December 18, 2020

どんな自転車でどこを走るか

自転車の楽しみ方にはいろいろあります。


ロードバイクでツーリングとかヒルクライムを楽しむ人、マウンテンバイクでトレイルやダウンヒルを楽しむ人、クロスバイクでポタリングをする人もいます。ファットバイクで雪道を走行する人もあれば、輪行して遠くへ行くのが趣味の人、BMX、リカンベント、ミニベロなど、それぞれの楽しみ方があります。

中には、世界一周などの冒険旅行に出る人もいます。飛行機であっという間に移動できる時代に、あえて自分の足で地球を走破しようという人たちです。徒歩では日にちがかかり過ぎて現実的ではないですし、クルマやオートバイではなく自転車、自分の力だけというところに価値があります。

世界を走破すると言っても、当然ながら簡単なことではありません。舗装路ばかりではありませんし、アップダウンも半端な高低差ではないでしょう。治安の悪い国では文字通り命の危険がありますし、水や食料を手に入れるのが難しい場所もあります。テント泊、野宿など、快適な睡眠も望めません。

言葉が通じなかったり、友好的な人たちばかりと出会うとは限りません。銃を突きつけられて有り金を巻き上げられれば、続行どころか緊急帰国も困難になりかねません。都市部ならともかく、電波状況が良くなければ情報も途絶します。道なき道を行くこともあれば、道に迷う可能性もあります。

酷寒の山岳地帯や灼熱の砂漠もあるでしょう。荒天にさらされれば、凍死や熱中症による死亡だってあり得ます。マラリアなどの感染症にかかる危険は常にありますし、満足な医療が期待できるとは限りません。そもそも、国境を越えての自転車旅行には、相応の費用と自由に使える時間が必要です。

そんな困難な旅が出来る人、やろうと思う人は限られます。誰でも出来ることではありません。それでも挑戦するだけの魅力、やりがい、達成感、見ることの出来ない景色があるのでしょう。普通のサイクリストには、かなりハードルの高い冒険、チャレンジなのは間違いありません。

Photo by Agnieszka Kwiecień,under the GNU Free License.This image is in the public domain.

自転車で国境を越えて旅をする人の話は時々耳にします。でも、イギリスはロンドン在住の、Joff Summerfield さんは、単に世界中を自転車で走ろうというサイクリストではありません。なんと、ペニーファージングで世界中、3万8千マイルを走破している冒険家です。実に地球一周半を超える距離です。

ペニーファージングというのは、別名・ハイホイールバイク、19世紀に盛んに製作された初期の頃の自転車のことです。上の写真のような前輪がやたらに大きい自転車です。オーディナリーと呼ばれていたこともありますが、今の自転車とは、いろいろ違います。

Joff SummerfieldJoff Summerfield

Joff SummerfieldJoff Summerfield

チェーンやギヤはなく、ペダルは前輪に直接固定されています。ペダルの回転数と前輪の回転数は同じになり、当然変速は出来ません。この場合、タイヤが大きいほどスピードが出ることになります。スピードを出すため、前輪が限界まで大きくなったという歴史があります。

股下の長さが半径に近いサイズなので、当然ながら足を地面につくことは出来ません。乗る時は、後輪のほうから、バランスをとりながらフレームをよじ登るような感じで乗ります。降りる時も飛び降りるしかありません。ずいぶんと不便ですが、当時の技術では、これが一番スピードの出る形だったわけです。

Joff SummerfieldJoff Summerfield

Joff SummerfieldJoff Summerfield

どこかの博物館には、当時のものが残っているでしょうが、今は売られていません。つまり、自分でペニーファージングを製作するところから始めなければなりません。当時もそうですが、Summerfield さんが作ったペニーファージングも初号機は前輪が大きいぶん、かなり重くて扱いにくい車体だったようです。

彼の最初の職業はレースエンジンビルダーで、モータースポーツの最高峰、F1で働くエンジニアでした。ものづくりは得意で好きだったと言いますが、いろいろと試行錯誤も必要だったようです。タイヤはチューブが使われていないので、乗り心地は硬く、路面の凸凹を直接拾うので、決して快適とは言えません。

Joff SummerfieldJoff Summerfield

Joff SummerfieldJoff Summerfield

我々でも練習をすれば、よじ登って走り出すことは出来ると思いますが、これで長距離を走行するのは相当に困難です。上り坂では変速出来ないだけでなく、立ち漕ぎも出来ません。足の筋肉の力だけで上らなければなりません。傾斜がきつくて登れなければ、延々と押して上らなければならないでしょう。

乗っている時の姿勢も直立しているので、空気抵抗をまともに受けます。ただでさえスピードが出ないのに、これも苦しい一面です。少しでも空気抵抗を減らそうと、前傾姿勢をとりたくなりますが、それも出来ません。あまり前傾すると、バランス的に後輪が持ち上がり、前に倒れてしまうからです。

Joff SummerfieldJoff Summerfield

Joff SummerfieldJoff Summerfield

向かい風をまともに受けて辛いだけでなく、前輪が大きいぶん、横風の影響も受けやすいと言います。もちろん舗装されていない道路を走ることもあります。ただ乗るだけでも簡単ではないペニーファージングで、一度に数百キロから数万キロという旅に出て、世界中を走破したのです。

困難は、ペダリング効率や操作性が悪いだけではありません。問題は下り坂です。一応ブレーキはつけていますが、構造的に前輪です。下手に強くブレーキをかけようものなら、簡単に前方に投げ出されてしまいます。自由に減速できないことも走行を困難にします。

Joff SummerfieldJoff Summerfield

Joff SummerfieldJoff Summerfield

ピストバイクの固定ギヤとはわけが違います。ピストなら、ペダルを止めればチェーンを通して後輪が止まり、ブレーキになりますが、ペニーファージングは前輪です。しかも径が大きいので、下手にペダルを止めようとすれば、やはり前方に投げ出されることになります。

実際には、下り坂でペダルを止めるのは無理で、ペダルから足を外して前方に投げ出すような姿勢で乗るようです。なぜ前方かと言えば、バランスを崩すなどした場合に、前方へ飛び下りなければならないからです。文章で説明するとわかりにくいですが、下の動画を見れば理解できるでしょう。





急な坂でスピードが乗り、減速もままならないとなれば、相当に怖いと思います。カープが連続するような道では落車必至です。わざわざこんな難しい自転車で世界を走破しようというのですから、正直に言って普通ではありません。怖いもの知らず、いい意味でクレイジーと言っても過言ではないでしょう。

世界を旅すれば、快適な道ばかりではありません。普通の峠道でもたいへんだと思いますが、このペニーファージングで、ヒマラヤなども走破しています。当然のようにクラッシュもしています。手首やひじ、歯などを折って、手術も手首と肘、4回ずつしているそうです。



チベットでは冬の嵐に遭い、峠の途中で立ち往生しました。雨の中を歩き、偶然見つけた民家に住む家族に救われました。トルコへ向かう途中、摂氏40度の灼熱のシリアの砂漠では、飲料水が底をついてしまいました。幻覚を見るまでになり、生死の境をさまよいました。

数時間後、偶然通りがかった農民の灌漑用のタンクから水をもらって助かりましたが、それで今度は赤痢になり、ディヤルバクルで10日間も苦しまざるを得ませんでした。エクアドルでは強盗に遭って身ぐるみはがされ、銃で脅され、死を覚悟したと言います。これは冒険でも刺激的でもなく、本当に恐ろしい経験だったそうです。



ちなみに、ペニーファージングを自作して楽しむ人は世界中にいるそうです。でも、自宅の近辺で短い距離しか乗らない人が、おそらく大多数だと思います。ペニーファージング好きでも、長距離の旅をしようと考える人は多くないに違いありません。Summerfield さんのような冒険は誰でも出来るものではないでしょう。

1999年に製作を始め、今までに60台ものペニーファージングを作っています。ペダルとサドルは既成品ですが、後は一から自作です。好きとは言え、これだけでも簡単ではないでしょう。来年には、また新しい車体の製作に取り掛かる予定にしています。

Joff SummerfieldJoff Summerfield

Joff SummerfieldJoff Summerfield

彼のYouTube サイトにはたくさんの動画がアップされています。道中の笑顔も記録されていますが、そこには残されていない、残せない過酷な部分もあったのは間違いありません。2001年から走り始め、すでに世界31か国、地球を一周半しました。コロナ禍が治まったら、また旅に出る予定です。

世界には、すごいサイクリストがいるものです。あらためて趣味の自転車は幅が広く、奥が深いと感じます。自転車の楽しみ方は人それぞれですが、どうしても乗る自転車のタイプや走る場所、スタイルが決まってしまいがちです。必ずしも世界を走る必要はありませんが、いろいろチャレンジしてみてもいいかも知れません。




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国民に自制を呼びかけながら自分は芸能人ら8人と忘年会をしていた菅首相が批判されています。GOTO停止で現場は大混乱なのにニコニコ動画でヘラヘラ笑って顰蹙を買い、感染者も増える一方となれば、支持率急落も無理はありません。国民の反感を買い、選挙で戦えないとなれば、案外菅政権は短命に終わるのかも知れません。

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