警察庁から先週発表された2020年の全国の警察が認知した刑法犯の件数は、前年比17.9%減の61万4303件でした。6年連続で戦後最少を更新しています。コロナ禍での外出自粛の影響もあって、街頭犯罪が大幅に減ったようです。
街頭犯罪とは、ひったくりや自転車盗などですが、減ったとは言え年間20万件弱も起きています。自転車盗も減少傾向ですが、まだまだかなりの数です。サイクリストにとって自転車の盗難に遭う懸念は、依然として大きいと言わざるを得ません。
特にスポーツバイクの場合、数十万円はザラですし、百万円以上するモデルに乗っている人もいます。たかが自転車盗と言う人もいますが、スポーツバイクの被害額は高額です。金額だけでなく、突然盗難に遭えば移動出来なくなって困りますし、愛車が盗まれるのは精神的にもショックでしょう。
格安ママチャリを使う人の中には、汚いから盗る人はいないとか、盗られても大した被害ではないと施錠しない人も多いとされています。しかし、高価なスポーツバイクは換金目的で狙われるので、道端ではなく駐輪場にとめ、厳重に施錠していても盗まれます。家から盗まれるケースも多いと言います。
今はネットオークションやフリマアプリなどで換金出来ることも背景にあります。分解して部品として売られてしまえば、発見するのは困難です。減ったとは言え、件数が多いため、警察の捜査も追いつかないでしょうし、発見されたり検挙されることは稀れです。盗まれたら泣き寝入りするしかありません。
自転車盗は、家屋に侵入せずとも道路上から盗めて簡単に換金できるので、言い方は悪いですが、敷居の低い犯罪と言えるでしょう。たかが自転車盗ですが、少年の非行の入り口になると言われており、凶悪犯罪や治安の悪化にもつながります。社会的に見ても、のさばらせておくのは問題です。
これは海外でも同じですが、国によって、自転車盗の取締りのために、“Bait bikes”を使うところが出てきました。bait はエサという意味です。釣りなどで使うエサと同じ、つまり囮(おとり)の自転車です。“Bait bikes”にはGPSトラッカーが仕込まれており、盗まれたら場所を追跡して犯人の検挙を狙うわけです。
自転車盗取締りにGPSを利用し始めたのは欧米諸国です。今から10年ほど前、オランダでGPSを使った「おとり作戦」が半年間ほど試験的に行われたことを、このブログでも取り上げました。言わずと知れた自転車大国で、同時に自転車盗難大国でもあるため、減らない自転車盗に当局も頭を痛めていたのです。
ベルギーは、このオランダの取り組みを見て導入の議論が起こりました。2016年まで政府は承認しませんでしたが、今年ベイトバイクの本格導入に踏み切ったようです。ベルギー第3の都市、ヘントでは既に導入され、首都ブリュッセルでも配備が始まったと報じられています。
アメリカは、元々各種の犯罪におとり捜査が盛んな国なので、州によっては以前から自転車盗の取締りにも、おとりの自転車を置き、見張って盗もうとした犯人を検挙するような手法をとるところもあったようです。ですが近年は、GPSトラッカーというハイテクを使うことが出来るようになりました。
2015年頃から、このベイトバイクによる取締りが試行錯誤され、全米で導入が進んでいるようです。例えばカリフォルニア州の各都市でも配備され、犯人の検挙につながっています。カリフォルニア大学のアーバイン校などは、独自のベイトバイクまで配置しています。
イギリスでも2008〜9年頃、実験が成功したため、当時のロンドン市長、ボリスジョンソンが首都での導入を承認しました。昨年11月には、この方法で自転車窃盗犯グループが逮捕され、時価数十万円クラスも含む60台もの被害自転車が見つかって話題になりました。
このベイトバイク、日本では、おとり捜査ということになるでしょう。今のところ導入されるとは考えにくい取締り方法です。判例では、おとり捜査は適法だという裁判所の判断も出ていますが、日本の警察捜査ではグレーな手法という扱いになっています。
麻薬犯罪や銃刀法違反、公営競技のノミ行為などに関しては、おとり捜査が認められることもありますが、他の犯罪ではほとんど採用されていません。ベイトバイクが、自転車盗の検挙のための「おとり捜査」ということになれば、導入は難しいと思われます。
以前2013年頃、警官が放置自転車3台を勝手に持ち帰り、それを繁華街などに置いて見張るという事件が起きました。犯罪摘発件数が低調だったため、自転車を盗ませ、それを検挙して成績を上げようとしたのです。警視庁が、配下の警察官を懲戒処分と占有離脱物横領容疑で送検する事態になりました。
これは論外としても、警察がエサをまいて犯罪を誘発するというイメージがどうしてもつきまといます。例えとして適切かわかりませんが、道端に多額の現金を置いておいたら、持ち去ろうとする人が出るでしょう。犯罪をする気もなかった人が、犯罪に誘いこまれてしまいます。
しかし、道端に高価なスポーツバイクがとめられていても、きちんと施錠されていれば、普通の人は盗もうとしないでしょう。それを敢えてロックを壊して盗んだとしたら、それは犯罪の意志を有していたことは明らかです。実際に犯行が行われたことを確認して検挙するのは、必ずしも誘発したとは言えない気がします。
一方で、自転車盗の取締り方法として効率的で、犯人の検挙につながり、イギリスの例のように犯罪被害の回復につながる可能性もあります。実際問題として、自転車窃盗犯の検挙は難しく、野放しとは言わないまでも、被害が出続けているのも確かです。
もし、高価なスポーツバイクが道端に無施錠で置かれていたら、つい盗む人が出るかも知れません。しかし、厳重に施錠しておけば、普通の人は気にもとめず、誘発にならないと思われます。それならば、欧米のように自転車窃盗犯の検挙、被害の低減を目指す方法として、考えてみてもいいのではないでしょうか。
そして、密かに行うのではなく、どこかにベイトバイクを置くということを公表し、大々的に広報を行って注意を呼びかけたらどうでしょう。窃盗犯は、万一ベイトバイクを盗んでしまったら逮捕されるリスクが出てくるため、犯行を思いとどまるケースが増えるのではないでしょうか。
つまり、抑止になります。誘発ではなく抑止になるとするならば、犯罪者になる人が減り、被害に遭う人が減り、警察も手間が減って、社会的なメリットがあります。極端な話、ベイトバイクを置くと広報をして、実際には置かなかったとしても、大きな効果が見込めるかも知れません。
人によって、どう考えるかは違いますから、実際に、この「おとり自転車」を日本でも認めるかどうかという話になれば、議論になるでしょう。しかし、欧米では導入され、成果も出ています。少なくとも導入を議論してみてもいいのではないでしょうか。おとり捜査はダメと思考停止になっていないでしょうか。
実際に被害に遭ったり、日常的に自転車盗のリスクに悩まされているサイクリストは多いと思います。これで自転車盗のリスクが減れば嬉しいと考える人も少なくないはずです。自転車窃盗犯に一矢報いたいというより、自転車盗を割に合わない犯罪にすることは、社会的にも意味があると思います。
私も何でも、おとり捜査をしていいとは思いません。ただ、ベイトバイクは設置方法などを限定して導入する手はあると思います。日本でベイトバイクを知る人は少なく、話題にもなりませんが、興味のある方は是非拡散して下さい。もし、議論になるくらいの認知度になれば、日本でも導入される可能性が出てくるかも知れません。
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いよいよ日本にもワクチンが到着、注射器の形状で1本から6回は無理でも2本で11回はとれないのでしょうか。
Posted by cycleroad at 13:00│
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