2050年のカーボンニュートラルを目指しての、温暖化ガスの排出削減目標です。バイデン政権になったアメリカがパリ協定に復帰したことで、脱炭素社会を実現するための国際的な機運が盛り上がっています。世界的に気候変動対策を強化する傾向が見られます。
温暖化ガスの排出を、差し引きで実質的にゼロとするわけですが、決して簡単なことではありません。石炭・石油などによる発電は当然減らさざるを得ませんが、全てを再生可能エネルギーで代替するのは困難です。鉄鋼生産などでも大量に排出されますが、製鉄をやめるわけにもいきせん。
輸送分野でも実際問題として、クルマを全てEVにするのは困難と言われています。生産段階でもEVはガソリン車よりも多くのCO2を排出します。発電手段によっては排出削減になりませんし、トラックやバスなどのトルクの必要な車両のEV化は困難とされています。
航空機は充電式というわけにいきませんし、製造業も、オフィスも、家庭も排出ゼロは現実的でないでしょう。畜産などでも意外に多くの量が排出されています。そこで、さまざまな形でオフセットする方法を開発すると共に、少しでも省エネを進めるなど、あらゆる分野での工夫が求められることになります。
再生可能エネルギーを増やすにも、洋上風力発電やメガソーラーが設置できる適地は限られます。新しいビルに太陽光発電パネルを取り付けるとか、住宅の屋根の太陽熱利用を進めるといった細かな電源を積み重ねたり、それらを有効活用するためスマートグリッドを普及させるなど、さまざまな取り組みが必要になるでしょう。
家庭ゴミや産業廃棄物などを焼却する際にも多くの排出ガスが出ます。建物の解体処分などによる排出も無視できません。それらの減らしきれない分を含めて、プラスマイナスゼロに持って行くのですから大変です。減らせるところは、少しでも減らしていく努力が求められるでしょう。
いろいろな試算がありますが、クルマを運転する代わりに自転車を使えば、一人当たり年間2.5トン〜3トン削減できるとされています。個人が日々の生活で出来るリサイクルを、どんなに頑張っても、最大0.2トンにしかならないのと比べて、これは小さい数字ではありません。
欧米では、今般のコロナ禍で自転車を利用する人が急増した場面で、急ごしらえの自転車レーンを設置する動きが拡大しました。もちろん、人々のニーズに応えるためもありますが、中長期の視点から、温暖化ガスの排出削減にもつながることが急拡大をもたらした側面もあるでしょう。
その後も、臨時のレーンを恒久化したり、自転車レーンを拡幅するためクルマ用の車線を減らしたり、自転車道の整備を前倒しするなどの政策を進める自治体が大幅に増えています。クルマの渋滞対策にもなりますし、排気ガスによる大気汚染対策、居住環境の向上という観点もあるようです。
日本でサイクリングロードと言うと、河川敷などにあって休日に走る場所というイメージですが、欧米諸国には、自転車レーン以外にも専用の自転車道が少なくありません。通勤向けに都市と近郊をつないだり、ヨーロッパでは、自転車だけでEU域内を旅行できるくらい都市間の自転車道がネットワークされています。
そうした自転車道は、今後も整備・拡充されていくことになるでしょう。日本で自転車と言うと、最寄り駅か近所のスーパーまでの足ですが、欧米では実用的で現実的な都市交通の手段と見なされています。自転車文化の違いもありますが、自転車は補助的なものではなく、単独で成り立つ移動手段として使われているのです。
さて、そんな自転車道に対し、ドイツの建築家、
Peter Kuczia さんは、“
Solar Veloroute”というコンセプトデザインを発表しました。自転車道を単なる道路だけではなく、発電インフラとしても活用しようという構想です。今後の自転車道の整備、拡充を見据えています。
自転車道に、太陽光発電パネルの屋根をつけてしまおうというアイディアです。私有地の利用推進は簡単ではありませんが、公有地である自転車道は、太陽光発電のスペースとして有効活用しようというわけです。利用する人にとっても、雨や雪、風、日差しを避けることが出来るというメリットがあります。
例えば、自転車先進国デンマークのコペンハーゲンでは、雨が降ろうと雪が積もろうと自転車で通勤する人が、全体の45%にあたる50万人、冬季でも36%の40万人に上ります。そのため市当局は雪が降ると、早朝から車道よりも優先で自転車道の除雪をします。使えなかったら交通が大混乱になるからです。
そうした都市にとっても、有力な選択肢になりうるでしょう。発電量としては必ずしも大きくならないかも知れませんが、街灯、街角の充電ステーション、WiFIスポットなどに電力を供給することも可能です。送電には大きなロスが出ることを考えれば、発電所から送電するより有利になります。
日当たりにもよると思いますが、この“Solar Veloroute”1キロあたり、約2千MWhの電力が供給できる設計になっています。これは750世帯の電力、または1千台のEVを年間1万1千キロ走行させられる電力量になります。天候によって補完は必要としても、消費地に近い発電スボットとして有力な選択肢でしょう。
都市部での設置を考えて、無反射ガラス素材のソーラーパネルを利用する仕様です。これまでにも、自転車道の舗装面をソーラーパネルにしようという構想はありましたが、屋根をつけてしまおうというのは、ありそうで、あまりなかったコンセプトと言えるでしょう。
もちろん実現に向けては、技術的な検証や具体的な設計、費用や施工の実現性などが求められるでしょう。ただ、このようなコンセプトを提示することで、都市や行政の担当者、設備メーカーなどに対し、次世代の自転車道整備計画へのヒントや啓発になるでしょう。
このアイディアが具体化するかはともかく、少しでも再生可能エネルギーの発電量を積み上げる、一つの手段になりえます。クルマから自転車への乗り換えを促す効果も見込めるでしょう。欧米の自転車道には、将来屋根がついていくことになるかも知れません。
◇ 日々の雑感 ◇
ようやく今週からワクチン接種が本格化との事ですが、EUでは既に2023年分までワクチンを確保したと報じられています。政府は今年の分だけでなく変異種用も含め来年以降の分の調達を早急に進めてほしいものです。
Posted by cycleroad at 13:00│
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