自転車も機械ですから不具合が起きたり、劣化や故障することもあります。使っていく上で、どうしてもメンテナンスが必要になります。しかし、実際には適切なメンテナンスをしていない人は多いと思います。趣味のサイクリストならともかく、メンテナンスに必要な知識や技術も十分ではないでしょう。
実際に、街で走っている自転車を見ると、ギーギー異音をさせていたり、チェーンが錆びていたり、空気圧が足りないなど、明らかに整備不良の状態だったりします。それが普通だと思っていたり、壊れたら買いなおせばいいと考えている人も多いのでしょう。
クルマの場合は車検制度があって、定期的にディーラーや修理工場などで検査や必要なメンテナンスをしてもらうと思います。整備不良のままで運行されないようになっています。もし、こうした制度がなければ事故に直結しかねず、人の死傷にもつながりかねません。
自転車も人の命を乗せています。クルマほどは人を死傷させないとしても、突然の不具合などによってケガをする可能性はあります。整備不良が原因の事故が、まずニュースになることはありませんが、事故やトラブルは起きています。整備不良が事故の誘因にあっても、直接の原因に隠れて明らかにならないでしょう。
事故やケガだけではありません。メンテナンスはせず、錆びたり劣化したら駅前などに放置し、新しい自転車に買い替える、いわゆる使い捨てにする人も少なくありません。駅前などの放置自転車の一因となり、自治体が多額の税金を使って撤去移送することになります。資源の無駄遣いでもあります。
異音や振動があったり、スムーズにタイヤが回らない状態で乗っていれば、まず本人が快適でないのは明らかです。自転車に乗るのが楽しくなくなりますし、自転車の有効活用も広がらないでしょう。関連団体などが啓発に努めていますが、なかなか改善する様子は見られません。
日本の場合、格安粗悪なママチャリが市場を席捲しています。メンテナンスや修理をして使おうとすると、かえって割高になってしまう構造的な要因を作っています。これが自転車の使い捨てにつながり、壊れたらすぐ買い替えるのだから、なるべく安い自転車を買おうとする悪循環です。
趣味のサイクリストには同意してもらえると思いますが、ある程度高品質で整備された自転車と、格安粗悪で整備が不十分なママチャリとでは、その乗り心地や楽しさ、快適さにおいて雲泥の差があります。いい自転車をメンテナンスしながら乗る方がいいと思うのですが、それを知らない人が非常に多いという不幸も生んでいます。
メンテナンスの必要性を啓発しているのはヨーロッパなどでも同じです。ただ、EUはあえて高関税を課して、中国などから格安粗悪な自転車が流入するのを阻止しています。産業保護というより、人々の安全が損なわれるのを防ぐ目的です。自転車に対する考え方も違い、環境への意識からも、日本のようには使い捨てしません。
実際にヨーロッパの都市へ行くと、街角に古くて汚い自転車が多くとめられていたりしますが、それは盗難対策の面もあります。使い捨て感覚であれば、むしろそんな古い自転車は存在していないでしょう。日本と違ってメンテナンスをして長く乗る傾向はありますが、メンテナンスがいい加減になりがちなのは変わらないようです。
より良い状態で自転車に乗ってもらうことは、安全面でも廃棄物を増やさない点でも有益です。自転車の快適さや楽しさを感じてもらい、さらに自転車を活用してもらうことにもつながります。環境や渋滞対策、市民の健康増進にもなるわけで、そうした観点からもメンテナンスすることを呼びかけているわけです。
しかし、ただ呼びかけるだけでは効果が上がりません。そこでイギリスでは、各地で一定の期間ごとにイベントが開かれています。“
Dr Bike”による自転車のチェックです。駅前などでプロのメカニックがメンテナンス、診断や調整をしてくれるのですが、これが完全に無料なのです。
ギヤからハンドルバー、ディレイラーからブレーキまで、何でも調整してくれます。もちろん、その場で調整できない不具合、問題もあるでしょう。その場合は、何が問題なのか詳しくアドバイスしてくれます。必要な措置や、一般的にかかる費用なども教えてくれるので、自分で自転車ショップへ持って行くわけです。
一般的な利用者にとって助かるイベントなのは言うまでありません。各地で一定の期間ごとに開催され、しかも無料です。趣味のサイクリストであれば、大抵のメンテナンスは出来ると思いますが、なかには原因がよくわからなかったり、難しい調整など、プロのメカニックに診てもらうメリットは小さくないでしょう。
主催する組織は、診てくれるメカニックは全てフレンドリーで親しみやすく、自転車やサイクリングに関する豊富な知識を持っているので、なんでも聞いてほしいと話しています。このサービスは、“
Cycle Confident”という企業が提供していますが、こうした事業を推進する組織や団体からの助成を受けて無料で行っているのです。
ちなみに、この“
Cycle Confident”という会社は、自転車教育や技術支援、トレーニング、インストラクターの育成などをしています。自転車競技を目指す子どもや青少年だけではなく、一般の市民が、例えばロンドンの街で自転車通勤を始める際に、そのスキルの向上を目指すようなニーズもあるのです。
日本でも、子どもが自転車に乗れるように指導したり、交通ルールを教える自転車教室を提供するような組織はあります。しかし、ヨーロッパでは日本と違って、自転車をスポーツとして捉える文化があります。自転車スポーツもさかんですし、運動としてのスキルの存在を理解する土壌があります。
日本でも何か新しいスポーツや、ヨガとかエアロビクスなどを始める時に教室に通う人はあると思います。そのほうが短期間で上達できたり、その魅力や楽しさがより実感できるようになるなど、いろいろとメリットがあります。自転車もそれと同じです。むしろ知るべき事がたくさんあって、教室に通う意味があります。
日本の場合、自転車に乗るのは単なる移動で、すでに乗れる人がわざわざ教室には通わないでしょう。しかし、ヨーロッパではスポーツでもあり、スキルやノウハウが習得できれば、単に移動するにも楽しくなったり、安全になるなどメリットがあると考えるわけです。このあたりがヨーロッパと日本の違いと言えそうです。
地方自治体なども、積極的にサイクリングのスキルを向上させるトレーニング教室などを開催しています。イギリスでは自転車の技術を教えるための国家資格があり、専門のインストラクターがいるのです。自転車整備教室も含めて、こうしたコースはとても人気があるそうです。
日本では、ごく基本的なこと、例えばサドルを適切な高さにするとか、タイヤを適切な空気圧にするといったことさえ知らない人が大多数です。それを知るだけで格段に快適になるはずです。ペダリングの仕方から、事故に遭わないためのコツや知恵まで、教えてもらえば大きく安全性や快適性が向上するノウハウは少なくないでしょう。
市民が自転車に乗るスキルを向上させ、メンテナンスの必要性を認識し、実際に調整することは、その人自身の安全や快適性、楽しさを向上させます。それが社会としての利益にもなります。社会、あるいは文化的な土壌、自転車に対する理解や姿勢からして日本とは違うと言わざるを得ません。
日本であっても、自転車の品質やメンテナンス、自転車本来の楽しさや快適さを知ることは、社会にとってのメリットになるはずです。それほど変わらないように見えて、彼我の差は大きいものがありますが、少しずつでも日本の自転車に対する考え方を変えていきたいものです。
◇ ◇ ◇
若い世代は重症化しないため危機感がなく感染を広げているとされます。テレビは見ず、SNSでは切迫感がないこともあるようです。若い世代でも後遺症などのリスクがあることを、もっとSNSで啓発すべきではないでしょうか。
Posted by cycleroad at 13:00│
Comments(2)