感染予防の観点から、人と容易には会えなくなり、コミュニティや友人関係、家族を分断しました。世界中がこぞって国境を閉ざしたため、マスクなどの医療物資でも明らかになったように、国際的なサプライチェーンなど、ビジネスを分断する形になりました。
大統領選でも顕著だったように、アメリカでは元々、共和党支持者と民主党支持者の間の深刻な分断がありましたが、感染症対策やマスクの着用を巡って、さらに分断を広げました。コロナ禍によって職を失う弱い立場の人と、そうでない人との経済的格差、分断を広げたことも指摘されています。
日本でも、いわゆる自粛警察などが現れたり、医療関係者やその家族を差別するようなことも起きました。各地で感染した人を批難したり、嫌がらせをするような地域社会の分断も起きています。病院の中でも、コロナ部門と非コロナ部門の分断が起きているという話も聞きます。
いろいろなものを分断させたコロナですが、中には逆に統合を促したものもあります。それはアメリカの自転車道、“
Great American Rail-Trail”という自転車用のルートです。舗装された道路だけではなく、非舗装も多いので、トレイルルートと言うことになります。
元々あった145のトレイルコースを接続、統合して、12の州を貫く総延長約6000キロのルートを完成させようというプロジェクトです。東海岸のワシントンD.Cから西海岸のワシントン州までを結ぶ、文字通りアメリカ大陸を横断するルートになります。もちろ、クルマは通れません。
コロナによるパンデミック、ロックダウンの中で、アメリカでも多くの人が自転車に乗るようになりました。感染のリスクを避けるため公共交通機関を敬遠した通勤や近距離の移動、運動不足の解消などが理由です。これにより、安全で快適な自転車道の必要性が高まり、その有効性も改めて意識されました。
空前の自転車ブームとなり、街の自転車店の在庫が底をつく事態となったことは、これまでにも取り上げています。サイクリングロードやトレイルコースなどの利用者は急増し、各地で100%増とか200%増、つまり2倍とか3倍というような増え方になっています。
“
Great American Rail-Trail”のプロジェクト自体は、1980年代半ばから構想されており、今現在で52%、3200キロほどが接続されています。長い間続いてきたわけですが、今回のコロナで、その有効性、必要性が多くの自治体に意識されたことで、統合が進んでいると言うのです。
レールトレイルとあるように、基本的には鉄道の廃線跡をトレイルコースにしようというものです。アメリカと言うと、今でこそあまり鉄道のイメージはないかも知れませんが、その歴史はイギリスと並んで古く、1830年代には汽車が走っています。全盛期には総延長が40万キロにも達しました。
一時は米国内の旅客輸送の9割を占めましたが、その後クルマや飛行機の発達で衰退してしまいました。しかし、貨物輸送については、今も大きな役割を果たしており、その総延長は約22万キロあります。ただ、全盛時から比べると、かなりの距離が廃線になりました。
この廃線の一部を使って安全で、シームレスで風光明媚な小道をつくり、アメリカを横断出来るようにしようという壮大な計画なのです。鉄道が結んでいた要所を通り、魅力的なスポット、歴史的な名所、見どころもたくさん通ります。元々鉄道の線路なので、傾斜がきつくないのも利点でしょう。
ルートから80キロ以内には5千万人もの人が住んでいますし、アメリカの新しい観光ルート、アクティビティとして観光客の人気も集めるでしょう。沿線の小さな村や町にも大きな経済効果がもたらされます。コロナ禍からの経済の回復という点でも、多くの自治体が期待しています。
この州を越えたプロジェクトは、“
Rail-to-Trails Conservancy”という団体が主導しています。多くの自転車愛好家などにも支えられ、各自治体に働きかけています。沿道の町や村にとってだけではなく、魅力的な体験を提供する、アメリカにとっても貴重な宝物になると確信しています。
移動手段としてグリーンですし、人々を自転車による有酸素運動に誘う魅力的な目的となり、アメリカ人の肥満対策、人々の健康増進にも資するはずです。もちろん大陸横断だけが目的ではなく、地域の人々が自然に親しみサイクリングを楽しむクロスカントリーロードとして、身近な存在になるでしょう。
まだ2700キロ程度が未開通で、95以上の未接続部分がありますが、この建設、接続が加速されれば、数少ないコロナが分断ではなく統合を促した事例となります。廃線を再利用して観光資源に変える有益で効率の良い事業であり、コロナ後の地域のコミュニティの分断を癒し、人々をつなぐ道となることが期待されています。
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日本でも感染者数が急増、これまで欧米と比べて桁違いに少なかったのが、そうはいかなくなるのでしょうか。
Posted by cycleroad at 13:00│
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