サービタイゼーションを目指す動きが出てきています。
サービタイゼーションとは、企業が製造した製品をただ販売、売り切りにするのではなく、製品の提供をサービスとするビジネスモデルです。例えば、ソフトウェアで言えば“SaaS”、“Software as a Service”と呼ばれるようなスタイルがそれにあたるでしょう。
パッケージソフトとして店舗やネット通販で売るのではなく、クラウドサービスなどを通してソフトウェアを使ってもらい、その利用権、契約を売るような形です。製品を売って終わりではなく、管理や保守などを含めたトータルのサービスとして提供することで、継続して顧客との関係を築くことが出来ます。
これを、いわゆる製造業でも提供するところが出てきました。例えば、高級車で有名なロールスロイスは、航空機エンジンのメーカーでもあります。従来はエンジンを納品して終わりでしたが、そうではなく、エンジンの利用に応じて費用を払ってもらう契約にしました。
エンジンには各種のセンサーが取り付けられており、リアルタイムで稼働状況がわかります。データを取得、分析して適切なタイミングで修理や点検をしたり、故障する前に予防的に部品を交換するなど、必要な保守メンテナンス、整備の管理が出来るため、顧客側にもメリットがあるわけです。
こうした製造業のサービス化は、建設機械、農機、エレベーター、工場に設置した工作機械など、さまざまな製品に広がっています。製造して販売、納品して終わりというスタイルから、継続して顧客にサービスを提供する関係を保つことで、過度な価格競争を避けたり、業績が安定するメリットがあります。
ところで、自転車メーカーも製造業ですが、今でも製造して販売店や輸入業者、卸売業者などに納品するスタイルのところがほとんどだと思います。一部のメーカーが自転車本体を売るのではなく、いわゆるサブスクリプション型のサービスを試験的に始めていますが、ごく限られた事例に過ぎません。
比較的安い価格帯のシティサイクルなどは、どうしても価格競争になりがちですし、最近はディスカウントストアや量販店で売られることも多いので売り切りにならざるを得ません。こうした自転車を選ぶ人は割高になるので、サービスを含めて買うようなスタイルは選ばないでしょう。
一方、高価格のスポーツバイクの場合は、自転車ショップや専門店を通して販売されることが多いと思います。自転車に詳しい人が多く、販売店との関係を重視することも多いでしょう。これまで、メーカーが直接顧客と接点を持つことはありませんでした。
ところが最近は、あまり自転車に詳しくない人でも、決して安くない価格帯の自転車を買うことが増えてきました。電動アシスト自転車です。ネット通販などで買う人もいますし、近所に適切な販売店が無い人もあるでしょう。売り切りの量販店やディスカウントストアでは修理や保守サービスは期待できません。
こうした状況を背景に、自転車メーカーが顧客に直接、修理や保守サービスを提供するところが登場しました。北米を中心に展開する電動アシスト自転車、e-bikeメーカー、“
Rad Power Bikes”です。2007年に創立された比較的新しいブランドで、ワシントン州シアトルに本拠があります。
電動アシスト自転車や、フル電動でも走る、e-bikeは、決して安くないので修理や保守のニーズは少なくないはずです。バッテリーやモーター回りのトラブルだけでなく、自転車としての部分のトラブルも当然あります。しかし、自分で解決する知識や技術がない人も多いに違いありません。
自社の自転車に限りますが、こうした人向けに修理や保守サービス契約の提供を始めました。補修部品、工具類を搭載した専用のバンで、
技術者が来てくれるサービスです。必ずしも自宅で故障するとは限らないので、必要な時に、必要な場所まで出張してくれます。
一般的なパンクやチェーンのトラブル、ディレイラーの調節から、寒い地域で氷点下20度以下で走行したためのバッテリーのトラブルまで、あらゆるリクエストに対応します。ネット通販で購入したものの、自分で組み立てられなくて困っている人の家にも出張してくれます。
基本的な検査や修理、調整からクリーニングまでさまざまなサービスも引き受けます。顧客に買い替えの希望などがあれば、自社製品の試乗も無料で対応してくれます。地域密着のサービスとなるので、まだ北米の9つの都市エリアに限られていますが、これはユーザーにはありがたいサービス形態でしょう。
近くに頼めるショップが無い人だけでありません。出先でのトラブルに自分で対応する自信がない人も、出張サービスというのは魅力だと思います。ネットやカタログで見るだけでなく、実物に乗ってみたい人、ショールームまで行けない人も含みます。
メーカーとしては、自社の製品を適切にメンテナンスしたり、クリーニングしたりすることで、顧客に安心・快適、楽しく乗ってもらうことにもつながります。顧客満足度の向上に寄与するのは間違いありません。このサービスがあることで、自社ブランドを継続的に選んでもらえたり、口コミも期待できるでしょう。
ちなみに、街の自転車店を排除したり、中抜きしようとしているわけではありません。自転車店は相変わらずビジネス上のパートナーですし、必要な人には地域の信頼のおける自転車ショップの紹介もしています。地元の自転車店での従来型のサービスを受けたい人には、それを遮るものではありません。お客の選択です。
まだ、製造業のサービタイゼーションというまでの事業スタイルではありません。しかし、メーカーがユーザーに直接サービスを提供するという点で、新しい試みと言えるでしょう。日本でも街の自転車店は減っていますので、案外こうしたサービスのニーズは眠っているかも知れません。
最近はサービスとしてのソフトウェア、“SaaS”、同じくプラットフォーム、“PaaS”、インフラ、“IaaS”、モビリティ、“MaaS”など、“*aaS”が花盛りです。もしかしたら、そこに“BaaS”、サービスとしての自転車というスタイルが出てくる可能性もありそうです。
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夜の会食だけでなくランチもリスクとする政府に、昼まで敬遠されたらやってられないと飲食店が反発しています。自粛ではなく、ランチは1人でと広く呼びかけるべきでしょう。1人なら黙って食べるのでリスクも小さいはずです。
Posted by cycleroad at 13:00│
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