自転車は環境への負荷が小さい乗り物です。製造の問題もあるので全く負荷をかけないとは言いませんが、化石燃料を燃やすわけではなく、温暖化ガスも出しません。せっかく環境に優しいのに、頭部の保護のため仕方ないとは言え、ヘルメットというプラスチックごみを出すのは残念です。
今どきはプラスチックごみによる海洋汚染が問題となっていますし、なるべくなら、このヘルメットというプラスチックごみも何とかならないだろうかと考えた人たちがいます。メキシコシティを拠点として活動しているデザインスタジオ、
NOS Design の人たちです。
POLYBION という会社の開発した、“
Fungicel”という素材でヘルメットをつくることにしました。この素材、干し草やワラと、菌糸体で出来ています。菌糸体というのはキノコやカビの仲間で、糸状の菌類です。石油由来の材料などは一切使わない、100%天然素材ということになります。
下の動画にあるように、干し草やワラに菌類と培養する溶液を加えます。すると干し草やワラを巻き込んで菌類が糸状に絡まるように成長し、型に沿って成型されます。素材を切ったり削ったり加工してつくるのではありません。まるでヘルメットが育つように出来上がるわけです。
“
Grow it yourself helmet”、バイオテクノロジーを使って育てるヘルメットというわけです。この素材は、発泡スチロールを代替することを目的として開発されました。発泡スチロールは梱包材などに大量に使われているので、これが天然素材に置き替えられれば、相応の環境負荷が減らせます。
この素材は、人体には無害な生体高分子です。干し草やワラは農業廃棄物なので、これを利用することにより、他の新素材と比べて相対的にコストが安くなるのも特徴です。もちろん梱包材以外にも、音響パネルや建材、インテリア材料、シューズの一部などスポーツ用品にも使うことが想定されています。
写真で見ると、ココナツや椰子の実のような感じにも見えますが、椰子の実では重すぎます。この素材は、菌糸が糸状で網の目のようになるため、小さな隙間が多く軽いのも利点です。一方で強い強度と、高い耐衝撃性を備えているので、まさにヘルメットの緩衝材としてうってつけということになります。
さらに、耐熱性・耐火性もあります。ワラや干し草が入っているので、よく燃えそうな気がしますが、そうではありません。生シイタケを焼いても燃え上がらないのと同じなのでしょうか、菌糸は燃えにくいことと、内部が泡状の構造で、隙間がたくさんあることも理由なのでしょう。
このことは、通気性の良さにもつながります。ヘルメットは蒸れやすいので、この点も大きな優位性と言えるでしょう。まさにヘルメットに持ってこいの素材です。そして何より天然素材なので土に戻ります。埋めれば1ヶ月ほどで堆肥になります。これも発泡スチロールと大きく違う点です。
最初は子供用を想定して開発されました。子どもはすぐ大きくなるので、劣化しなかったとしてもサイズが合わなくなり、何回も買い替えることになります。その都度廃棄物になってしまうわけですが、子供用に限る必要はありません。大人も当然対象となります。
見た目の野暮ったさは否定しませんが(笑)、環境負荷を第一に考える人が増えていけば、これが当たり前になる可能性もあるでしょう。もちろん、大人用にもっとデザインを洗練させたり、色をカラフルにして視認性を上げるようなことも考えられると思います。
そこまで書いてないのでわかりませんが、もしかしたら干し草やワラと菌糸類の入った溶液のセットで売ることが出来るようになるかも知れません。あとは、前もって用意した、サイズや形をカスタマイズした自分の頭用の型枠に入れ、自分で栽培するわけです。
この素材がどの程度劣化するのかはわかりませんが、劣化に合わせて定期的に栽培して使うようなスタイルになることも考えられます。古いヘルメットは観葉植物などの堆肥になるので、自転車の趣味と、園芸の趣味がある人なら一石二鳥です。その点でもなかなかユニークなヘルメットと言えそうです。
生産過程でも生態学的にカーボンニュートラルというのも評価されるでしょう。自転車のヘルメットはプラスチックの消耗品ではなく植物由来、そして自分で育てて使い終わったら堆肥するもの、というのが常識になる時代が来るかも知れません。
◇ ◇ ◇
各国でワクチン接種希望者が増え、期待が高まっています。日本でも少しでも早い接種を進めてほしいものです。
Posted by cycleroad at 13:00│
Comments(2)