たくさんありますが、その中で、あまり知られていないものの一つに「集団登校」があります。小学生が朝、列をつくって学校へ行く、あれです。地域によって、あるいは学校によってはスクールバスでの通学だったりすると思いますが、日本中で一般的に見られる朝の光景でしょう。
戦後のモータリゼーションで交通戦争と呼ばれた昭和30年代に、登下校する児童の安全を確保するのが目的で始められました。歩道やガードレールの整備が追い付かなかったので、まとまって行動して目立つことで安全を確保しようとしたようです。その後、児童を狙った誘拐や性犯罪などから保護する目的も加わりました。
上級生がリーダーとなって、下級生まで一緒に、児童だけで登校するのが一般的だと思います。交差点などで地域の大人が見守りに立つ地域もあります。小学校の高学年と低学年では時間割りが違うので、集団下校は難しいですが、最近は犯罪も起きていますので、朝だけでも集団登校のほうが、親にとっても安心感があるでしょう。
日本では、小学生が一人で下校していたり、中には一人で電車に乗って登下校する小学生を見ることも珍しくありません。それだけ治安がいいわけですが、諸外国ではおよそ考えられません。治安の問題だけでなく、育児放棄や虐待と見なされて通報されてしまう国もあります。
多くの国では、親が送迎するのが一般的です。児童一人で通学することは、まずありません。外国人が日本に来て、小学生が一人で歩いているのを見て驚くのも無理はありません。スクールバスで送迎するところもあります。スクールバスならば、少なくとも運転手がいますし、乗ってしまえば一定の安全が保たれます。
1990年代になると、海外でも日本の集団登校スタイルを取り入れるところが出てきます。海外では集団登校とは言わずに、“Walking bus”などと言います。スクールバスの代わりの、歩いて通うバスというイメージなのです。運転手の代わりに2人くらいの大人が前後を歩いて引率します。
これならば、スクールバスの経費を省けます。児童の居住地がちらばっている場合、スクールバスのルートを設定するのも簡単ではないでしょう。あちこち回れば時間がかかりますし、分ければ台数が必要になります。ウォーキングバスなら、地区こどに編成すれば問題ありません。
主に保護者が引率をする必要がありますが、地区ごとにある程度の人数がいれば、交代での負担は大きくないでしょう。児童に実地で交通安全を学ばせたり、地区住民同士の連帯感が高まるといったメリットもあります。地域にもよりますが、欧米を中心に各国で導入されています。
(Walking bus のバス停=集団登校の待ち合わせ場所)
集団で歩くのを「歩くバス」と見立てたネーミングですが、日本の集団登校の概念を踏襲したわけです。グループ登校などと呼んでもいいわけですが、スクールバスが一般的だったため、それを歩きで行うとしたほうが、イメージしやすく、名前だけで理解できるからでしょう。
さて、近年は、“Walking bus”を発展させて、自転車で集団登校する国、地区が出てきました。歩くのではなく、児童も引率者も自転車に乗ります。まとまって登校するのは変わりません。こちらは、“School bike train”と呼ばれます。列車のように、自転車が連なって走行する姿を表しているわけです。
地域によって、“Cycle train”とか、“Bike bus”と呼ばれたりしますが、要は自転車に乗った集団登校です。集団自転車登校とでも呼ぶべきでしょうか。ニュージーランドはオークランドの、
Point Chevalier School という小学校でも数年前から、地区の保護者が、「
通学自転車トレイン 」を立ち上げています。
これによって、保護者がクルマで送迎する必要がなくなり、地区の朝の交通渋滞が減りました。子供たちに、自転車の交通ルールを教える絶好の機会にもなっています。ルールを学ぶだけでなく、どのような危険があるか、どう身を守るべきか、実地で学ぶことで、子供たちの安全性が高まり、スキルが向上します。( ↓ 動画参照)
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朝、授業の前に自転車に乗ることで目が覚め、脳が活性化して、ウォーミングアップのような効果も出ています。よく、自転車通勤を始めた人が、朝から仕事がはかどるなどの感想を持ったりしますが、同じような効果があるのでしょう。モチベーションを保つため表彰する仕組みなどもあり、子供たちにも楽しいと大好評です。
子供たちはヘルメットをかぶり、蛍光色のベストを着たり、反射素材のバックパックカバーなどを取り付けます。スピードは出さず、止まる時には後ろの子が追突しないよう、ストップと声をかけるなど、独自のルールも決まっています。交通量の多い交差点では、引率の大人がクルマをストップさせるなど、安全に配慮します。
この、“School bike train”には、オークランドの“
Auckland Transport ”という公的組織もサポートしています。子供たちの自転車の状態をチェックしたり、ベストやバックパックカバーなどを支給したり、子供たちの交通トレーニングに対する支援までしてくれます。独自のトレーニングプログラムも提供しています。
例えば、クルマが脇道から出てきた時の対応を教えるために、スタッフがクルマでダミーの走行をして子供たちのテストをしたりします。実際に児童が住んでいる地区で、こうしたトレーニングを行うことで、通学時以外にも安全に自転車に乗る能力を身につけるわけです。
引率の保護者にとっても、子供たちと一緒に朝を過ごす貴重な機会になっています。このバイクトレインが地区の住民の親睦や、子供たちのコミュニティの醸成にも役立っています。バイクトレインの子どもが土曜にも集まって、チームを作ってサッカーを始めたグループもあります。
こうした自転車集団登校を取り入れているのは、ニュージーランドだけではありません。例えば下の動画は、アイルランドとイタリアの事例です。そして、どの国・地区でも、自転車での集団登校を取り入れるのは、スクールバスを廃止したり、親の送迎の手間を軽減するだけが目的ではありません。( ↓ 動画参照)
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子供たちの自転車の安全に対する知識やスキルを向上させることが大きな目的の一つとなっています。単に教室でスライドを見せたり、交通ルールを学ぶような眠くなる授業とは、効果が大きく違います。実際に住んでいる地区で、実地に経験し、スキルアップすることが出来るのが大きなメリットです。
日本でも、こうした自転車に乗っての集団登校、地域によっては行われているかも知れませんが、私は寡聞にして知りません。もともとは日本で始まった集団登校ですが、海外へ渡って“School bike train”という大いにメリットのあるスタイルに発展しています。( ↓ 動画参照)
これは日本へ逆輸入してもいいのではないでしょうか。もちろん、地域によって可能な場所と無理な場所はあるとしても、小学生が交通ルールを知らず、危険な走行をしているケースは、日本に無数にあるでしょう。集団自転車登校を取り入れるメリットは小さくないと思います。
◇ 日々の雑感 ◇
いずれにせよ緊急事態宣言など気にもせずに感染するような人は一定数います。たった3%しかないコロナ病床を少し増やしさえすれば、飲食店等を廃業に追い込むような宣言を続ける以外の方法があるような気がします。
Posted by cycleroad at 13:00│
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