その一つが「臭い」です。コーヒーの香りとか季節の花の匂い、飲食店から漂ってくるいろいろな食材の香ばしい匂いだけではありません。不愉快なものもあります。例えば、クルマやトラック、バスなどの排気ガスの臭いです。特に渋滞している幹線道路などで感じることが多いでしょう。
ロンドン在住の、Kristen Tapping さんもそうでした。今は卒業しましたが、ロンドンサウスバンク大学への通学やロンドン市内を移動する時、特に渋滞の中を走る時にいつも感じていました。イギリスも含めたヨーロッパの都市の大気汚染の問題を意識する時でもあります。
大気汚染と言うと、日本人は中国やインドなどを思い浮かべますが、実はヨーロッパでも深刻な問題となっています。窒素酸化物などの有害物質もありますが、ディーゼル車が広く普及していることもあり、空気中の粒子状物質、PM2.5も問題となっています。
下は、少し前の記事ですが、大気汚染で年間50万人も早死にしていると報じられています。このPM2.5は、喘息や肺がんなど呼吸器系の疾患だけでなく、血液に入り込んで、心臓疾患などの循環器系の病気も引き起こし、多くの人の死因になっていると言います。無視できない問題です。
欧州、大気汚染で年間50万人以上が早死に EU報告書
欧州では、大気環境が「緩やかに」改善しているにもかかわらず、大気汚染が原因で早死にする死者の数が地域全体で毎年50万人以上に上っていることが、欧州連合(EU)の環境専門機関が11日に発表した報告書で明らかになった。
デンマーク・コペンハーゲン(Copenhagen)に本部を置く欧州環境庁(EEA)が発表したデータでは、主に新しい技術の成果によるものと考えられる明るい兆しが一部示されたものの、欧州では依然として、大気汚染が早死にの主要な環境的要因となっている。
EEAが最新の報告書で明らかにしたところによると、化石燃料の燃焼によって発生する大気汚染が欧州の41か国で引き起こした早死にの全死者数は、2013年は55万人、2014年は52万400人だったという。このうち、全死者の5人中4人(42万8000人)は、人体の肺や血管にまで入り込める直径2.5ミクロン未満の微粒子物質(PM2.5)と直接的に関連していた。
各監視測定局で収集されたデータによると、EUの都市部でPM2.5にさらされている人口の割合は、2013年は85%だったが、2015年には82%に減少していた。早死にと関連する大気汚染の発生源としては、PM2.5の他に自動車の排気ガスに起因する大気中の二酸化窒素と地表付近のオゾンが挙げられている。
EUの28加盟国に限ると、2014年に早死にした死者48万7600人の4人中3人以上に当たる39万9000人に微粒子が関与していた。
EUのカルメヌ・ベッラ(Karmenu Vella)環境・海洋・漁業担当委員は「欧州委員会(European Commission)はこの問題への対処に尽力するとともに、自国の国民がさらされる大気の質を最高水準にするための加盟諸国の取り組みを全力を挙げて支援する」と話している。(2017年10月12日 AFP)
ヨーロッパの都市で自転車に乗っている人は、移動しながらその汚染された大気を直接吸うことになります。これは、Tapping さんでなくても、その臭いを実感し、憂慮するでしょう。身近な脅威として意識しているサイクリストは少なくないに違いありません。
Kristen Tapping さんは大学で工業デザインを学びました。そこで、普段から感じていた大気汚染を改善する“
Rolloe ”を考案し、“Design Innovation in Plastics”というアワードに応募し、見事受賞しました。自転車のホイールに取り付け、空気を吸い込んでフィルターで濾過しようというものです。
これを、例えばシェア自転車などに装着すれば、人々が移動するたびに空気を浄化できます。現在のプロトタイプは前輪だけですが、後輪用も開発すれば、効果は2倍になります。ただ座視するのではなく、大気汚染と積極的に戦いたいと考えたのです。
この“Rolloe”、その心意気は買いたいと思います。賞に選んだ審査員にも、大気汚染に対する問題意識や、それを改善しようというコンセプトを高く評価したのでしょう。似たようなアイディアは過去にも見た覚えがありますが、少しずつでも減らしたいとの気持ちも理解できます。( ↓ 下の動画参照)
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クルマメーカーは、排気ガスをクリーンにする努力や、温暖化ガス対策とも相まってEVの開発を推進し、大気の汚染を減らそうとしています。しかし、現存するクルマの吐き出す排気ガスは解決しません。EVに入れ変わるのは相当な期間がかかるでしょう。それを待つのではなく、積極的に減らすことに意味があります。
しかし、個人的に思うのは、こうした装置をなぜ自転車に装着しなければならないのかということです。自転車よりもクルマのタイヤなり、車体なりに取り付けてもいいのではないでしょうか。排気ガスを浴びる被害者の自転車に取り付けさせるより、原因となるクルマのほうが取り付けるべきでしょう。
むしろ、なぜ今まで取り付けてこなかったのでしょうか。スペース的にこうした装置を取り付ける余地は大きいはずです。多少、空気抵抗は増えるかも知れませんが、エンジンのパワーがあるので、人力だけの自転車と違って、ペダルが重くなったりもしません。
私は自転車乗りですが、クルマも所有しており、運転もします。自転車では出来ない移動や運搬もあるからです。その意味で、必ずしもサイクリスト側から見るだけではなく、クルマのドライバーの立場も理解しているつもりです。しかし、客観的に見ても、クルマに取り付ける方が合理的ではないかと思うのです。
排気ガスで思い出されるのは、ドイツのフォルクスワーゲンの排出ガス規制不正問題です。不正なプログラムによって検査をすり抜けることで、実走行時の有害排出物が規制値を大幅に上回っていることが明らかになった事件です。すでに市場に出回っている台数が多いため、健康被害も甚大とされました。
アメリカの大気汚染法をクリアするため、ディーゼル車に不正なソフトウェアを搭載していたわけですが、ほぼ1年にわたり否定し続けましたが、当局の追及でようやく不正を認めました。きわめて悪質と言わざるを得ません。アメリカだけではなく、全世界で判明し、当該車種だけでも少なくとも1千1百万台に上ります。
特にこうしたメーカーには、罰金だけでなく、排出ガス浄化装置を義務付けてもいいのではないでしょうか。今後開発する車種について排気ガスをキレイにするだけでなく、今現存している車種が放出している排気ガスの分まで浄化させ、少しでも被害を軽減させる努力、罪滅ぼしがあってもいいはずです。
たしかに、クルマは裾野の広い産業であり、下請けや関連産業も含めれば、経済や雇用に大きな影響があります。政治的に難しい部分はあるのでしょうが、こうした不祥事を背景にすれば、世論の理解も得られやすいはずです。もちろん、全てのクルマメーカーに義務付けられれば、それに越したことはありません。
実は、Tapping さん、バスなどのタイヤに取り付ける同様の装置、“
INMO ”も考案しています。私も調べてわかったのですが、自転車に取り付ける“Rolloe”は話題になっても、クルマ向けの“INMO”は全くと言っていいほど話題になっていません。このあたりにも、一般の認識が反映しているように思います。
ヨーロッパでも、燃費がいいとされるディーゼル車優先の姿勢から大きく転換しました。クルマメーカーに対し、温暖化ガス問題や排気ガス対策として、電気で走るEVへのシフトを事実上促す規制を強めています。今後の開発の方向性は評価されるとしても、それが免罪符になっていないでしょうか。
新しく発売する車種に、“INMO”のようなホイールを取り付けるだけでなく、既存のクルマのホイールを、希望者にはメーカー負担で交換してもいいくらいです。交換したクルマがどれくらいの規模になるかによりますが、少なくとも空気の浄化に向けて前進することにはなります。
クルマを目の敵にしているわけではありません。いろいろな面でクルマが必要なのは厳然たる事実です。ただ、現存するクルマによる排気ガス汚染、その死者数を考えるならば、クルマメーカー自ら、現状の改善策を打ち出してほしいと思います。
◇ ◇ ◇
EUとイギリスのブレグジット交渉が難航しています。欧州では感染も再拡大していますし、ハードブレグジットになれば双方の経済に打撃となり、世界経済にも大きな影響が及ぶでしょう。妥結の道を見つけてほしいものです。
Posted by cycleroad at 13:00│
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