これまでも、このブログでは自転車による観光振興や地域振興、インフラ整備や交通安全などに取り組む自治体の事例、報道などを数多く取り上げてきました。2018年には、その名も「自転車を活用したまちづくりを推進する全国市町村の会」が設立され、全国294の自治体が参加しています。
自転車による観光振興だけでなく、住民の健康増進、交通混雑の緩和、環境負荷の低減等により、公共の利益を増進し地方創生を図ろうとする自治体連携です。全国的に広がっていますが、自転車に対する考え方が場所によって、まだら模様なのは否めません。
例えば、雪に覆われる地域では、冬期間の自転車の活用は考えづらいため、現実問題として自転車を活用する町づくりは打ち出しにくいでしょう。北日本の自治体も参加していますが、気候や降雪量の関係で、温暖な地域と違って自転車への関心が高くないのは仕方のないところでしょう。


では、降雪地域で自転車の活用はナンセンスかと言えば、そんなことはありません。その一つの例が北欧にあります。フィンランド中部に位置する同国第四の都市、
オウルです。北緯65度、首都ヘルシンキよりさらに650キロも北にあって、一年のうちの5ヶ月間は雪に覆われる都市です。(ちなみに稚内でも北緯45度。)
そんな街では、冬の間自転車が使われなくても仕方ないように思いますが、
オウル市民は積雪期でも乗る人が少なくありません。通勤や通学、日常の移動に自転車を使います。オウル市民の全ての移動のうち約20%は自転車によるものであり、冬には減るものの、約12%もあります。ヘルシンキの約9%も上回っています。

最近ヨーロッパの都市では自転車に乗る人が増加傾向にあるとは言え、例えばロンドンでは、市民の全ての移動に占める自転車の割合は約2%です。さすがに自転車大国のオランダ、アムステルダムの50%やコペンハーゲンの約33%に比べれば低いですが、ヨーロッパの一般的な都市を大きく上回ります。
積雪の中でもこれほどオウル市民が自転車で移動するのは、市が自転車インフラとそのメンテナンスに力を入れていて、雪が降っても自転車が便利だからです。市は、自転車の活用を明確に打ち出し、自転車と歩行者を優先したインフラを整備してきました。

いつも朝の通勤時間前には、すべての主要な自転車道が除雪されています。市の担当者も、クルマ向けの除雪よりも優先されると明言しています。除雪車の運転手は、自分で自転車で走ってみて除雪状態を確認することまで義務付けられており、本当に市民のためになる除雪を行っています。
自転車で通勤している市民の中に委嘱された人がいて、除雪状況を評価し、特に小さい道まで除雪が維持されているか定期的に報告することになっています。この評価によっては、市が委託する除雪業者にボーナスを出すことになっているので、雪でも走りやすくなるのです。除雪状況の情報はネットでも提供しています。

寒ければ氷点下30度にもなるというオウルの気候も影響していますが、寒いぶん雪質が良く、圧雪となって、かなり良いグリップが得られると言います。融雪のための塩などは使っておらず、除雪するだけですが意外と滑りにくく、スタッドレスなどの冬用タイヤを使用する人は3分の1に過ぎないそうです。
11月から4月の初めまでは気温が氷点下、1月や2月は平均気温が−10度を下回りますが、みぞれ混じりの雪より、かえってサイクリングに適していると市民は感じています。泥ハネとかもなく、夏場のアスファルトを走行するより快適だとする市民も少なくないそうです。

5ヶ月雪に覆われますが、オウルは一年中サイクリングに適した都市だと、市は世界に向けて発信するほど自信を持っています。2013年には、“
Winter Cycling Federation”という組織を立ち上げ、オウルでは史上初の、“Winter CyclingCongress”というイベントも開催しています。
オウル市は、1960年代に都市交通計画を策定しました。その時、アメリカ・ニューヨーク式の街路を整備する計画が提出されましたが、先見の明のある当時の責任者は、これを退けました。代わりに、歩行者やサイクリストを優先する計画を採択したのです。世界がモータリゼーションという時代に、これは英断です。

オウル市内で、自転車は最も直接的なルートを辿れますが、クルマは迂回する形になります。最近でこそ、ヨーロッパの多くの都市が、自転車を活用することで渋滞を緩和し、騒音や大気汚染を減少させ、住民の健康増進を目指していますが、オウルははるか昔から、これを見通していたことになります。
都市の地形や成り立ちもありますし、道路の形状までオウルの例に習うのは難しいかも知れません。しかし、決断さえ出来れば可能だと言います。多少の道路の改修をすれば、例えばパリが2018年からの1年間で自転車の数を倍増させたように、自転車に優しいインフラにすることは可能だと市の担当者は指摘します。(動画参照 ↓ )
首都のヘルシンキでも、全ての移動に対する自転車の割合を現在の9%から2035年までに20%にする計画です。これはカーボンニュートラル計画の一部でもあります。インフラ投資が必要ですが、ヘルシンキが自転車インフラに1ユーロ費やすと、市は8ユーロの利益を得ることになると計算されています。
自転車先進都市として有名なコペンハーゲンでも雪が積もりますが、自転車レーンを優先して除雪することで、人々が冬でも安心して自転車を使っています。36%の人が冬でも自転車で通勤・通学する都市ですから、これが除雪されなかったら、大混乱でしょう。当たり前のように除雪しながら自転車を使っているわけです。

気候は都市ごとに違いますが、年間を通して人々が自転車に乗れるようにするのが前提であり、それは積雪地帯でも同じです。雪が積もるから自転車の活用が出来ないとは考えません。自転車は持続可能で独立していて、コストパフォーマンスが良く、何より素晴らしい手段であり、使わない手はないと考えています。
世界的に見ても、最近は雪に強いファットバイクが普及してきたことにより、積雪の中でも自転車に乗る人が増えています。電動アシストゃ、折りたたみのファットバイクなど、バリエーションも広がっています。ファットバイクならば、オウルのような雪質でなくても自転車の活用は可能でしょう。

オウル市の担当者が指摘するように、積雪地域でも冬場も含めた自転車の活用を考えてみる価値はありそうです。どうしても冬に家にこもりがちな雪国の市民の健康増進にも寄与するでしょう。むしろ日本では、冬の自転車の町を目指すという話は聞かないので、観光など他との差別化の観点からも面白いかも知れません。
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震度6強の地震の被害は各地に及びましたが、津波が無く避難所が密にならなかったのは不幸中の幸いでした。
Posted by cycleroad at 13:00│
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