異業種やベンチャーなどによる電気自動車・EVへの参入です。アップル・カーの噂は絶えませんし、中国のスマホ大手、ファーウェイや小米(シャオミ)、IT大手のバイドゥ(百度)やアリババなども検討を始めています。日本でもソニーが試作車を発表したり、出光興産が参入を表明したりしています。
台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業などのファウンドリ、受託製造企業も、EVの製造業EMSを目指しています。これまで、iPhoneを受託製造してきたのと同じスタイルをEVで確立しようというわけです。こうした製造に特化したEMSによるプラットフォームが出来れば、ベンチャーでもファブレスでEV参入が可能になります。

EVはエンジンの技術が不要ですし、ガソリン車に比べて部品点数も少なく参入が容易とされています。EMS企業はスマホ依存から脱却できますし、スマホのように製造を握ることで、各ブランドの生産を担って、クルマメーカーをしのぐ存在になれる可能性があります。
世界中の既存のクルマメーカーも、脱炭素の観点から続々EVへシフトしようとしています。世界中でEVのマーケットが注目されているわけで、何らかの形でEV開発に関わろう、参入しようと考える企業が続出するのも当然と言えば当然なのでしょう。

しかし、ドイツのベルリンを拠点とする都市型モビリティのスタートアップ、“
ONO”は違います。メルセデスやフォルクスワーゲンなどクルマメーカー出身のデザイナーやエンジニア、元EV開発の責任者らが創設した企業ですので、当然EVかと思えば、
e-cargo bike、電動アシストのカーゴバイクを開発しています。
それも商用に特化した、e-カーゴバイクです。とてもスタイリッシュなカーゴバイクですが、これを物流網のいわゆるラストワンマイルを担うモビリティとして、物流企業などに供給することを目論んでいます。つい先日も新しく300万ユーロの出資を受け、この新しい輸送モビリティを普及させようとしています。

乗用車と比べ、トラックのEV化は難しいと言われています。重い荷物を運ぶためには大きな電力が必要になりますが、それを賄うためにはバッテリーの重量が重くなるという悪循環があります。かと言って、各国が脱炭素社会の構築を目指す中で、トラックだけCO2を排出し続けるわけにもいきません。
これまでも取り上げていますが、ヨーロッパではディーゼル車の排ガスなどによる大気汚染が問題となっており、EU全体で、年間50万もの人がこの影響で死亡していると分析されています。排ガスで有害なガスや粒子状物質を出さないことも喫緊の課題です。

ヨーロッパの都市では、すでに物流企業が届け先へのラストワンマイルにカーゴバイクを使い始めています。環境に対する意識の高い人が多いこともあり、少しでも排ガスを撒き散らすトラックによる配送を減らす必要があるのも一因です。企業イメージの問題も小さくありません。
ONO 社の判断は、難しいトラックのEV化を目指すより、電動アシストのカーゴバイクを普及させるほうが現実的というわけです。すでに物流企業ではカーゴバイクが使われており、ニーズはあります。そして、これまでのカーゴバイクから置き替えが起きるようなモビリティならば売れると考えたわけです。


見てすぐわかるように、トラックのようなキャビンがあります。ライダーが雨でも濡れません。欧米人は日本人ほど雨に濡れることを嫌いませんが、それでも濡れないのは大きなメリットです。キャビンがあって、運転手が囲われることで、安全性も大きく向上します。安心感もあるでしょう。
あくまでも自転車です。幅も自転車の幅ですので、自転車レーンを走行できるのも大きな利点でしょう。欧州には自転車レーンのある都市は少なくないので、渋滞しているクルマを横目にスイスイ走行できます。小回りもききますし、トラックよりも早く配送できるケースも多いでしょう。


荷台がコンテナ式になっているのも特徴です。幹線部分の輸送はトラックでコンテナをまとめて運ぶことも可能で、積み替えの手間を省けます。コンテナのロックやロック解除、コンテナドアの開放、コンテナの車両からの切り離しなどは電子制御でワンタッチです。コンテナを1分で積み替えて出発できます。
コンテナは自転車の幅に合わせてコンパクトですが、相応の容量があります。もちろんトラックと比べれば小さいわけですが、必ずしもそれが弱点になるとは限りません。トラックならば、荷物を全て積んで出かけられるのを、何度も配送拠点に戻る必要が生じますが、必ずしも不利ではありません。


一般的に宅配業者のトラックは、実は荷物を満載しているわけではないと言います。荷物が満載でなくても、同じ大きさのトラックで出発します。e-cargo bike のコンテナはコンパクトですが、トータルで考えれば空で空気を運ぶ割合が少なくなり、かえって効率的になるケースも少なくないでしょう。
なんと言っても省スペースなので、駐輪して荷捌きをする場所を確保するのが容易です。トラックの場合、特に道路が混雑している都心部では、まず駐車スペースを探すのが困難です。場所や時間帯によっても違うので一概には言えませんが、配送時間のかなりの部分が、駐車場所を探したり、空くのを待つ時間になると言います。
(動画参照)
道路の端にとめるにしても、幅が狭いぶん、他の交通への邪魔になることも少ないはずです。狭い道路でトラックが停車して荷物を降ろしているため、後続のクルマが渋滞して迷惑になることも格段に少なくなるでしょう。企業の看板を背負ったトラックが、渋滞でイライラする人たちの目の敵になる確率も減ります。
コロナ禍だけでなく、その前からのネット通販の増加によって、宅配する荷物量は増える一方です。トラックの運転手が足りず、人手不足に陥る地域もあります。でも、カーゴバイクなら運転免許が不要なので、トラックの運転が出来ない学生や主婦などのアルバイトでも乗れます。この点も大きいでしょう。


共通のバッテリーパック式ですので、日中何度も配送を繰り返して充電が切れそうになっても、バッテリーパックを交換するだけ、充電する時間はとりません。メンテナンスも含めて、リース契約するスタイルも用意されています。必要に応じて台数を増減させられて便利でしょう。
国によりますが、環境に配慮した政府の補助金などが使えるケースも少なくないようです。これもトラックにはない利点です。コンテナの積載量は約2立方メートル、積載量は最大200kgです。アシストは時速25キロまで、航続距離は30キロ程度、バッテリーを2つ積んで倍にすることも出来ます。

ドイツの大手クルマメーカーの元EV開発の責任者らが起業して、e-cargo bike というところがユニークですが、都市での輸送や環境に、より役立つとの確信があるに違いありません。わざわざライバルの多いEVへの参入より、ラストワンマイルに特化したほうがビジネス的な旨味もあるとの判断なのでしょう。
脱炭素イコールEVだと、EV参入を目指す企業は多いですが、むしろ自転車のほうが役に立つし、実用的という視点は注目すべきだと思います。自転車のデザインを工夫し、活用を広げることで、もっと社会に貢献できる部分は、探せばまだまだあるのかも知れません。
◇ 日々の雑感 ◇
政府にとってラクな対策、国民に自粛を呼びかけるだけでは、もはや限界、徹底的検査をして無症状者を隔離する、医療崩壊を防ぐため大幅に病床を増やす、ワクチン接種をもっと早めるなど、やるべきことがあるはずです。
Posted by cycleroad at 13:00│
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