September 13, 2020

もう少し充実させていい基盤

今アメリカで、あるネットワーク構想が進んでいます。


今どきならば、5Gの高速通信回線などのネットワークを想像する人が多いと思いますが、そちらの話ではありません。歩行者や自転車用のインフラを整備し、遊歩道や自転車道、緑道、トレイルコースなどの既存の道路を全米のネットワークとして接続しようという取り組みです。

自転車だけに限定するものではありませんが、歩行者や自転車用のインフラ、「グリーンウェイ」に投資する構想です。州や地域によっても、いろいろな道路、インフラがあると思いますが、要するに、クルマ用でない道路やインフラを整備し、それを接続してネットワークにしていこうというのです。

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ご存知の通りアメリカの国土は広く、国内でも航空機で移動するのは普通です。クルマを使う場合も、州間高速道路を使って移動しないと時間がかかって仕方ありません。そんな国で、主として自転車での移動を前提にした、非クルマ用道路のネットワークなんて、ナンセンスな気がする人は多いでしょう。

しかし、今回のコロナが状況を変えました。ロックダウン後に外出禁止が解除されると、ストレスをためた多くの人が、ジョギングやウォーキング、そして自転車に乗って外に出ました。各地のサイクリングロードや遊歩道は、そうした人々であふれました。

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運動不足を解消しようにも、トレーニングジムは感染拡大防止のため閉鎖されていたり、開いても敬遠するようになった人が多かったのでしょう。電車やバスなど公共交通機関での感染を懸念して、多くの人が自転車通勤・通学を始め、日常の移動や運動にも、自転車を使う人が増えたこともあります。

空前の自転車ブームとなり、街の自転車店の在庫が払底する事態となったことは、これまでにも取り上げました。ジョギングする人も含め、サイクリングロードやトレイルコースなどの利用者は急増し、各地で100%増とか200%増、つまり2倍とか3倍というような増え方になっています。

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コロナ感染症では免疫力が注目され、肥満が大きなリスクであることも指摘されました。肥満大国アメリカでは、これまでにも増して運動の必要性が高まったと言えるでしょう。もちろん、コロナも肥満も気にしない人が多い国ですが、感染予防や減量、運動による免疫力アップに励む人もまた多いのです。

インフラ投資としての経済効果の面も注目されます。仮に連邦政府レベルで100億ドルの投資が行われた場合、17万人の雇用を創出し、投資効果は10倍の1千億ドルと見込まれています。これは、高速道路の建設よりも5割高い投資収益率だと言われています。それだけコストパフォーマンスのよいインフラ整備だと言います。

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地域への経済波及効果は最大2千500億ドルとも計算されています。つまり、今回のコロナ禍で大打撃を受けた経済を立て直すためにも、大きな効果を発揮すると見込まれているのです。この投資のリターンの高さについては、各地の研究機関や調査会社からも報告されています。

グリーンウェイへの投資は、空気や水質の改善にも役立ちます。また移動や交通アクセスの改善にも寄与します。アメリカでも、都市によっては公共交通機関が発達していない一方で、貧困などの理由で居住人口の3分の1が自家用車を使えないと言います。こうした人々の便宜供与にもなります。

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今回のコロナのパンデミック、そしてロックダウンがなければ、なかなか注目されず、取り組みも進まなかったかも知れません。しかし、実際には多くの人が各地のグリーンウェイにあふれ、もっと、こうしたインフラを増やしてほしいと思っている人は多いでしょう。そのニーズは明らかです。

この構想を中心となって推進しているのは、“East Coast Greenway Alliance”という非営利の団体です。フロリダ州キーウェストから、メイン州キャレーのカナダ国境まで3千マイルを結ぶアメリカ東海岸のグリーンウェイを推進する団体です。これを全米に広げようというわけです。

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ちなみに、東海岸グリーンウェイは全体の約3分の1が完成しています。しかし、このコロナ禍を受け、人々が物理的な距離をとりながら、ウォーキングやランニング、サイクリングが出来て、クルマの進入できない道、人々が安全に楽しめる道が、もっと必要だと感じているのです。

この構想には全米160以上の組織が賛同し、連邦議会の議員に向けて請願を行っています。少なくない議員が注目しはじめています。環境問題に寄与し、経済効果も見込める点で、共和党、民主党ともに受け入れやすい構想、政策と言えると思います。

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100億ドルと言うと日本円で1兆円ですから、大きな金額に思えますが、アメリカでは現在、インフラへの投資、景気テコ入れのための公共投資に、1兆ドルとか2兆ドルという議論になっています。まだどうなるかわかりませんが、老朽化したインフラの更新は喫緊の課題でもあります。

そのうちの100分の1や200分の1というレベルと考えれば、決して大きい額ではなく、十分に現実的なインフラ投資と言えるでしょう。全米では今年、各種のグリーンウェイを利用する人が2倍にも増えています。必要性についても十分コンセンサスを得られるでしょう。



当然ながら、アメリカ全土を接続すると言っても、東海岸とは違い、中西部などの場合は都市間の距離が長くて現実的でない部分もあると思います。細かく網の目のようにつなぐのは無理としても、全米のグリーンウェイやトレイルコースをつなげていき、ネットワークにすることには意義があります。

もちろん、飛行機やクルマによる移動を代替するのが目的ではありません。しかし、都市と郊外、市街地と農村部をつなぐ道でもあり、双方のコミュニティに経済的利益をもたらす可能性があります。観光資源としての価値が高まり、観光客も引き寄せるかも知れません。

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これまで、道路交通インフラへの投資は、あまりにもクルマに偏っていたと関係者は考えています。グリーンウェイのネットワークは、その偏りを修正します。クルマ社会の運動不足から、人々の健康や体型を取り戻すだけでなく、環境負荷の軽減も含め、これまでにない社会への刺激になると考えているのです。

今回のコロナ禍は、空前の自転車ブームを呼び、街の自転車店の在庫を払底させました。バスや地下鉄でなく自転車で通勤・通学する人、ジムでなく屋外で運動不足を解消する人を急増させ、街には相次いで即席の自転車レーンを誕生させました。さらに全米の自転車道ネットワークまで作り上げることになる可能性があります。



アメリカでもテレワークが広がり、人々は移動せずに出来ることは多いと気づきました。しかし、一方で、身体を動かし、運動のために走ったり、自転車に乗ったりすることは増えました。そう考えると、高速道路などのクルマのインフラから、徒歩や自転車のインフラへ、少し投資をシフトさせるのは自然なことかも知れません。




◇ ◇ ◇

テニスの大坂なおみ選手が全米オープン2年ぶり2度目、グランドスラム通算3度目の優勝を飾りました。アスリートの政治的発言に対する批判もある中、マスクで人種差別への抗議を示し続けた勇気も素晴らしいと思います。

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