コロナによる解雇が、足元では7万人を突破したと報じられています。これは氷山の一角であり、雇用調整助成金を受けつつ社内失業状態にある人や、そもそも30人未満の解雇は統計に含まれないこと、希望退職や無理な辞令で辞めさせられた人、フリーランスで仕事が無い人など、実態ははるかに悪いとの指摘もあります。
今回はコロナで突然需要が蒸発し業績が悪化したため、年初までは失業なんて思いもよらなかった人も多いはずです。すぐに新しい仕事が見つかればいいですが、コロナの行方が見えない中で、なかなか積極的な雇用に踏み切れない企業も多いでしょう。有効求人倍率も下落していますし、中小企業の倒産や廃業も増えています。
失業状態が続いて、家賃が払えなくなる人もいます。社宅や寮に入っていて、退去を求められる人もあるでしょう。職と住まいを同時に失って、なかにはホームレス状態に陥る人も出ています。今までは安定して仕事をしていた人が突然、考えてもみなかったホームレスになってしまうという事態です。

全国民一律給付の10万円の特別定額給付金も住民票がないと申請できず、ホームレス状態の人には届きません。もちろん、ほかにも行政による様々な形の支援があります。どうにもならなければ、生活保護という方法もあるわけですが、日本人は本当に困窮しているのに、生活保護を受けたがらない人が多いと言います。
厚生労働省の今年1月の調査によれば、路上や公園などで暮らすホームレス状態の人は全国で3992人だそうです。しかし、こうしたいわゆる路上生活者だけがホームレスではありません。友人などの家に居候したり、ネットカフェで寝起きする形のホームレス状態の人も多いと見られています。
今まで真面目に普通に働いていた人が突然、思いもよらず職を失い、一気にホームレス状態に陥ります。この社会情勢では再就職先を見つけるのも困難、ホームレス状態から抜け出せず、蓄えも減り、さらに困難な状態になるケースも珍しくないと言います。
さて、政府や自治体とは別に、そんな人たちを支援しようとする団体があります。
ビッグイシュー(The Big Issue)です。ご存知の方もあると思いますが、その名もビッグイシューという雑誌、一般的にはストリートペーパーと呼ばれる刊行物を売る仕事を提供する、いわゆる社会的企業です。
寄付やチャリティーなどによって救済するのではなく、ホームレス状態に陥ってしまった人に仕事を提供することで、自立を応援する事業です。1991年にイギリスで創業し、2003年には
日本支部も出来て活動しています。街頭で冊子を売っている人を見たことがあるかも知れません。
日本では1冊450円の「ビッグイシュー」を販売し、1冊につき230円が販売する人の収入となります。日本では雑誌の路上販売の文化がなく、若者は活字離れ、無料のフリーペーパーが多い、ホームレスの人からは買わないとの四重苦と言われた中で、昨年9月までに累計867万冊、13億2千万円の収入を提供しています。

ところが、
この事業にもコロナの影響が及んでいます。
3月から街に人がいなくなり、路上での
販売部数は激減しました。そこで
緊急の通信販売を呼びかけるなどして、販売者の収入を途絶えさせない工夫を模索しています。「
夜のパン屋さん」などの新しいプロジェクトも立ち上げています。
コロナに苦しんでいるのは本国の“
The Big Issue”も同じです。イギリスでは再び感染が拡大し、とくに若者の失業率が急激に悪化しており、政府も対策に追われています。春先から部数が激減しましたが、さらに今回2度目のロックダウンでは、一部で路上販売の停止が命じられるなど、厳しい状況です。
これまでにも、雑誌販売以外にさまざまな事業を手掛けていますが、このコロナ禍の苦境を乗り越えるため、失業者に対する遠隔による再教育の支援をはじめ、リユースショップ事業など、フリーペーパーの路上販売の仕事以外の手段を立ち上げています。

そして、このコロナに打ち克つ事業の一つとして開始するのが、“
The Big Issue eBikes scheme”です。ノルウェーの運営会社、
ShareBike 社と共同で展開する自転車シェア事業です。地域の失業者や困窮者を再訓練し、シェアバイク事業の従業員として生活賃金を支払い、技術の習得などの支援も行われます。
人々は、“The Big Issue”のシェアバイクを利用することで、環境負荷の小さい移動手段を使うという環境に良いことをするだけでなく、失業者や困窮者、ホームレス状態に陥った人々への支援にもなるという仕組みです。サブスクリプション方式の利用料に加え、広告収入などが支援に充てられます。

使われるのは全て電動アシスト自転車です。2021年初頭に、ビッグイシューの創設者の一人、John Bird 卿の故郷、ケンブリッジを皮切りに、全英に展開される計画です。もちろん、競合する事業者もあると思いますが、どうせならビッグイシューから、eBikeを借りようと思う人も少なくないはずです。
イギリスにおける、全てのクルマによる移動の62%は3マイル未満だと言います。電動アシスト自転車でも15分以内の距離です。地域に便利な交通手段を提供しつつ環境問題に貢献し、加えて雇用の創出、失業者のホームレス化の阻止をする、なかなか意義のある事業と言えるでしょう。

ちなみに、John Bird 卿は自身も熱心なサイクリストです。今年、イギリスでもコロナ禍で自転車が大きく見直され、乗る人が増えました。John Bird 卿が、コロナに対抗する手段としての自転車を、ビッグイシューにも活かそうと考えるのは自然な流れだったのでしょう。
John Bird 卿は、今でこそイギリスの上院にあたる貴族院の世襲議員であり、爵位を持つ名士ですが、スラム街の貧しい家庭に生まれ、5歳でホームレスとなり苦労を重ねてきた人です。ホームレスの厳しさがよくわかっているのは間違いありません。
そして、ホームレスの人が、決して怠けてその状態に陥ったわけではなく、何かのきっかけで誰もがなりうる境遇であり、決して他人事でないことをよくわかっています。この“The Big Issue”を創設したことで、大英帝国勲章も授与され、現在はリンカーン大学の客員教授も務めています。

日本の菅首相は、就任にあたり、「自助・共助・公助」ということを言いました。自助が必要なのは言うまでもありません。苦境に陥った場合には公助にあたる生活保護があります。雑誌の購入やシェア自転車の利用など、様々な形で支援する“The Big Issue”は、共助の一つの形と言えるでしょう。
誰もが自助に努めていますが、思いもよらず職や住居を失うこともあります。上にも書きましたが、そんな中で公助である生活保護に頼るまいと頑張る人も少なくありません。誰もが決して他人事ではないわけで、苦境に陥った人に対する「共助」ということを、よく考えてみるべきなのかも知れません。
◇ ◇ ◇
コロナの感染者は日本でも足元で急増に向かう動きを示しています。北海道は人口比だと東京の2倍の規模で、既に急増しています。最近みな少し緩んでいたのかも知れません。ここで何とか拡大を食い止めたいところです。
Posted by cycleroad at 13:00│
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