October 31, 2020

規制改革の方向性は正しいか

政府が規制改革を打ち出しています。


先日の菅首相の初めてとなる所信表明演説でも、『デジタル化をはじめ大胆な“規制改革“を実現し、...』『“規制改革“などの政策を総動員し、グリーン投資の更なる普及を...』『行政の縦割り、既得権益、そして、悪しき前例主義を打破し、“規制改革“を全力で進めます。』などと規制改革を前面に出しています。

規制改革ただ、規制改革は、そう簡単には進みません。規制当局にしてみれば、その改革が有効であると判断できなければ踏み切ることができません。一方の事業者にしてみれば、規制があるために実証実験ができず、有効性を示すデータが取得できない、というジレンマになりがちです。

そこで、このジレンマを解消し、規制改革を進めようという方法の一つが、「規制のサンドボックス制度」です。まずやってみて、実証した上で規制改革につなげようという考え方です。ちなみにサンドボックスは砂場のことです。子どもの砂遊びと一緒で、場所を区切って、その中で自由にやらせてみようという制度です。

さて、このサンドボックス制度を利用して、自転車の分野で規制改革を促そうとしている新興企業があります。和歌山に本拠を置く、glafit株式会社です。自転車と、電気だけで走行する電動バイクの双方の特徴を持つ同社のハイブリットバイクを普通自転車として扱えるようにするものです。以下にブレスリリースを引用します。


日本初!自転車と電動バイクの切り替えが認められる。サンドボックス制度を活用し、glafitバイクが名実共に「自転車×電動バイク」のハイブリッドバイクに。

〜新機構をつけたglafitバイクの電源をOFFにし、ナンバープレートを覆った時は道路交通法上、普通自転車として取扱いに〜glafit株式会社 2020年10月28日

glafit株式会社(グラフィット、本社:和歌山県和歌山市、代表取締役社長:鳴海禎造、以下当社)は、2019年10月17日に認定された新技術等実証制度※1(いわゆる規制のサンドボックス制度)を用いて、2019年11月から行ってきた実証実験※2を経て、原動機付自転車と自転車との切り替えを認められ「新機構をつけたglafitバイクの電源をOFFにし、ナンバープレートを覆った時は道路交通法上、普通自転車として取扱い」されることとなりましたので、お知らせいたします。

当社は、和歌山市と共同にてサンドボックス制度の申請を行い、和歌山市内にて2019年11月から2020年1月の3ヶ月間に渡り実証実験を行いました。glafitバイクGFR-01は、現行規制では原動機付自転車と区分される為※3、いかなる場合でも通行できるのは車道のみとなります。こうした状況について、ユーザーのニーズや安全面に関する意見を踏まえ、日々の近距離移動における社会課題、とりわけ都市部の渋滞問題や地方交通の問題、また昨今深刻になっている高齢者の免許返納後の移動課題も視野に入れ、公道にて通行区分の走行実証を行い、安全性などを実証して参りました。

新技術等実証の概要と参加者の意見
【サンドボックス実証の認定日】令和1年10月17日
【実証期間】令和1年11月6日〜令和2年1月31日
【参加人数】累計107名
【実証場所】和歌山市内の公道
【実証方法】参加者からアンケートを取得し利用者のニーズや意見の収集等を行う

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今回の実証実験の参加者の約80%が、ペダル走行時のglafitバイクを自転車相当として、自転車専用道や自転車通行可の歩道の走行等を認める、規制緩和をすべきという回答でした。その多くは、ペダル走行での遅いglafitバイクでの車道走行は、glafitバイクの運転者の身の危険、及び他の交通主体への迷惑をあげており、現状の車道走行には一定以上の速度で走行し、他の交通主体とある程度速度をあわせないとかえって危険であると考える人が多いと推測されます。また、自転車程度のスピードであるので、自転車と同等の規制にするのがよいという意見も一定数ありました。他方、規制緩和すべきでない理由には、歩行者の通行を優先させたいという思いが感じられます。

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詳細な報告はこちらをご覧ください。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/committee/dai17/siryou3-1.pdf

新機構の概要について
法規上の観点、取り締まりの観点等についての当局の懸念や考え方等を理解し、今回の実証で行った検証を含め、普通自転車と取り扱っていただくために必要な内容を提案し、現行法令の解釈として認めて頂けることとなりました。

■具体的機構内容

1. モーターが駆動しないことを電子的な制御のみではなく、電源をカットする機構により担保することとする。
2. 他の交通主体における識別可能性及び視認性(=自転車であるか原付であるか)を確保するため、1の時には、ナンバープレートにカバーをかけ、及び、交通標識デザインに沿ったピクトグラムで自転車であることを明確に示す。
3.ナンバープレートのカバーの切り替えは、電源を切った状態で、停車中にのみ可能なものとする。※ 自転車走行を装って電動駆動により走行することを防止するため、利用者においては容易に改造できないものとする。

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※機構については特許出願済み(特願2020-147073)

※この機構イメージは、機構の仕組をわかりやすくするために作成しており、今後の販売モデルのデザインとは全く異なります。

今後のスケジュールについて
2021年初夏を目途に機構単体の販売モデルの製品開発を進め、販売前に警察庁が改めて確認した上で、各都道府県警に対して通達を発出していただく形で運用が開始されます。

現在販売しているGFRモデルに後付けできるように機構単体の開発を進めるとともに、機構単体の完成後は、弊社が製造販売するハイブリッドバイク(ペダル付きの原動機付自転車)は、機構を付したモデルも製造していく予定です。
_____________________________

※1「新技術等実証制度」(いわゆる「規制のサンドボックス制度」)は、新しい技術やビジネスモデルを用いた事業活動を促進することを目的に、生産性向上特別措置法(2018年6月6日施行)に基づき創設されました。
本制度は、参加者や期間を限定すること等により、既存の規制の適用を受けることなく、新しい技術等の実証を行うことができる環境を整えることで、迅速な実証を可能とするとともに、実証で得られた情報・資料を活用できるようにして、規制改革を推進する制度です。
参考リンク
内閣官房 成長戦略会議事務局 規制のサンドボックス制度 政府一元的総合窓口
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/regulatorysandbox.html

※2 人力と電動モードを切替可能なハイブリッドバイクの自転車レーン走行実証について
参考リンク https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/project/gaiyou13.pdf

※3 「ペダル付きの原動機付自転車」の取扱いについて(平成17年3月 警察庁交通局)
参考リンク https://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku44/pedal.pdf

glafitについて

glafitは開発、製造、販売、カスタマーサービスまで一貫して手掛ける和歌山発のハードモビリティベンチャーです。移動をエンターテインメントに変え、人々の生活をより豊かにしてまいります。
そんな私たちのファーストプロダクト「GFR」は、自転車として歩道走行を、バイクとして公道走行を正式に認められた"ハイブリッドバイク"という新ジャンルを切り開きました。新しい市場のパイオニア、glafitの世界へようこそ。

https://glafit.com/products/GFR-01/

glafit株式会社の概要
所在地:和歌山県和歌山市出島36-1
代表者:代表取締役社長 鳴海 禎造
資本金:2.7億円(準備金含む)
社員数:16名(令和2年10月1日現在)
設立年月日:2017年9月1日
WEBサイト:https://glafit.com/

【本件に関する報道問い合わせ先】
glafit株式会社 広報担当:安藤
Email:pr@glafit.com


これまで、電動モーターだけで走行出来る電動バイク(e-bike)は、日本では原付バイクとして扱われ、ナンバーを取得し、ウィンカーなどを装備し、ヘルメット着用で運転免許が必要でした。当然ながら歩道走行は出来ません。電動バイクの電源を切って自転車として走行する場合、普通自転車として扱ってほしいという話です。

これが認められれば、自転車モードの時には歩道も走行できるようになります。原付モードでは車道を走り、使い分けが出来るようになるわけで、まさにハイブリッドバイクということになります。これをサンドボックス制度で実証実験し、道路交通法上の普通自転車として取扱われることが決まったという発表です。

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同社の要望はよく理解できます。電源を切って走るならば、普通の自転車と何ら変わらないわけで、原付として登録されていても、電源を切ったら自転車と扱うってほしいと言うのは妥当な要望でしょう。原付バイクとしても自転車としても、両方に使えれば便利ですし、電動バイクのニーズも増えると思われます。

実証実験として、のべ107名に公道走行してもらい、参加者からアンケートをとったようです。8割が規制緩和に賛成したとあります。晴れて認められたのに、文句をつけるわけではありませんが、参加して運転した人だけでなく、歩行者や、街の人がどう感じたかも知りたかった気がします。

賛成した理由が、この、glafitバイクでの車道走行は遅くて危険、クルマに迷惑だからといった利用者目線になっています。規制緩和反対の人の中には、歩道での歩行者の危険、迷惑を挙げている人もいますが、運転してみた人でなく、街の歩行者はどう感じたか、市民は支持するかが重要であり、その視点が抜けているのが残念です。

もう一つ感じたのは、果たしてどのくらいのニーズがあるのだろうかという点です。依然として、ナンバーが必要で原付としての要件は求められます。それならば原付として走りたいのが普通な気がしますし、わざわざ自転車として走れることを求めるだろうかという素朴な疑問が浮かびます。



おそらく、車道が危険な場所で自転車として歩道を走行したいということなのでしょう。そう感じる場所がどれほどあるかは人にもよると思いますが、そのように使いたい、つまりペダルをこぐことを厭わないのであれば、最初から電動アシスト自転車でいいような気がしないでもありません。あくまで個人的な感想です。

原付バイクと自転車モードとの切り替えで、ナンバーが隠れ、自転車か原付か、モードがわかるようになるようです。これが確認するための工夫なのはわかります。しかし心配なのは、原付モードだと周囲にわかっても、警官に見つからなければ、少しの距離ならと、そのまま歩道を走行するような輩が出てこないかという点です。

歩道走行時は、当然自転車モードで走るはずという前提に立っているようです。周囲から、それも後方からだけわかるようにすることで、歯止めをかけようという考え方です。つまり性善説です。運転中にモードは切り替わらない機構があっても、そもそも違反を承知で原付走行する行為は防げないでしょう。

現状で、普通自転車で、歩道上の歩行者の間を縫うようにしてスピードを出す人を見るのは、日常茶飯事です。その傍若無人さが顰蹙を買っているのは改めて指摘するまでもありません。歩道走行時は、きちんと自転車モードにするのが当然ですが、このマナーの悪い中、果たしてそれが守られるかという懸念です。

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自転車レーンの中で普通の自転車と混在しても、スピード差が大きくないぶん、それほど危険ではないと思います。でも、歩道走行は違います。原付として時速30キロ程度は出るようですから、もし出されたら歩行者にとっては脅威です。誰でも簡単に歩道で30キロ程度まで出せるのは危険ではないでしょうか。

いずれにせよ、日本的なモビリティなのは間違いないでしょう。法律や環境、慣習なども違うため、海外と単純には比較出来ませんが、自転車で歩道走行のニーズがあるのは日本だけです。原付バイクなのに、車道では危ないからと歩道を通りたがるのも日本人だけでしょう。

現状でも歩行者は、歩道では相対的な交通強者である自転車の脅威に直面しています。自転車利用者は、クルマの危険から逃れるために歩道走行します。そのことによって歩行者を危険にさらし、迷惑をかけているという自覚は乏しいしょう。下手をすると原付まで通るようになり、歩道上の危険に拍車がかからないか懸念されます。

日本でも昔は、自転車は車道を走行するものでした。それが戦後の高度経済成長期に交通事故が激増したため、緊急避難措置として歩道走行が認められました。一時的な措置と政府も説明していましたが、50年もそのままになっています。これは世界にも類を見ない自転車行政の失敗、非常識でしょう。

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それをようやく国土交通省も警察庁も認め、原則車道走行へと大きく舵を切りました。しかし、長年歩道走行で来てしまったため、車道には自転車走行空間が乏しく危険なため、すぐに歩道走行を禁止に出来ないのは仕方ないでしょう。歩道走行に慣れてしまっている人が多く、車道走行が危険に感じるのもよく理解できます。

しかし、この自転車の歩道走行によって、歩行者との事故も増えましたし、左折巻き込みなど、ドライバーの死角に入ってしまう事故にもつながっています。そして、人々は歩きの延長のような気分で歩道走行するため、左側走行などの基本的な交通ルールすら守られないカオス状態であり、それも危険と事故の原因になっています。

私は、海外でもあちこちで自転車に乗ったことがありますが、例えば車道を逆走するような自転車は見ません。もちろん違反が無いとは言いませんが、基本的な秩序が出来ており、あえて逆走するのは危険で合理的でないため、する人がいません。こうした秩序が日本に無いのが大きな問題です。車道走行が秩序をつくります。

私は、自転車の歩道走行こそ、自転車に関しての諸悪の根源だと思っています。遅々として進みませんが、政府は原則車道走行に転換すると宣言しました。つまり、自転車の車道走行に向かうべきであって、規制改革とは言え、自転車の歩道走行をますます助長する方向性については賛成しかねるというのが本音です。



目の付け所としては一理あると思います。しかし、どちらにも使えるというグッズは、往々にして中途半端になりがちです。原付バイクとしてはパワーがなくスピードが出ず、車道では危ない。一方自転車として歩道走行するには18キロもあって重くて不利ですし、原付モードで走行されれば危険は大きい点が気になります。

中には、こうしたハイブリッド自転車が欲しいという人もいるでしょう。例えば高齢者のアシとしてのニーズなども考えられます。個人的に思うのは、それならば、下手にハイブリッドにするのではなく、ペダルをこがないですむ電動バイク、高齢者が歩道走行するための電動バイクでもいいのではないでしょうか。

もちろん電動バイクは原付ですから、現状では認められません。そこで、出力を落とし、最高でも時速6キロ程度しか出ない電動バイクはどうでしょう。時速6キロ程度というのは徐行のスピードです。時速4キロ程度の歩行と比べて差が小さく、一般的なママチャリの時速15キロ程度と比べて危険は少なくなります。

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本来、普通の自転車であっても、歩道を走行する際は徐行が義務付けられています。実際には守っていない人が多いですが、歩道走行の要件として道交法で定められています。最高でも時速6キロ程度しか出ない電動バイクならば、かえって歩道での徐行を担保することになるでしょう。

歩きに毛の生えたような速度ですが、ペダルをこがずに歩道を通れます。高齢者で脚力が衰えた人のアシとして使え、周囲の歩行者にも危険や迷惑になりにくいでしょう。これを普通自転車として認めてもいいと思いますし、個人的には、このほうがいいのではないかと思います。

新しいモビリティを生み出そうという挑戦は評価します。もちろん、規制改革も必要です。ただ、その改革は広く共感され、支持されるべきでしょう。歩道での歩行者の危険を増やすことなく、現状のルール無視やマナーの悪い自転車利用者のカオス状態に拍車をかけない方向への改革が望まれます。




◇ ◇ ◇

トルコ沖でM7の地震が起きました。当たり前ですがコロナ禍でも容赦なし、避難の装備を考えておくべきですね。

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