転車レーンの整備を進めるなど、自転車政策に力を入れてきました。自転車がもたらす環境、渋滞、健康面などのメリットをよく理解しています。
今回のパンデミックで、イギリスでも自転車で移動する人が大幅に増えました。公共交通機関を使うことによる感染リスクを避けるためです。多くの人が自転車に乗り始めた結果、ロックダウン中、4月から6月までの間に、
自転車の売り上げが前年比63%も増加 したと報じられています。
この急増を受けて、あちこちに即席の自転車レーンが誕生しました。パンデミック中にクルマの通行量が激減したこともあって、一車線まるごとクルマ用から自転車用にした場所も少なくありません。さらに、そうした即席の自転車レーンを恒久化する動きも広がっています。
ヨーロッパ各国と同様に、イギリスでも都市部の渋滞や大気汚染、それによる健康被害が顕著でした。そこで、以前から都市部へのクルマの流入を抑制しようと、ロードプライシング政策などが行われてきました。ロックダウンを機に、道路の一部を自転車用に転換するのは、クルマの流入抑制でもあるわけです。
ジョンソン首相は、数千マイルというレベルで、縁石などで保護された、高規格の自転車レーンを建設すると表明 しています。通勤だけでなく、日常の移動へも拡大させるためです。わざわざ保護された自転車レーンとしているのは、自転車事故を増加させないよう、安全にも配慮しているからです。
コロナ対策という要素が追い風になっていますが、道路の改造はもっと先の将来を見据えた計画でもあります。ジョンソン首相は、この計画は単なるコロナ対策にとどまらず、私たちの都市に、根本的な変化をもたらすことを目的としているとし、次のように書いています。
「パンデミック中に、自転車に乗っている人も乗っていない人も、皆がきれいな空気を吸い、鳥のさえずりが聞こえる通りがあることを知りました。安全に歩くか自転車に乗る。私たちの家や学校の近くでも、通りを走るクルマが少なく、道路が安全なことに気づきました。」
つまり、ロックダウンで経験したように、クルマを制限し、もっとキレイな空気、安全に歩いたり自転車に乗ったりできる都市を目指すというのです。クルマは便利ですが、特に都市部では、本来優先されるべき人間、私たちの安全や健康、豊かな生活が阻害されてきたことを指摘しています。
イギリスでも、この計画は高く評価されています。最近でこそ、自転車の活用を推進することによるメリットを多くの人が理解するようになりましたが、少し前までは違いました。自転車インフラは貧弱でしたし、人々のマナーも悪く、事故も多発していました。これを根本的に変えようという意欲的な計画です。
自転車乗りとしては、これだけでも羨ましい限りですが、私が感心するのは、道路建設というハード面だけでなく、ソフト面も考慮していることです。本当の意味で市民に活用されるためには、単に自転車レーンを増やすという単純なものでは不十分だとわかっているのです。
イギリスの交通省(DfT)は、
Sustrans というNPOなどと連携し、
RCPT(Rapid Cycleway Prioritisation Tool) というプロジェクトを委託しました。Sustrans は、“National Cycle Network”と呼ばれる全国レベルのサイクリングルートの整備などを推進する団体です。
RCPTは、
リーズ大学交通研究所 の、
Robin Lovelace 博士とJoey Talbot 博士らのグループにによって作成された、
サイクリングルートを示すツール です。各種のデータを使って、人々が安全で快適に自転車に乗れるルートを調べることが出来ます。
例えば、最近多くの即席の自転車レーンが設置されました。しかし、それを全て把握するのは困難です。自分がいつも通るルートとは別に、もっと安全で快適なルートが出来ているかも知れません。今まで考えていなかった道路、危険だと避けていたルートが、大きく変わっていることもありえます。
自転車で走る場合、必ずしも最短距離がいいと考える人ばかりではないはずです。走りやすさや安全性が高ければ、多少遠回りでも、そちらを選ぶという人も多いでしょう。最短距離の大通りは混んでいて、かえって多少迂回するルートのほうが早く着いたりすることもあります。
もちろん、走りまわれば発見出来るとしても、通勤や通学などに使うルートは、なかなか変えない人も多いでしょう。自分がよく使うルートに危険や不満な部分があっても、わざわざ別の道を試したりしません。そんな人でも、より理想的なルートを発見できるツールなのです。 ( ↓ 動画参照。)
VIDEO
既存の自転車レーンに加え、新しく出来たトップランクの自転車道、臨時のレーンなど、種別もわかるようになっています。幅などのスペックを指定して表示させることも可能です。こうした便利なマップが、各地域ごとに整備され、どこでも知りたい場所を見ることが出来ます。
さらに、“
Widen My Path ”、“
StreetFocus ”、“
PCT.Bike ”といったサイトと連携し、自転車レーンが欲しい場所、もっとレーンを拡張してほしい場所など、地域ごとに市民の意見を広く募集しています。市民の要望やアイディアを聞くことで、よりよい自転車インフラ、より便利な道路網を整備しようとしているのです。
この道路は幅が広いから自転車レーンを設置出来る、この場所は整備しやすいから設置するといった、従来型の整備では、必ずしも有用な自転車インフラになるとは限りません。整備しにくい場所、思いがけない場所を整備することで、より走りやすい、便利で活用しやすい自転車道のネットワークが出来るでしょう。
せっかく整備しても意味がなかったりして、使われないインフラはイギリスに限らず多いに違いありません。利用者の声に即して、意味のある整備、使われるインフラを目指している点が評価出来ます。全て実現できるものではないとしても、その姿勢は好感が持てます。自転車インフラ整備はかくあるべきでしょう。
計画通り進んでいくかは、まだわかりません。しかし、イギリス政府が、おざなりの自転車インフラ整備ではなく、本当に都市を変えようと考えていることがうかがえます。一朝一夕に出来るものではないでしょうが、今後のイギリスの自転車インフラ整備の行方が注目されます。
◇ ◇ ◇
大阪府知事の発表で、ポピドンヨード入りのうがい薬が売り切れ続出のようです。感染者がウイルスを減らすのには有効でも、予防に有効なわけではなく、かえって問題もあるようなので、健康な人は冷静に行動すべきでしょう。
Posted by cycleroad at 13:00│
Comments(0)